彼女の望むもの
一日に会話一往復みたいなペースで書いたので、色々変なところが有るかもです。
「ふぅ。やっと休憩所ですね」
「ゴーレム程度に時間をかけ過ぎだぞ」
「一人で剣一本でゴーレムと戦う発想がおかしいですよ……」
アレンはマリーナ同様に、ゴーレムを構成する砂を少しずつ削り落として機動力と攻撃力を削ぎ落とす戦法を取っていた。一度も捕まらなかったところを見ると、Cランクなら十分に対応できる速度のモンスターに仕上がっていると考えていいだろう。
「それにあの強風の中で動き回るのは中々大変ですし」
「折角ダンジョンマスターがゆるい敵を用意してくれたのだ。修行のつもりで励むといい」
ゆるいのか……。
「それにだ、ここに来る冒険者の中にはあの程度ならものともしない奴もいるはずだ。そういう奴等が問題を起こしたときにお前が対処しなければならないのだから、私達が帰っても腕を磨いておくように」
「うっ……頑張ります」
「頑張るだけでは困るのだ。確りと結果を出してもらわねばな。……アークは能力こそ高いのだが怠惰な男だ。エリシー達を守るにはそれを最優先にする強い護衛が必要だ」
アレンを雇った意図とも合致するから僕としても歓迎だが、彼にかかる負担が大きいかも知れない。従業員増員も図るべきなのだろうが、信用できる人材は中々見つからないし、そもそも大っぴらに募集して良いものかも悩ましいところだ。
アレンは返事こそしないが、改めて決意を決めているのだろう。そんな真面目君には、マリーナから爆弾が投下された。
「……なあアレン。エリシーをどう思う?」
「ぶはっ! げほっげほ……」
「汚いぞ。それに貴重な水を……。最近は商会の支店でも買えるらしいが、お前達は給金など出ていないのだろう? ああ、食料はギルド持ちだったか」
従業員への給与支払いも考えないとな。住み込み食事つきとは言え不便だろう。
「マ、マリーナさんこそ、げほっ、何ですがいきなり。エリシーとは別に……」
「なにを言っているのだ。いやな? 最近エリシーはここに馴染み過ぎているのではないかと思ってな」
「え……ええ、ああ、そうかもですね。エリシーも他の二人もすっかりここでの暮らしに慣れてますよ。仕事もそれほどきつくは無いですし、食糧事情も大分改善されましたからね」
「……」
「あの、難しそうな顔して、なにか不味いんですか?」
「……例えばだ、このまま一生ダンジョンで働くことになったとしても、エリシーはそれほど負担に感じないのではないだろうか?」
「それは、流石に一生は嫌がるんじゃ……」
「では逆に首輪の解除法が見つかったとして、あいつは誰に気兼ねすることなく町に戻れる奴か?」
「え、うーん。そう言われると……」
「はっきりしないな。 まあつまりはそういうことだ。あいつはダンジョンマスターに随分と恩義を感じている様子だし、その気持ちも良く分る。ダンジョンマスターが解放を了承したとしてもエリシーは恩を返しきれていないなどと言って留まりそうだ。それにチコ達の事もある。二人は身寄りも無い様だから解放後もダンジョンに残る選択をする可能性は高いだろう。そんな二人を置いて町に戻ることが出来るかどうか……」
「……」
「そうならない様にとお前を派遣する段取りをしたのだがなぁ」
「そっ、そうだったんですか? 全然気付きませんでした。てっきりマリーナさんが僕に口を滑らせたからだと……」
「私が個人の事情でギルドの秘密をばらす様なことをする訳がないだろうが。お前にエリシーの安否を伝える前にギルドにも根回しして有ったのだ、口を滑らせる時にはお前の派遣は決まっていた」
「ギルド側は……その、文句とかは?」
「勿論有ったさ。しかしギルドにとっての旨みを淡々と説いてやったら向こうが折れた。私の感情だけで動いているのではないと示せば後は十分だったさ。Aランクの実績と信頼という奴はこういうときに役に立つ」
「では……えーと、僕は役に立ってないような?」
「まあ表向きの目的は果たせているな。感謝しているぞ。……本当はさっさとくっ付くなりなんなりすると踏んでいたのだが、当てが外れてしまった」
「はい? くっ付く?」
ボソリと小さく呟いたマリーナの言葉も、二人だけの部屋ではしっかりと届いたようだ。
「……エリシーも不憫なものだな。もっとも、あいつの性格ではこの状況で素直に受け入れるとも思えんが。奴隷ではなぁ」
奴隷は結婚できないとかあるのか? それともアレンに奴隷を娶った男というレッテルを張られてしまうとか……。
「えーっと、マリーナさん?」
「いや、独り言だ。忘れておけ。これで駄目なのだから流れに任せたほうが無難だろう……なあ?」
「あの、独り言……なんですよね?」
「ああ、独り言だ」
なんだこのやり取りは……。こっちまで空気が重い。
「とっ、とにかく! エリシーがマスターへの恩義を感じすぎ無いように気を使ったり、下の二人の心配とかしなくても済むような感じにすればいいんですよね!」
「……そうしてくれ。頼んだ。しかしダンジョンマスターと険悪なことになってくれるなよ」
「は、はい。勿論です」
なんだか不満そうな声色だ。彼女はエリシー大好き人間だし、その気持ちも察することは出来るが……。
案外、アレンをたき付ける事にも複雑な思いがあるのかもしれないな。
「……」
「……」
「それじゃあ……進みましょうか?」
「……まあ良いだろう。最低限のことは伝えてた」
そうして二人は休憩を終えた。
昨日言っていたマリーナの用事というのはこれの事なのだろうか? あまり目的が達成されたという印象は受けなかったが……。でもダンジョンそのものについて何か気になる点がある訳でないのなら放っておいていいだろう。プライベートなことだし。
その後、アレンは着衣水泳させられたり半漁人に救出されてみたりしながら先を進んだ。エリザの調べそこなった部分を補うことも目的だったのだろう。Cランク冒険者でもリビングアーマーは何とかできることも分ったし、こちらとしても十分な収穫だ。
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アレンが初級ダンジョンに梃子摺っている間。ナデアはチコとチヤの二人と話していた。
ダンジョン内の複数個所を同時に見聞きするのにはまだまだ慣れないが、これから必ず必要になる技術だ。訓練も兼ねて彼女らにも意識を向けてみる。
「ああようやく見つけました。お二人とも、少々宜しいでしょうか?」
チコ達二人は通路掃除に一段落つけて移動中だった。
「はい、丁度終わったところです。どんな御用ですか?」
「サラ様からお洋服のプレゼントです。どうぞこちらを」
そう言って差し出された手には一抱え程もありそうな大きな革鞄を持っていた。冒険者達が持っている様な飾り気のない物とは違って可愛らしい模様が刻まれたそれは明らかに高価なものだろう。それが限界まで詰め込まれている様で、留め具の部分がはち切れそうになっている。
痛んでしまわないのだろうか。
「も、もしかして中身は全部……ですか?」
「その通りです。サラ様が使っていたものの中から状態の良いものをサラ様自身が見繕っていました。それはそれはお楽しそうでしたよ」
暫く呆然とし、少々挙動不審気味に何かを葛藤しているような仕草をしたが、
「あ、ありがとうございます。サラ様っ……さんにも喜んでたって伝えてください」
素直に受け取ることにしたようだ。チコには少し重かったようだが大事そうに抱え込んだ。
「はい。サラ様も喜ぶことでしょう。早速中を見てみましょうか」
チヤの顔を見て言った。先ほどから静かだったが視線が釘付けなのはバレバレだったのだ。
「……後でいい、です。汚れちゃう」
「部屋に戻ったら二人で楽しみます。ね、チヤ。確か明日まではここに居るんでしたよね。皆さんが帰るまでに鞄から全部出しておきます」
「鞄も差し上げますよ。お二人には大きすぎるかも知れませんが、中に革のベルトも入っているはずですので、それを通せばリュックサックとしても使えます」
「でも、ですがとっても高いものなんじゃないですか?」
「少し流行からは遅れた古いタイプの物ですし、それほどでもないはずですよ。大切に使ってあげて下さいね」
「は、はい。大切にします」
つまり少し前ならそれなりに高値が付くものだと。
「……ところで、お二人はここを出た後はどうするつもりかお聞きかせいただいても宜しいですか?」
「えと、まだなにも分りません。行く当てもありませんし……首輪の外し方は見つかったんですか?」
「ごめんなさい。妙な期待を持たせてしまいましたね。まだ見つかっていないのですが、その時お二人がどうするのか気になっていたのです。サラ様はできることなら商会で一緒に働きたいと申しておりましたので」
「ええぇ! 私達、商売の事なんてなにも分りませんよ? 店員とか……でしょうか? でも計算も分りませんし」
「お二人は同年代の子供達と比べても随分落ち着いていて賢いと思いますよ? 簡単な計算や商いの仕組みなどは直ぐに身につけられるでしょう。気に入っているから我侭を言っているだけかも知れませんけどね。ですがそのような未来も有り得ると思って開放された時の事を考えてみるのも良いと思います。未来に希望を持って生きられますから」
「そんな、私達なんて全然大したことない普通の子供ですよ……でも、サラさんはそんな風に考えてくれてたんですね。今までは目の前の事しか考えてませんでしたけど、もう少し将来のことも考え……」
「ダメェ!」
突然チヤが叫ぶ。今にも泣き出しそうな表情だ。
「え、チヤ?」
「ここ……ここだもん!」
チヤはバッと振り返って走り出してしまった。
「あぁ! どうしたのチヤ! あ……えっと、ご、ごめんなさい! 考えておきます! 失礼します!」
そういてチコも慌ててチヤを追った。
「まってーーー! チヤー!」
跡に残されたナデアは慌てた様子もない。少し困ったような表情だ。
「ふぅ……マリーナったら、前途多難ですね」
ため息と共に、彼女もその場を後にした。
おそらく今回の接触はマリーナへのアシストの一環だったのだろう。エリシーをダンジョンに縛る可能性のある二人の引き抜き……。もちろん、サラが二人を気に入っているのは僕にも分るし、二人への善意もあっての勧誘なのだろう。能力については良く分らない。大人びた子達だとは思うが。
気になるのは、マリーナがやけにエリシーをダンジョンから引き剥がしたがる点だ。まあ普通に考えたらダンジョンで一生を終えるような人生を送って欲しくはないか……。
生活環境の改善によってマリーナの危惧が薄れてくれれば良いのだが。




