表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/69

宿泊施設大改築●マップ5.0●

地図が小さいかもですがご勘弁を。

あと、今まで地図ではマスターの部屋に筆談ボードを書き忘れてました。

今回からギルドと従業員用のボードそれぞれに対応するボードをマスターの部屋に追加してありますが、以前からあったってことで一つお願いします。

以前の地図は書き直していません。

 初級ダンジョンは二日に一度は冒険者達が訪れる盛況ぶりだ。

 はじめはたったのそれだけかと落胆したのだが、外の世界の一般的なダンジョンでは多くても10日に1~2パーティが精々だということだから盛況と言って差し支えないはずだ。しかも余程無理をしなければダンジョンで命を落とすのは全体の一割程度と聞く。それで良くダンジョンを維持改変する魔力を確保できているものだと関心するが、生命が失われる際の魔力吸収を考えればそれでも十分なのかもしれない。


 たった今も3人組のパーティが初級ダンジョンから帰還中だ。名前は確かデーン、ジャン、ピコンだったと思う。効果音みたいな名前でどうも印象に残ってしまった。既に常連さんである。

 

「くっそ~! 今日もダメだったか。スケルトン共なら余裕で狩れるようになったんだけどな」


「あのゴーレムは中々の難敵だよね。商会で借りた剣もまたダメにしちゃったし」


「それにあの強風も問題だな。少しでも不安定な体勢になると立て直せなくて、それであのゴーレムに捕まって通路から追い出されちまう」


「ほらー。早く返しちゃって反省会は部屋でしようよー。明日は森に入るんだし、準備したいしー」


 最後の一人は話に夢中で歩みが遅くなっている男二人に不満があるようだ。日暮れ前にやってきて、荷物を置いて直ぐに初級ダンジョンに来たようだし早く休みたいのだろう。


『返す』というのは彼らが着ている鎧や剣のことだ。ダンジョンの創造能力で生み出した武具をハーディング商会を通して貸し出しす商売を始めてみたのだが、思いのほか上手くいった。素人が外観から見様見真似で作り出したため性能こそ低いが、壊れても下層まで運べはローコストで造りなおせるしダンジョン外への持ち逃げを心配する必要も無い。ほぼリスクゼロで貸し出しができるわけだ。壊されても追加料金は取らない。

 商会には人件費等の経費を最低限回収できる程度の価格で貸し出すようにと注文を出させてもらった。冒険者はダンジョンに潜るために武器防具だけあればいいというわけではないので、そちらの需要増加から利益を出してもらうという話だ。実際、レンタル料はスケルトンの魔石一つ回収できればお釣りがでるほどの格安である。

 冒険者達は自前の武具を傷めずに探索ができるようになるため空いた時間を使って小遣い稼ぎ程度の気軽さで初級ダンジョンを利用してくれている。それはそのまま魔力回収効率アップに繋がるし、今見ている彼らの様にゲーム感覚で実戦訓練をし始める者達もそれなりに出てきた。

 今の所は成功と言っていいだろう。

 しいて言うのならば、リビングアーマーどころかサンドゴーレムに苦戦するパーティが続出しているためギルドとしては等級の高い魔石があまり上がってこないことに不満はあるようだ。まあ今はほぼ全ての冒険者が森林探索のために来ているわけで、この近辺では初心者用の仕事扱いだったはずだ。リビングアーマーを狩れるパーティならばもっと身入りの良い仕事を選ぶということだ。改めて、単独でアレを撃破したアレンは優秀だったんだなぁと思ってしまい、掃除や雑用がメインの仕事となっていることに勿体無さと言うか申し訳なさを感じてしまう今日この頃である。


「次は隅の方に掛けてあったデカい斧を借りてみるかな。ただの剣だとあのデカブツにはかすり傷にしかならねえよ」


「よしなよー。デーンなんかじゃーあんなの振り回せないって。あとそーゆー話は後だって言ってるじゃんさー」


 武器のバリエーションも豊富に用意した。実戦向けかどうかは素人の僕には分らないから使っている様子を観察してバリエーションを調整するつもりだ。



「おぉ? アレン……さん、じゃないですか。どうしたんですか?」


 帰路に着く彼らに向かって軽鎧を着たアレンが歩いてきた。革をベースに要所を鉄で補強した動き易さを重視した鎧である。

 彼の鎧も僕がデザインして作ったものだ。男性従業員の正式装備もそろそろ必要だと思っていたことだし、折角なのでメイド服同様に意匠にも少し力を入れて作ってある。日常的に使って欲しいので素人なりに軽量化もしてみた。事前に簡易的な強度試験も行ってあるので鎧としての性能はそれなりにあるだろう。そもそも鎧として創造したのだから鎧たらしめる補正が掛かって強度を補ってくれている可能性もあるが。

 レンタル用の鎧を作るために色々と勉強した副産物ではあるものの、第一弾としては満足の出来だ。アレンも気に入っているようだし。


「いやー、こんな立派な鎧を貰っちゃいましたからね。鎧に見合う実力を身につけないとって訳です。それと敬語とかは要りませんよ?」


「そうかい? それじゃお言葉に甘えて。でもリビングアーマーも一人で倒せるって聞いたぞ? それでも訓練するなんて、流石はCランク冒険者ってことか」


「そんな風に言ってもらえると嬉しいですけど、照れちゃいますね。でも僕なんてまだまだですよ。上を見れば限が無いです」


「んなこと言ったら俺らなんて下から数えたほうが早いんだぜ? っつーかあんたは敬語使うのか」


「僕のは性分なので。元々、ここのダンジョンには新人訓練のための場っていう意図があったみたいなので戦い方を学ぶにはいいと思いますよ? ギルドの人やAランクの先輩からも評価されてますし……。先輩の方は物足りないとか言ってましたけどね」


「流石に上位ランクは言うことが違うな。俺もそんな事言ってみたいもんだぜ」


「あの人は別格ですって。僕はサンドゴーレムを倒すのに随分掛かっちゃいましたし……何時までたっても背中が見えてきません。聞くところによると、魔術抜きの剣技だけであっという間に切り刻んでしまったみたいですよ」


「とんでもねぇな。ま、俺らは取りあえず打倒ゴーレムだ。駆け出しの俺が言うのもアレだが、お互い頑張ろうぜ」


「はい。あまり引き止めては悪いですし、僕は行きます。それでは皆さん、またのご利用をお待ちしております……なんてね」


「すっかりダンジョンの住人て感じだな。それじゃな」


 アレンは軽い足取りでダンジョンの方へと向かって行った。

 彼は数日置きに、ダンジョンが空いている頃を見計らって魔石集めをしている。戦闘技能向上が目的だと周囲には言っているが、どうもお金を稼ぎたいようだ。稼がなくても食事はギルドに賄ってもらっているし最低限の生活はできるが、やはり給料なしだと何かと不便だし不満もあるのだろう。

 装備レンタル業を始めたのは外貨を得るためであり、従業員達に給料を払うためである。


 アレンの背中が見えなくなる位になって、黙っていた面々が口を開いた。


「ていうかなんで普通に敬語抜きで会話しちゃってるの……。僕はビックリしちゃって声も出なかったよ」


「はぁ? いやだって敬語要らないっていってただろ?」


「だからっていきなりあれは」


「本人が気にしてなかったんだからいいんだよ」


「まあ……いいですけどね」


「はぁ~。アレンさんカッコイイなー。私もお喋りしたかったのにー」


「なんだぁ? 狙ってんのか?」


「そっ、そういうんじゃないけどさー。大体エリシーさんがいるし」


「えぇっ!? エリシーさんとアレンさんって……え? そうなの!?」


「……お前らが妙に森の探索に来たがる理由が良く分ったわ」


「だーかーらーさー! 違うんだってばー。もー早く帰ってゴーレム会議ぃ~!」


「僕も違うからね!なに勘違いしてるかしらないけどさ。……はぁ」


「ったくよぉ。さっきまで無口だった癖に、急に煩くなりやがって……わかったわかった。先ずは武器返すぞ。それからキャスさんに魔石を換金してもらって……」


「キャスさんー? ん~? そっかそっかー。デーンはキャスさん狙いだったのかー」


「こじつけるにしてももう少し脈絡ってもんをだな……今の時間なら受付はキャスさんだなって思っただけだっての」


「うわー……シフトまで知ってるし。必要も無い言い訳付け足したし。うえー本気ー?」


「ぐっ、ああ言えばこう言う……」


「元々そういう話ふってきたのそっちだしー」


「あ゛ぁー、面倒くさい奴だなぁ! なんでもいいから、行くぞ」


「あー逃げたー。……ほらー何時までもショック受けてないでー。置いてかれちゃうよー」


「……ショックなんか、うけてないよ」


「……そおかなー? 来ないなら先に行ってるからねー」


「……はぁ。 そうだったのかぁ」


 少し離れた最後尾をトボトボと歩く、彼の背は煤けて見えた。

 あの二人はこれっぽっちも進展していないのだが、それを伝える術を持っていないし、僕が伝えるのもお門違いというものだろう。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 初級ダンジョンを解放してからというもの、魔力回収効率もグンと良くなった。

 特に大きな改築は地下二階、四階である。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


 地下二階は小部屋、中部屋、大部屋を複数設置して全ての部屋の鍵を外から掛けられるようにした。というのも、以前の様に内側からしか鍵を掛けられないと荷物を置いて練習用ダンジョンへ……というようなことがし難いからだ。部屋数も十分に確保したことだし、今なら問題ない。空き室の鍵はギルドが管理したいと申し出てきたので渡してしまった。ギルドはダンジョン内の人間の動きを把握、又は制御したい様だが僕にとってはあまり不利益にはならないだろう。そもそも部屋を増やせと言ってきたのもギルド側なのだ。急に冒険者が増えるのを懸念しているのか、現在も部屋は三割程度しか埋まっていないが以前と比べれば十分多い。

 地下二階は人の出入りが一番激しくなる。治安維持のために廊下を巡回するアーマーナイトを設置した。モンスターは人間同士の喧嘩を正確に判断できないため、武器を構えた者を捕縛するように指示した。素手での殴り合いには対応しない。女湯の更衣室手前に一部屋設けたのは、女性客が感じる不安を少しでも緩和するための措置だ。

 利用者増加を見越して大浴場も一回り大きくしてある。さらに、まだ公開してはいないが、一人でゆっくりと湯に浸かれる小さな浴室も設置した。床と壁は大理石、シャワーも付いている。ホースは無いので壁から直接シャワーヘッドが生えているが……。リッチでゴージャスな空間を目指して作ってみたが、この世界の住人に受け入れられるかは未知数である。また、壁に取り付けたボトルにはシャンプーが入っている。といってもまだ試作品であり、使用法と共に健康被害の可能性についても明記したものだ。石鹸等ならばともかく、シャンプーとなると成分や製造法などの知識は無いに等しく、一応それっぽいものが出来たからと言って有害で無いと言う保証は出来かねるというわけだ。利用者の中からテスターを募ることで極力大きな問題が起こらないようにしたいところである。ダンジョンの創造能力では致命傷どころか重症を与える罠……もちろんそういう毒も創れないのだから、命に関わるようなことにはならないだろう。

 地下三階は次の改築に向けて開けておいた。

 そして地下四階には、ついに従業員専用の住居を用意できた。アレン、エリシーが一部屋ずつ、チコとチヤの姉妹は二人で一部屋だ。そこに物置部屋と筆談ボードを置いた談話室までを含めて正規従業員用として、こことは別に短期……詰まるところのアルバイト専用の住居を用意してある。個室六部屋と談話室一部屋となっていて、正規雇用者の区画とは完全に分けてある。これはエリシー達の安全を考慮しての措置だ。バイトの選定方法は未定だが、入れ替わりがそれなりに激しくなることが予想されるのでひょっとしたら危険人物が紛れ込む可能性もゼロではない。

 今はバイトは雇っていないが、冒険者用の部屋が増えてきたことで掃除が間に合わなくなりつつある。バイトの雇用を渋っている余裕はなくなってきてしまった。外貨獲得はバイト代を支払う目処を立てるためでもあるのだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「キャスさーん。魔石取って来たよー」


「あらピコンさん。お疲れ様です。もしかして私が受付に入る前からなんですか?」

 

「そうなんだよー。もう、夕方くらいからずっと、ゴーレムに捕まっては追い出されの繰り返しでー。うちの男どもったらもー妙に負けず嫌いだからさー。あ、部屋の登録はシリアーシャさんがしてくれたよー」


 シリアーシャとは二人目に派遣されてきたギルドの受付嬢だ。デーン達が来たときには彼女が受付をしたのだ。若い女性職員の追加に、一時期キャスが荒んだ目をしていたが仕事にも人間関係にも支障をきたさなかったし、シリアーシャにはすでに町に恋人がいるとわかると落ち着きを取り戻した。


「冒険者は少し負けず嫌いな位が出世するって言いますよ? ピコンさん達は魔石を沢山持ってきてくれるので大助かりですし、どんどん頑張ってくださいね」


「やめてよー。そんな事ゆーと調子に乗る奴がでるかもなんだよー。私はのんびりでいいんだってー」


 チラリとデーンを見やるピコン。

 キャスにも見えていただろうが、その意図までは見抜けなかったようだ。


「そうなんですか? デーンさん、ここのダンジョンは大怪我をする可能性はそれほどありませんけど、危険が無いわけではないんです。気をつけてくださいね」


「あ、ああ。分ってる。ほら、さっさと魔石の査定をしちまってくれよ。明日もあるんでな」


「わかりました。では査定をしている間にギルドボードを見ておいてください。いつもの通り、森の情報を掲示してあるので」


「おお、そうだ、な。ジャン、すねてないでお前も見に行くぞ」


「すねてない。ああそうだね。行くよ」


 足早にカウンターを離れるデーンとどこか足取りの重いジャン。

 そんな二人をみてキャスはピコンに訊ねた。


「ダンジョンで何かあったんですか?」


「んーそうだねー。きっと男の子には色々あるんだよー」


「そう……なんですか……。では査定に入りますので」


「はーい。私も見に行っときまーす」


 彼女の足取りは何処か弾んでいるようにも見えた。

 キャスは更に首をかしげることになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ