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ギャンブルなんてどうでしょう

 さて、プルの実10個、木の苗(種類不明)、腐葉土……。冒険者ギルド経由で手に入れた品々だ。実からも苗からも生命力を感じたため依頼達成確認の報告はギルドに行っておいた。

 拳よりも一回り小さいプルの実は、確かにチヤの言ったように見た目はリンゴの様な鮮やかな赤色だ。折角だから一つ食べてみる。


 ……。


 創造したナイフで切ってみると中身は真っ青で、ちょっと毒々しい。

 味の方は……うーん。例えるならキウイフルーツとサクランボを足して2で割った様な感じだ。食感はモモ。見た目以外は全然問題ない。

 中には大きめの種が6個。上手く発芽してくれるだろうか。


 取り合えず、苗木が死んでしまわないように先に鉢に植えるとしよう。

 一本は創造した水と腐葉土、もう一本は創造した水と外部の腐葉土、最後の一本は外部の水と腐葉土。それぞれを別々の鉢植えに分けて観察しよう。成長速度に違いが出たり、途中で死んでしまったり、外に持ち出したら消えてしまったり、というようなことが起こるようならばダンジョンで創造された水や養分が危険だということが分かると思う。大丈夫そうなら食品や飲料水を提供するサービスとかもできそうだし、やれることが広がるんだけどど……うだろうか。

 苗木の植え方なんて知らないから上手くいくか分からないけれど、今のところは生命力を感じているし何とかなると思いたい。

 プルの実の方も同じだ。実が付けっぱなしのパターンや種だけのパターン、土の中に埋めるパターンなど、幾つかの鉢で別々に育てる。種から育てたほうが色々な実験に早く移れるから上手くいくのが楽しみだ。

 当分は水遣りしかすることがないけど。


 

 ……。

 …………。

 ………………。


 ふう。こうして体を動かして何かを作るのは久しぶりだ。最近は欲しい物は創造すればいいという思考が当たり前になってきていたからなぁ。

 ダンジョン経営も少しずつ軌道に乗り始めたし、趣味でも模索してみるのもいいかもしれない。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


『と言うわけで、町の方々はどのような趣味をお持ちなのですか?』


 ダンジョン一の遊び人、アークに聞いてみた。

 実験してるといった辺りは省いたが。


「趣味ってもなあ。それこそ人それぞれだろ。ちなみに俺はナンパが趣味だ。いやもはや人生だな」


『貴方が女好きの病に侵されているのは知っていますが、私の趣味には成り得ませんね。たとえば、冒険者達の間で流行っている事などは?』


「んぁー、そうだな。冒険者は、特に男は賭け事が好きだな。どこの町にも大抵は賭場があるし、王都にはでかいラットレース場なんかもあったな」


 良いことを知った。

 この国では賭博行為は合法ということなのだろう。


『それも私には縁遠い趣味のようですね』


「まぁそーだな。……いや、案外いけるんじゃねーか? 賭場を作っちまえよ。そんでお前がディーラーをすればいい」


『面白い案かもしれませんね。ですが、賭け事には必ず勝ち負けがあります。争いの元にならないでしょうか』


「多少はしょーが無ぇんじゃねえか? それにイカサマ無しで、暴利を貪ったりしなければ文句言う奴なんて居ねぇって。それに鉄貨の需要も高まると思うぜ?」


 む、確かに鉄貨を絡めてやればダンジョンのシステムでイカサマを防げるかもしれないし、儲けを気にしなければ期待値1での経営も可能だ。金銭的に儲けなくとも、ただ居てくれるだけで魔力回収に繋がるのだから。

 期待値を下げればその儲けは僕やハーディング商会のものとなるわけだし、これは有りかも知れない。


「おーい。どうした。黙り込んじまって」


 おっと。


『すみません。考え込んでしまいました。』


「おぉ? どうやら役に立てたようだな。お礼に何をくれるんだい?」


 おどけた調子で尋ねて来る。そんな約束してない。


『残念ながら、私の趣味を模索するという点ではあまり有益ではありませんでしたね』


「……おお、確かに。でもなぁ、最近の流行となると……そういえば、少し前から生きた魚を並べる魚料理屋が増えてきてな。客は食べたい魚を選んで、その場で調理して貰うってのが流行ってるな。町の若い女をディナーに誘う時はそういう物珍しい店が鉄板だった」


『生きた魚は珍しいのですか?』


「2年位前に街道が整備されてよ。生きた魚を仕入れられるようになったのさ。流石に市場に溜池持ち込む奴はいないが、店でなら問題ないしな。そもそも生きた魚をじっくり見られる機会なんて無いから男も女もガキも関係なく客引きになってる」


 今度は食事関係か。おまけに生き物の飼育……。生きた魚の入手はこの辺りでもできるのだろうか。いや、魚を飼うとなると気候とか水質とかの調査が必要だろうし、生きた魚が手に入るとしても飼育は難しいだろうな。


『人の町では魚以外に動物を飼うことをしますか?』


「酪農が盛んな地域だと村人よりも家畜の方が多いなんてこともあるぜ? 金持ちなら庭に番犬を放し飼いにしてるとこもあるな。あとは、でかい町なら馬車を引く馬を育ててる。……なるほど、見て楽しむ為に生きた魚を並べるってのが目新しくて成功した訳か」


 目新しさ……か。このダンジョンの風呂が人間側に受け入れられたのは、実用面だけでなく珍しさや目新しさも大きな役割を果たしたはずだ。次の改築ではまた新しい施設を作ってみようかな。金も魔力も実用性も度外視して珍しさを追求した、このダンジョンだけでしか見られない娯楽を作ってみよう。失敗しても、まあその時は取り壊しても良いし、放って置いてもなんの問題もない。


「なぁ、それより賭場を作ろうぜ。趣味のことは一先ず置いといてさ。きっとこのダンジョンの目玉になるからよぉ」


 うん? 珍しく拘るな。アークもずっとダンジョンにいて暇を持て余しているのだろうか。仕事で来ている冒険者達と違って彼はただ居る事が仕事みたいな面があるし、書類仕事をしようとは考えていないみたいだ。

 好色にギャンブル……おまけに怠惰。魔術師としての実力が無ければ本当に駄目人間じゃないか。


『アークさんも賭博が好きなのですか?』


「そりゃ嫌いな奴の方が少ないだろうよ。しない奴だってリスクを回避しているだけであって興味がある奴は多いさ。なんならそーゆーのに詳しい奴を紹介するって」


 僕が思案しているとギルド会議室にエリザが入ってきた。


「げぇ、おいおい、部屋に入る時はノックするって親に習わなかったのか? 最中だったらどう済んだよ」


 平静を装っているけど、結構驚いている。やはり風の探査能力は扉の向こう側までは及ばないようだ。ダンジョン製のドアは密閉率が高いということだな。


「ここは連れ込み宿でも貴方の部屋でもありません」


「……はぁ~ん?『最中』でいったい何を想像したのかなぁん?」


「なっ……あ、貴方の素行が悪いのが問題です! 大体! ま、またダンジョンマスター様に妙なことを」


 そういって此方……というか筆談ボードを指差した。

 ボードは適宜リセットしているし、今書いてあることを確認してもそれほど妙なことは書いていないけれど……。まさか賭博の二文字から会話の内容を予測したのか。


「別に妙なことでもないだろう? バイトを雇って人員に余裕が出れば、次にすることと言ったら新しい娯楽施設を作るしかないだろう。だから賭場はどうかって薦めてたんだ」


「と、賭場ですって!?」


 エリザはマイクのスイッチに目で追ってから焦り気味に口を開いた。


「ダンジョンマスター様! ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありませんでした。この男の言う事を真に受けてはいけません。ギャンブルの温床に成ろうものなら確実に治安は悪化します」


「温床とはヒデェ言い草だな。別に違法ってわけでもないだろ? それに鉄貨を回すにはいいアイディアだと思うんだがね」


「……だからと言って賭場はやり過ぎです」 


 エリザは軽く深呼吸して気を落ち着かせたようだ。鉄貨の話がでたことで一応は真面目な話であったと思ったのだろう。


「第一、現時点で賭場のような大金が動く施設を導入してしまったら、他施設やダンジョンそのもののあり方を大きく変えてしまう可能性があります。有料浴室と訓練用ダンジョン、そしてハーディング支店、この三つに対して賭場は鉄貨の需要が大きすぎるのです。消費自体が大したことがなくても、回転が速いのが不味いです」


『つまり鉄貨の需要が急激に増えることで価値が急騰すると?』


「勿論その可能性はあります。その場合、折角建設した賭場は利用客不足で運営もままならないことでしょう。賑うからこそ賭場を作る意味があります」


 僕の場合は儲けを気にする必要はないが、閑古鳥が鳴くようならあえて賭場を作る意味はないか。


「しかし、口惜しいことにギャンブルは娯楽としては優秀です。商会を通じて大量の鉄貨を安値でバラ撒くことで荒稼ぎすることも可能でしょう。手の出る価格設定であれば集客は十分望めます。しかし自ずと有料浴室の敷居も低くなり、現状の施設では脱衣所に順番待ちの列ができてしまうかも知れませんし、利用者からの印象も良くないことでしょう」


「……なるほどねぇ。つまりはだ、賭場を作るならもっと娯楽施設を充実させて十分な鉄貨の流量が確保できさえすれば建設を許可してくれると?」


「ぐ、一概にそうとは言い切れませんが……。下地さえしっかりしていればダンジョン全体を活性化する一石となるとは思います」


 エリザは苦々しげだが、アークの言葉を否定しきらなかった。


『わかりました。アークさん。賭場建設のために面白い施設の意見をお待ちしています。それまではダンジョンの治安維持活動をがんばってくださることを期待します』


「……マジか」


「これから益々人が増えますからね。貴方の働きに期待します。……ところでダンジョンマスター様。本日はアルバイト候補者についてご報告に参りました」


 そう言ってチラリとアークに視線をやる。


「……はいはい。お邪魔虫は女湯の治安でも守るとするさ」


『またお話しましょう』


「はいよ。なんかネタでも拾って来るわ。じゃな」


 アークのんびりとした足取りで出て行った。


「……はぁ。なぜあの男はああなのでしょう。あの性格の為に随分と損をしているはずですが」


『私は彼の様な方は嫌いではありませんよ。そう感じている者は、私だけではないことでしょう』


「……そう、かもしれませんね」



注意

植物の発芽には、休眠期間やら乾燥やら日照時間やら、様々な要因がかかわってきます。

種さえあればいつでもどこでも……というわけには行きません。

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