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アレンとエリシー

 アレンは男女共に好かれ、そして尊敬されている。

 一部の女性冒険者にはアレンに熱を上げている者もいるようだが、大半の者はその温厚な性格と冒険者としての強さを評価しているようだ。

 マリーナやアークの様な規格外な人物達を最初に見てしまった僕にはピンとこなかったのだが、Cランクとは多くの冒険者達の目標地点なのだそうだ。魔術や魔道具の力を借りずに到達できる限界とも言われているらしい。此処に来る冒険者は駆け出しがほとんどであり魔術を使う者は滅多にいない。少々大げさに言えばアレンは手の届く身近な英雄といった具合の視線で見られている。本人は謙遜しているが、初級ダンジョンに挑戦した駆け出し達と比べれはその違いは確かに歴然だった。

 そんなわれ等が英雄さんは日々の疲れを癒すために風呂に来たところだ。


「お、アレンじゃないか! やっと会えたな」


「がっはっは。もう俺らよりもランクは上なんだぜ? いっそこれからは呼び捨てじゃなくてアレン様と呼ぶべきだろう」


 ダンジョンでは比較的珍しい、駆け出しをとっくの昔に卒業したであろう冒険者二人組の声だ。その口ぶりから、アレンが低ランクの頃からの知り合いなのだとわかる。


「ゴーロンさん! ゲランドさん! どうして此処に!? あと様付けは勘弁してください」


 アレンの反応からは負の感情は感じ取れない。いろいろと世話になったりしたのかもしれないな。


「俺達は冒険者だぜ? 仕事があれば何処へでも行くし金にならなくても行きたきゃ行く。お前もそうだろう?」


「あ、はは。それもそうですね」


 なるほど、確かにアレンもまた、エリシーのために金にもならないダンジョン暮らしをしている。案外、そんな噂を聞きつけて様子を見に来たのかもしれない。


「まあ実際のとこ用事なんてねぇよ。久しぶりにこっちに戻ってきてみればお前やエリシーの嬢ちゃんはダンジョンに住んでるって言うからよ。顔見るついでに風呂とやらに入りに来たわけだ」


「でかい仕事が終わったばっかりで懐具合もいいしな。たまには近場の探索依頼でもこなしながらレジャーと洒落込む事にしたのさ」


「そうだったんですか。ではお風呂の感想を聞かせてもらっても?」


「おお、予想以上だな。こりゃあいいわ。だからお前もさっさと浸かれよ。話は体洗いながらでもできるしな」


「それもそうですね。では失礼して……」


 アレンが体を洗い始めても会話は続く。


「お風呂を気に入って貰えたみたいで良かったです。マスター……ダンジョンマスターにも伝えておきますね」


「は? ダ、ダンジョンマスターってあれか? ダンジョンコアを守ってる?」


「そうですよ。僕やエリシー達はマスターと呼んでます。マスターは冒険者の人達とは滅多に話す機会がないので知らない人も多いみたいですね」


「つーかダンジョンマスターって話せるのかよ。知らなかったわ」


「俺も聞いた事ないな」


「ここみたいに確りと意思の疎通ができるダンジョンマスターは他所では発見されてないらしいですよ。そうだ、通路の壁とかトイレとかに注意書きなんかが張り出されてたりしますよね? あれマスターが書いてるんですよ」


「マジか……。俺が話してみたいって言ったら会えたりするのか?」


「きっと会うのは難しいです。僕らもギルドもマスターと直接会った事はないんですよ。チヤちゃん……えーと、一緒に働いている小さい女の子がいまして、一番古株なんですけど、その娘が特に会いたがってるんですけど実現してませんし」


「そうかー。チヤちゃんってあの子だろ? 紺色の高そうな服着た、妙なネズミが入った籠を抱えてた」


「多分そうですよ。あのネズミはハムスターって言うらしくて、ダンジョンの中を掃除してくれるんです」


「あんな小さい子がずっとこんな所で働いてんのか。可哀想だが奴隷だしな。同情しても意味もないしキリも無い」


「ここではそれ、禁句ですよ。三人とも冒険者達には比較的受け入れられていますし、友人のように扱ってくれている人もいるんです」


 少し強い口調だ。


「ああ、すまん。失言だった」


「いえ。それにみんな距離感を掴みあぐねているんでしょうね。冒険者は奴隷を使うような生活とは程遠い人種ですけど、ギルドや有力商会が懇意にしている者の庇護下にあるわけです。更には、ギルドからは失礼の無いようにと注意されてるみたいですし。細かいことを気にかけて生活するくらいなら最初から奴隷であるという事実は忘れて普通に接したほうが楽ってことなのかもしれません」


「なるほどねぇ。エリシーの嬢ちゃんも災難だったな。もう人並みな人生ってやつからは外れちまったのか。まあ冒険者やっててもそれがマトモな人生なのかは分らんが」


「……」


「ん? ああ悪い、言い過ぎたか?」


「……そうではなくてですね。エリシーは現状にあまり不満が無い様でして」


「なんか問題あるのか? それ?」


「まぁあれだろ? 町に帰りたくないとか言い出さないか不安なんだろ?」


「そんな感じです。僕としてはもう少し前みたいな暮らしに未練を感じてくれてもいいと思うというか」


「……そんで?」


「周りの皆が三人を助けたい、サポートしたいと思っているのに肝心の本人たちはそう思っていないようで……別に迷惑がっているわけでは無いようなんですが。どうも温度差があるんですよね」


「……つまるところ、だ。愛しのエリシーと心が離れちまったみたいで気が気じゃないと」


「はい……じゃないですよ! なっ、なんで僕とエリシーがっ!」


「なんでってお前、お前達が新米の頃から知ってる奴等なら大抵察しがついてるだろうよ。なあゲランド?」


「まああんだけ分り易ければな。今だって、どうせ嬢ちゃん追っかけて来てここで働いてんだろ? まるわかりだっての」


「な、えぇ……ええぇ? う、そんな」 


「で? 今じゃ一緒に住んでんだろ? 流石に少しは進んだんだろ?」


「んなわけあるか、アレンだぞ? だがまあ、面白恥ずかしい話の一つや二つはあるだろ? 話してみろよ。なんなら人生の先輩としてアドバイスしてやるぜ?」


「ぶっ! 反面教師としてならそのアドバイスとやらも訳に立つかもな。おらアレン、さっさとゲロっちまえよ。なんなら他の女のことでもいいんだぜ? ここは若いのが沢山来るらしいじゃねぇか。お前なら選り取り見取りなんだし、手取り足取り腰取りとまぁ……いやぁ楽しそうだねぇ」


 それをやっているのは寧ろアークの方だ。

 真面目な雰囲気は一瞬にして崩れ去った。急な話題転換だったから、ひょっとしたら意図的な行為なのかもしれないな。

 

 アレンはのぼせ上がるまでからかわれ続けるのであった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




【マスター。お時間をよろしいですか?】


 アレンが風呂に行っている間にエリシーがボードに僕宛のメッセージを書き込んだ。

 チコとチヤの二人もまた風呂に行っているため従業員区画にはエリシーだけだ。二人は冒険者のお姉さま方との交流を楽しんでいる。


【どうしました?】


 直ぐに返信するとエリシーはダミーマイクのスイッチを入れて話し始める。


「アレンの事です。最近初級ダンジョンに行っては魔石を集めている様ですが、これはマスターに不利益な行動なのではないでしょうか? それならば私から止めるように伝えておきますが」


 また答え難いところを突いてきた。

 確かに魔石の流出は直接的には損失であるわけだが、ギルドとの関係や長期的なダンジョン維持を考えたらプラスになると考えている。現状ですら魔力回収効率は以前よりも格段に上昇しているわけだし。


【大量に乱獲されてしまうのでは問題が生じるかも知れませんが、現状程度でしたら問題ありません。】


 安全な魔石採掘所として定着させるにはアレンの様に継続的に魔石を集める人材は重要だ。ダンジョンが大きくなって魔石の量と質が向上するまでに採掘所としての知名度と役割をある程度得ておきたい。


「それならば良かったです。アレンには取り過ぎないようにと伝えておきます」


 エリシーはどこかホッとした様に口にした。


【いえ。ここで働いている内はお金を稼ぐのが難しいでしょうし、仕事に支障をきたさない程度になら構いません。いずれは私の方で給金を支払えるようにしますので、それまでは辛抱ください。】


「辛抱だなんてとんでもないです。ここでの生活には今では殆ど不自由を感じて居ませんし、衣食住に加えて身の安全まで考慮して頂いています。これで文句など言おうものならバチが当たってしまいます。アレンはどうしてあれ程お金稼ぎに躍起になっているのか……ここに来る前からそれなりに蓄えは有ったはずなのですが」


 それはきっとエリシー、君のためだと思うんだ。

 それとも分っていて言っているのか。


「町での生活を離れてまでここで暮らしているのは私の……」


「エリシーさん。戻りましたよー」


 ドアがガチャリと開いてチコが顔を出した。


「あ、ごめんなさい。マスターとお話中だったんですね。マスター、失礼しました」


 チコはドアを閉めようとしたが、その声を聞いてチヤがスルリと隙間から部屋に入ってくる。


「今度はエリシーさんがお風呂の番。マスターは私の番なの」


「チ、チヤ! だめだって」


「だってずるい」


「ずるいって……」


「チヤちゃんあのね、私はお喋りしてた訳じゃなくてね、大切な相談事があったのよ」


「でも……」


 あのまま話していればエリシーの本音の部分に触れられたかもしれなかったのだが、こうなっては今回は諦めるしかないか。チヤが引いたとしても元の話題には戻り難い。

 エリシーには申し訳ないが無理やり会話を終えてしまおう。


【エリシーさん。現状大きな不利益はありません。皆さんには感謝しています。チヤさん、お話は寝巻きに着替えてからにしましょう。】


 しかしボードに背を向けていたエリシーは直ぐには気付かない。チコが指差してエリシーに伝える頃には、チヤも読み終えたのか猛スピードで自室に戻っていった。チコも困った様に後を追う。


「チヤちゃんがすみませんでした。本日は相談に乗っていただいて有難うございます」


【これからも悩みや不満があったらどんなことでも言ってください。労働環境やダンジョンの改善にも繫がります。】


「はい。それでは、チヤちゃんに怒られる前に私もお湯を頂いてきます。失礼します」


 そうしてエリシーも部屋を出て行った。

 そろそろチヤが戻ってきそうだ。折角風呂に入ったのにそんなに走ったりしたらまた汗を掻いてしまう。後で注意しておこう。

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