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ダンジョン専用通貨

最近、モブキャラが大量に出てきてますね。

ですが登場が一回限りのキャラも多いので、いちいち覚えなくても全然OKです。

お話の性質上仕方ないと思って目をつぶっていただければ幸いです。

 ダンジョンを取り巻く周辺諸国では金・銀・銅を材料とした貨幣が使われているらしい。ダンジョン内では幾つかの銅貨が使われているところしか見ることが出来ていないが、形状ごとに重量が決まっていて、異なる形状の貨幣は重量が一致する数量同士で価値が等しくなる。例えば2cm程の細い銅棒5本と一円玉程度の小銅貨一枚は同じ重量であり同じ価値となる。一見単純ではあるのだが、形状が繰り上がる数量は4進法であったり5進法であったりとバラバラなため日常的に使っていなければとても覚えられない。なぜそんな事になってしまったのか……。そして銀や金との交換の場合はそのレートは変動するのだろうか? だとしたら尚更お手上げだ。 


 と言う訳で僕が分り易いようにダンジョン内専用の通貨を作ることにしました……勿論冗談だが、いくつかの思惑もあって専用通貨普及に踏み切ることにしたのは事実だ。


 


 思った以上にギルド支部会議室は少々緊迫していた。


「それでは、予定よりも早いですが全員揃いましたので始めたいと思います」


 司会進行はエリザだ。一度会議室の面々を見回して異論が無いか確認した。『全員』には僕は含まれていない。勿論マイクも切ってある。

 ギルド側からはエリザとキャス、ダンジョン側からはアレンとエリシー、ハーディング商会からはサラとナデアに加えて壮年の男が参加している。名前はバンロール。商会では資金や物価などに詳しい人間として重宝されているらしい。今回の件はサラには荷が重いと判断されたのだろう。

 アークは結果だけ教えろと言って欠席した。


「早速本題に入ります。こちらがお預かりした硬貨50枚になります」


 エリザが机の下からトレイに乗ったコインの小山を取り出す。材質は鉄製で灰黒色の鈍い光沢を放っている。


 最初に口を開いたのはバンロールだ。


「銀……いえ、恐らくは鉄でしょうな」


「そのように聞いています。どうぞ手にとって御覧になってください」


 そう言ってエリザは一人一枚ずつ硬貨を配った。


「表面の刻印はダンジョンマスター様が考案したとのことです。その下の数字は製造番号になっていて同じものは存在しません」


 刻印は地図記号の温泉マークを少しアレンジしたものだ。ダンジョンの娯楽施設はまだ浴場しか創っていないから関連のあるマークがこれ位しか思い浮かばなかった。


「そして裏面には硬貨の注意書きがあります」


 この硬貨はダンジョンから持ち出すと消えてしまう。そうなっても保障はしませんよ、というような事が書いてある。少々不恰好な硬貨だがいいだろう。

 会議室の面々が興味深げに硬貨を弄りまわしている中、バンロールだけは周囲と手元の硬貨を交互に見て驚愕の表情を浮かべたように見えた。すぐに平静を取り戻した様子だし、そもそも僕の勘違いかも知れないが。


 口を開いたのはナデアだ。


「これを使って何かを買いたいという事なのでしょうか? 人間側がこの通貨を持つ利点については何か伝え聞いているのですか?」


「売買の為の通貨では無いとの事です。基本的にはダンジョン内の一部の施設を利用するために必要になります。現状では、先日の大改築で浴室に追加された個室のみとなりますが」


 有料施設はあまり増やさない予定だ。また、基本的にワンランク上の贅沢を堪能する施設という位置づけにしたい。金と個人の利益が強く結びつくと治安悪化の原因になりそうだからだ。これでもダメなら鉄貨は廃止することになるだろう。

 これに食いついたのはバンロールだ。


「では施設を使うためにはこの硬貨をダンジョンから購入する必要がある……と?」


「いえ、ダンジョンは冒険者やその他の一般人に鉄貨を販売するつもりは無いそうです」


「ならばどうやって新通貨を浸透させるのか聞いておられますか?」


「鉄貨の入手方法は二つです。一つは、訓練用ダンジョンを探索すること。不定期的にダンジョン内に配置したり、モンスターに持たせたりするそうです」


 ダンジョン全体の壁の中にハムスターが通れるくらいの細さの通路を張り巡らせた。施設等で使用された硬貨はハムスターが収集し、僕の指令によってダンジョン内に配置される。その際、錆び等によって状態が悪いものは修繕する。

 人間サイドには伝えていないが、硬貨には識別用の魔力が込められているため偽造通貨はハムスター達によって即発覚する。


「そしてもう一つの入手法は……」


 言いよどむエリザ。そんなに悔しかったのか。


「もう一つはダンジョンマスターとの直接取引となります。もっとも売買はハーディング商会のみを対象とし、手数料も取らないとのことです」


「商会のみ……ギルドを相手に取り引きはしないということですか?」


「……その通りでございます」


 エリザは感情を表には出さなかった。


「なんと……」


「鉄貨の相場や流通量はダンジョンマスターと相談して取り決めて頂くことになります。その都度こちらの会議室に来ていただく事になりますが」


 ギルド内で行うことで商会のみが利益を貪るような行動を抑制する狙いだろう。下手したら話し合いに口出しするつもりかもしれない。まあ僕としてはどちらでも良い。

 そもそも筆談ボードはギルドと従業員の所にしか無いのだから必然か。


「独占や価格設定が思いのままですな」


「ダンジョンマスターは鉄貨で必要以上に儲けるつもりは無いようです。ある程度は商会の利益と意向を優先するとのことですが、暴走するようなら手の打ち様はいくらでもあると」


 そんな直接的な言い方はしなかったのだが……。

 最終的に僕の一存で流通量も取引相手も思いのままだし、取引中止もできる。鉄貨に依存したダンジョン運営をするつもりはないのだから。


「ダンジョンマスターの気まぐれ一つで如何様にも変化する通貨制度に意味があると?」


「意味を感じないのであれば直ちにダンジョンマスターにお伝えください。我々ギルドが責任を持って引き継がせていただきます」


 そういってボードの方を見やるエリザ。


「確かに、リスクもありますが非常に魅力的な提案ではあります」


「なにか不明な点がおありですか?」


「ふむ……例えば、冒険者が自分で取得した鉄貨を自分で消費してしまっては商会が口を挟む余地がありませんな」


「そのあたりは流通量の調整などでどうにかして頂く他ありません」


 エリザが同じ質問をしてきたときは僕なりの考えをしっかりと伝えておいたはずなのだが。『パーディが一枚の鉄貨を得た場合、取り分を公平にするためには鉄貨は売るか全員分集めるかしなければ扱いづらい』といった具合にだ。他にもエリザからは僕自身考えが及んでいなかった部分まで細かく質問されたし、ある程度の回答はしておいた。

 エリザは未だ鉄貨専売の権利を諦めていなかったと。


「ならば、冒険者同士……あるいは冒険者とギルド間での取引はどうなるのですかな?」


「ダンジョンマスターはその点を取り締まることはしないようです。もっとも、商会以外による独占はほぼ不可能でしょうが」


 そのぐらいの疑問の答えなら既に彼の中でも出ていそうなものだが。なんたってそういう事を考えるのが仕事の人物なのだから。探りを入れているのか?

 エリザも基本的には誠実な対応だ。

 商会とギルド……友好的でありながらも全ての手札を曝すような間柄でもないと。まあ当然だろう。


 その後は殆どエリザとバンロールとの対話が続く。重要そうな事からピンと来ないことまで。

 キャスなどいつの間にやら記録を付ける係となってしまっている。はじめはそんな取り決めは無かったと言うのに。



「では最後に、ダンジョンマスターが何故人間の通貨を欲するのか、聞いておられますか?」


「人間の通貨の利用法については聞き及んでいません」


「ではエリザさんのお考えでは?」


「……人間の社会に溶け込むため。経済的な力を持つため。といったところでしょうか。私には分りかねます」


 沈黙。

 まあハズレではない。通貨の存在する社会でお金を得ようとするのは寧ろ当然の思考だと思うが。

 エリザとバンロールは互いに視線は外さない。睨んでいる訳ではないのだが、見えない攻防があるのだろう。

 そんな中、口を挟む者が現れた。意外なことにエリシーだ。


「あの~。よろしいですか?」


 小さく手を上げて、如何にも萎縮した感じな声掛けである。

 皆の視線が集まってビクッと肩が上がった。


「もちろんです。様々な視点からな意見を求めたからこそ、エリシーさんにも参加をお願いしたのですから」


 エリザの了承を受けてエリシーは背筋を伸ばして咳払いをした。


「えーとですね。マスターが人の通貨を欲している理由に心当たりがあります。マスターは日頃から私達に給金を出せないことを心苦しく感じていたようなんです。マスターが従業員を大切に思ってくださっていることは、決して自意識過剰ではない……と思ってます。なので、私達の為にと言うのも理由の一つ……なのかな、なんて……」


 言ってて恥ずかしくなったのか、自信が無くなって来たのか、段々と尻すぼみになっていく言葉。

 会議室の面々も、どう返したものかと微妙な空気になってしまった。ただし、気まずい空気にあわせて何処か微笑ましいものを見るような感じも混じっているというか。

 エリシーはそんな空気を感じ取って益々縮こまってしまう。


「コホンッ。確かに、ダンジョンマスターの人柄を考えればそのような点を重視している可能性も十分にありえますね。ダンジョンマスターの経済的・社会的な目標を予測する材料としては判断に困る内容ではありますが。ですが私達が議論しても決して出てこない貴重な意見です。ありがとうございます」


「ぃ、いえ。お役に立てて何よりです……」


 そこでエリザがバンロールに目で訴えかける。


「……さて、私どもとしては不安材料はおおよそ解消されました。是非とも鉄貨の取引を引き受けさせていただきます」


「……それでは、こちらにある鉄貨50枚は商会でどうぞお持ちください。ダンジョンマスターからそうするようにと」


 バンロールが目を見開いた。エリザ……最後の最後でようやく伝えるか。


「是非ダンジョンマスターにお礼の挨拶をさせて頂きたいのですが……。そもそも、なぜ本日ダンジョンマスター様が不在なのか、ご存知でしたらご教示願いたい」


 エリザから、一先ずギルドと商会とで一対一で対話したいとの申し出があったからです。はい。


「今回は礼など不要とのことです。商会内での鉄貨の扱いが決まった後にダンジョンマスターと話す機会がありますでしょうし、その時でも失礼には当たらないと思います」


 まあ、バンロールは中々のやり手との事だし、情報収集してから対話に臨めるのは嬉しくもあったのだ。


「……そうでしたか。では、後日改めてということで。ダンジョンマスターによろしくお伝えください」



 そうして、会議……というか説明会はあっさりと終了した。エリザから挨拶があって解散する中。


「あぁ、なんであんなこと言っちゃったんだろ……場違い感が……」


「だ、大丈夫だよエリシー。本当の事だし。それにほら、エリザさんも貴重な意見だって言ってたし」


「でも、あえて口を挟む必要あった?」


「そりゃぁちょっと微妙な感じになりはしたけどさ、エリシーはちゃんと仕事を果たしたじゃないか」


「今日はもう寝るわ。お休み……」


「えぇ!? まだ日も傾いてないよ? げっ、元気だしなって」



 エリシーは未だかつて見たことがないほど落ち込んでいた。

 別に恥じ入ることも無いと思うのだが。

通貨制度に突っ込みどころ満載かも知れませんが、寛大な心で見守っていただければ幸いです。


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