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密会

【祝】連載開始5周年!

 宿泊区画の角部屋の前で、ピコンはノックできずに固まっていた。


「……平気だからー。今は朝だもんねー。何もーあるわけーなーいーかーらー」


 その割には朝からたっぷり長湯していたし、普段はしていないというのに薄っすらと化粧もしている。


「あぁー、でもどーしてあの二人には内緒なのー。セー実な人だしー。そんなことないしー」


 ぼそぼそと独り言が続く。そんな彼女の背後から音も無く近づく者がいた。背後1m位まで接近を許した頃、流石に気配に気づいた様で、バッと振り返る。


「ひぁあー違うのー! ごめんなさいー! 実は期待してたりとかありませーんー! ……あれー?」


 彼女の背後にいたのは治安維持の為に巡回している全身鎧の甲冑であった。

 足の裏は勿論、甲冑の要所要所にゴムを用いることで高い消音性を実現したのだ。ちょっとオーバーテクノロジーかも知れないが天然ゴムくらいならそれ程ハイコストではない。お休み中の冒険者達を起こさないよう、騒音対策もバッチリである。


「ふぁー、びっくりしたー。もー私ったら誰にあやま……」


 ガチャリとドアが開く。


「ピコンさん? あの、朝も早いのであまり騒ぐのは……とにかく中へ」


 いくらダンジョン製のドアの密閉性や遮音性がよいとは言っても、直ぐ前で騒いだりすれば中にも伝わったようだ。


「ひっ、は、はいぃー! ごめんなさいー」


 緊張とトラブルの連続でパニックになっている。

 だけど一先ず部屋に入ることは成功した様だ。



◇◇◇◇◇



 二人は備え付けの小机を挟んで向かい合って座った。


「あの、おはようございます」

 

「お、おはよーございますー。私はー。えーと、さっきのはですねー……あぅー」


「とにかく落ち着いて下さい。さあ、深呼吸して。お茶もどうぞ」


「ふぁ、ふぁいぃ」


 すーはーすーはーと大きく肩を上下させている。

 ところが、ある程度落ち着きを取り戻してくると、今度は顔を真っ赤にして涙目になり始めた。


「あー、朝早くに呼びつけておいて申し訳ないのですが。時間も少ないので手短にお話ししてもよろしいですか?」


 ピコンはカクカクと首を縦に振るのが精一杯のようだ。


「……その、ですね」


「……」


「……あ、その前に、チヤちゃんのための買い物の件はご一緒しても大丈夫ですか?」


「……あっ……それはー、よっょ、よろしくぉ願いしますぅ」


「良かった。その時になんですが、ちょっと僕の買い物に付き合って欲しいんです」


「か、買い物ですかー? ふぅ。そーゆー事でしたらーはいー」


「ありがとうございます。助かります」


 ピコンも大分落ち着きを取り戻して来た様だ。

 心なしか残念がっている様にも見えるのはただの先入観からだろうか。


「ちなみにですけどー、いったい何を買うんですかー? 一人で来て欲しいーなんてー」


「……エリシーに、ペンダントを買うつもりです。女性の意見を聞きたくて」


「……え。それはーそのー……おめでとうございますー。え、えへへー。あははー」


 あぁ、残念。ピコンが可哀想な感じになっている。

 おそらくこの地方ではペンダントを異性に送る事には特別な意味があるのだろう。

 アレンよ……それはかなりの悪手だと思うぞ。


「ピコンさん? どうしました?」


「……いえいえーなんでもありませんよー。あはははー」


「……それで、何時頃なら都合がいいでしょうか? 決心が鈍らない内に決めたいですし」


「ぅ、うぅー。そーですよねー。思い立ったら即行動ー、大事ですよねー。……20日後ならー、それ以降の日なら5日間くらいダイジョーブですよー」


「20日後ですね……分かりました! 町に付いたらギルドに伝言を残しておくので、日時や場所については後で決めましょう」


「……はい」


「流行のデザインとか分からないんで助かります。そうだ、買い物が終わったらお礼に夕飯をご馳走しますよ。良い店を知ってるんです」


「……あのー、はぃ。とっても楽しみですー。あの、二人が起きてきちゃうのでー、部屋にもどりますねー」


「え、あ、そうですね。あまり御持て成し出来ずにすいません。それではまた、町でお会いしましょう」


「……それではまたー。失礼しますー」


 アレンが一仕事終えた様な晴れ晴れとした表情で見送る中、ピコンは逃げるように退室していった。


「ふぅ……。ぐず。ふぇーん、私のバカバカー」


 ――どうやら朝っぱらから2回目のお風呂タイムの様だ。

 人目を気にするように、曲がり角の先を気にしながらトボトボ歩く姿が不憫だ。


 まあ、それはそれとして、なにやらアレンも積極的にアプローチするつもりのようだ。告白なのか、プロポーズなのか……。

 僕の方でもアシストの方法を考えてみるとしよう。エリシーの心がダンジョンから離れてしまう可能性があるとしも、アレンが不甲斐無さ過ぎるとマリーナが焦れて強攻策に出かねない。

 少しずつダンジョン経営の基盤も出来始めていることだし、二人の為に魔力を使うのもいいだろう。



◇◇◇◇◇


 とは言ったものの、この世界でのロマンチックなシチュエーションなんて直接聞くわけにもいかないわけで……一先ずは日常常務もこなしながらエリシーの動向を観察することになる。 


「キャスさん、依頼書を持って来ましたよ」 


「ありがとうございます。……今は受付待ちの人も居ませんし、ここで処理しちゃいますね」


 キャスはエリザから依頼の受理や達成処理などの権限も受けている。

 僕からの依頼関係やモンモンデルの町に戻らずに依頼完了としたい一部の冒険者の対応のみであるが……たまにポンコツだが、基本的には優秀な娘だ。

 依頼書の束に目を通しながら、慣れた様子で掲示用の用紙に必要事項を記入していく。


「今回は常設依頼なんですね。水に屑鉄、貝殻、粘土……こんなものを集めて、いったい何をするんですか?」


「私もマスターの目的は把握してないんです。これで何か作れそうですか?」


 これらは最近思いついた産業のための資材だ。ダンジョン産の創造物は持ち出しできないが、ダンジョン内で精製したり加工したりしたものについては持ち出せるのではないかと思いついたので、役に立ちそうで手に入りやすそうなものを入手してみることにしたのだ。

 例えば、巨大な石鍋を作って火のエレメントで熱せれば不純物の混入無しに鉄を溶かせるだろうし、残渣や上澄みを取り除いたりも容易に出来る。もしも高純度の鉄を精製できれば付加価値の高い商品になるだろう。

 貝殻から石灰を作ることが出来れば色々と活用できるだろうし、粘土はレンガや陶器に出来る。そして温度や湿度の管理も万全に出来できて、それらはダンジョンの外で消えてしまうようなものではない。

 ダンジョンを取り巻く状況がどのように転ぶか分からないのだから、鉄貨を支払って色々と入手できる今の内に試してみたい。


「えーと、私もそういうのには詳しくなくて……報酬の鉄貨のレートとしてはちょっと安めかもしれませんけど、当面は問題ないと思います」


 報酬はハーディング商会の商品金額や冒険者達の生活の様子を見ながら決定した。

 大きく外していないようで安心だ。


「ただ、一日に報告できる最大量を決めたほうがいいかも知れませんね。馬車に満載の荷物が納品されたりしたらダンジョンマスターさんも困ってしまうかもしれませんから」


 僕それでも構わないけれど、いや、鉄貨がインフレするのも良くないかもしれない。

 一先ずは様子見か。


「はい、マスターに報告しておきます。でも取り合えずは掲示板に出しちゃって良いみたいだからお願いします」


「分かりました。では、こちらが契約の控えですので、ダンジョンマスターさんに渡しておいてください」


「はい、ありがとうございます」


 エリシーは薄い紙束を受け取り、皮製のブリーフケースに丁寧に仕舞いこんだ。

 ちなみにそれもダンジョン製であったりする。


「それにしても、ダンジョンがどんどん発展していくのは見ていてワクワクしますね」


「はい。マスターに助けて頂いてからは本当に目まぐるしいくらいですけど、私もその力に成れると思うと苦にならなくて」


「宿泊施設の方も改良されるみたいですし、どんどん冒険者さんを呼んで森の開拓ペースもアップです」


「……え、そんな話もあがっているんですね。知りませんでした。個室の掃除は私達の仕事ですし、事前にお話くらい頂けるとは思いますけど」


 宿泊施設改築の予定なんて無いが……大体、現状でも部屋の使用率は最大でも50%程度にコントロールされていると言うのに追加改造や増築の予定などある訳ない。

 特に不満の声が多い訳でもない。


「あれ? 昨晩アレンさんが言ってましたよ? 調べたいことがあるから朝まで個室を使いたいって。エリシーさんはご存じないんですか?」


「いえ……特に聞いていないです。マスターからの指示なら私にも伝わっていると思いますけど……」


 さてはアレンめ、ピコンとの密会のための部屋の予約理由を適当にでっち上げたな。いや、曖昧にはぐらかしたらキャスが勘違いしたのか。


「それなら、アレンさんはいったい何のために部屋を借りたんでしょう……アレンさんは昨晩はご自分の部屋で休まれたんですか?」


「いえ、部屋には……私が起きている間には戻っていませんが」


「……と、ところで、私の方でもダンジョンマスターさんに確認したいことが出来ました。今から会議室に行こうかと思います」


 キャスが不自然な話題転換を始めた。


「え、はい。分かりました。私の方から確認しましょうか?」


「いえいえ。ちょ、直接確認したいことなので、急で申し訳ないんですけど」


「……? では手続きの方はお願いします。私も仕事に戻りますんで」


 エリシーが立ち去ったところで、キャスもギルドカウンター内のドアから廊下に入り、そのままドアに背を預けて大きくため息を吐いた。


「ふぅ。アレンさん……無断朝帰りとか勘弁ですよぉ。まさか浮気じゃないですよね……。あぁもう! エリシーさんが戻る前にダンジョンマスターさんに何か質問しないと!」


 アレンとエリシーは恋愛関係にあるわけではないが、周囲の者は皆分かっているのだ。

 それにしても、二人はまだ若いのに甘酸っぱさが欠片もないのは如何なものか。

 さて、日本では鉄板デートスポットと言ったら何だろうか。

どうもお世話様です。

サボっててすみません。

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