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テストプレイ⑤

べっ……別にかっこいい言い回しとか厨二な台詞が思い浮かばない訳じゃないんだからね!

全部チート翻訳のせいなんだから!

だからこれは想定内……というかむしろ予定調和ッ!

「まあ、こうなるだろうとは思ってたさ」


「何か不満でも? 一人と三人に分かれても良かったのですよ」


 マリーナとナデアはすでに『骨の防衛線』の扉に入っていった。休憩室からまだ進まないこの二人はもう一方の『浸水回廊』に向かうことになる。


「その組み分けで良くないことは良く分ってるだろ? グダグダ言ってないで進もうぜ」


「先に突っかかってきたのは貴方ではないですか」


 アークはそれには答えずに、スタスタと次の部屋へと進んだ。エリザも不機嫌そうに続く。



「おお、こりゃ文字通り『浸水』だな。こっちはハズレか?」


 この通路は扉を入って直ぐの辺りから水浸しになっている。所々深い場所もあるここを通るのを嫌がる気持ちはわかる。

 新人訓練の場としての利用もありえると思ってダンジョンにバリエーションを持たせてみたのだが、やり過ぎただろうか……。

 ちなみに、マリーナ達がもう一方の扉に入ったのは名前からしてスケルトンとの連戦又は乱戦になるためエリザが見ても新しい発見は少ないという判断からだ。こちらがハズレになる可能性が高いのは既に分っていた。


「ダンジョン内の水辺は危険な場合が多いです。注意しますよ。……深さは調べられますか?」


 なぜダンジョン内の水辺は危険なのだろうか……あえて水辺を作るということは必ずそこには仕掛けなりモンスターなりがいるという事だろうか。


「はいはい、仰せのままに」


 アークが右手を一振りすると水面で小石を落としたように水が跳ねた。暫く目を閉じて思案するような表情をしてからもう一度腕を振るうと、今度は水面一帯にバシャバシャと音を経てて大量の何かが落ちて飛沫を上げる。おそらく空気の塊を落としたのだろうが、その数と範囲はとんでもないことになっている。ただの探査用の風のようだが、戦闘に使っても強力な武器となるだろう。


「なるほどな。通路の中心は膝よりも浅いが、壁際は腰ぐらいの深さがある。広範囲に柔らかい何か……恐らく植物が広がっていて大型のモンスターが一匹」


 正確すぎる……。この男を阻む何かを準備しなければいざという時に成すすべもない。


「薄暗くて水の中は良く見えませんね。なんの植物かまでは分りませんか?」


「…………分らんな。まあ行けば分るさ」


「……では行きましょう」


 エリザは何処か訝しげな視線を向けながらも同意する。


「……」


「……」


 見詰め合う二人。


「……なぜ行かないのですか?」


「ん? 俺から行くのか?」


「なぜ主戦力が後ろを歩こうとしているのですか……」


「ほほう。そうかそうか。そんなに俺に守って欲しいと。可愛いやつめ」


「ぐ、くぅ……このっ……いいでしょう。私も元冒険者です。この程度、貴方に任せるまでもありません」


 そう言ってエリザは水の中に踏み出した。足元を確かめながら、それでいて周囲にも気を配っているようだ。


「安心しろエリザ。何があっても、俺が守る」


 妙に甘い声でアークがささやく。


「……黙ってください」


 エリザは冷たかった。




 エリザが3メートル程進んだところでアークも踏み出す。足元にはまるでヘリコプターが水面すれすれを飛んでいるかのような水しぶきが立っていて、それが体重を支えているのかは分らないが、とにかく彼は水面を歩きだした。

 しかし防音も完璧なのか水しぶきの音が聞こえてこない。この分だとエリザにも聞こえていないだろう。


 二人が丁度曲がり角に差し掛かった時。


「それほど冷たくはありませんね。長時間入っていると消耗してしまうかも知れませんが」


 エリザが歩くたびにジャブジャブと音が立つ。


「ん? そうだな。まあ大して長い通路でもないし、問題ないだろう」


「そういえば長さは聞いてませんでしたね」


「この角を曲がって真直ぐ歩くだけで次の扉まで付くぞ」


「そうですか」


 そこで急にエリザは立ち止まった。


「ところで、先ほどから貴方の足音が聞こえないのですが……どういうことですか?」


「水辺を音を経てずに歩く程度造作もないな」


「なるほど、是非その技術はご教授賜りたいものです」


 クルリとエリザが振り向いた。

 ……が、アークの足は膝下まで水に浸かっていた。完全にエリザの動きを予想していたのだ。

 もっとも、水没した足は蠢く空気の膜に包まれていて濡れておらず、防音に加えて水飛沫も完全に押さえ込んである。


「悪いがこれも飯の種の一つでね。おいそれとは教えられないぜ?」


「……それは残念です」


 エリザはあからさまに腑に落ちないといった感じだが、それでも追求しなかった。

 もう少し明るければ、アークの服と水面との境目が全く濡れていないことや、水面下の足の様子に気付いたことだろう。

 ただの悪戯が無駄に高等技術だ。


 彼女が先に進もうと前を向いた時、


「え……あぁ!」

 

 気付いた時には既に遅く。彼女の足には植物の蔓が巻きついていた。前に進もうとしたエリザは前のめりに転びそうになり、堪えきれずに両膝を突いて立つ形になってしまった。

 直ぐに立ち上がったが、股下までびしょ濡れだ。

 ……少々可哀想なことをしてしまったか。


「こ……これは子取り藻!? なぜこんな地下に……」


 驚きつつも、細身で短めの剣を抜いて絡まる蔦を切り落とした。

 そうか。これは子取り藻と呼ばれているのか。こういう植物を想像して、ローコストを目指して改良した形だったから野生種に近いものが出来上がったのだろう。

 ……それにしても、なんて名前だ。村の子供が絡め取られて溺死……なんて事故が多いということか。

 もちろんここの子取り藻にも行動制限は設けてある。膝から上には蔦を絡ませない。頭が沈んだら直ぐに拘束を解く。の二つだが。


「ダンジョンの中で気を抜きすぎだろう。立ち止まったりするからそんなトロイ奴に捕まるんだ」


「くっ……分っていましたね? 何故言わなかったのです」


「植物系の何かが広がってるっていっただろ? 普通何かあると思うだろ」


 エリザはキッとアークを睨むが、何も言わずに歩き出した。水面に目を凝らし、ゆっくりと近づく子取り藻を片っ端から切り落としていく。このモンスターは根元の茎を切り離さないと倒せないため魔石にはならないが。

 一方のアークはと言うと再び水面歩行モードだ。

 流石にあれだけの偽装は骨が折れるということだろう。


「大型のモンスターもいると言いましたね。魚ですか?」


「んー、いや、魚じゃないと思うがなー。大きさは人と同じ位だ」


「大型と言ってもそれほどでは無いんですね」


「人間並みの大きさの水棲生物だぞ? まあまあ大物だろう。……ところでエリザ、やっぱり水音を立てない歩行方を教えてやるよ」


 水面に立ったまま声を掛けるアーク。


「どうしたのです。急に……なぁっ! そうですか。教える、というのは見せびらかすという意味だったんですね」


 風術を使った無茶苦茶な現象を前に、エリザは驚きよりも呆れと不満を覚えたようだ。

 

「たとえ私が風術師になれたとしてもそんな芸当ができ」


 そこまで言ったところで、エリザの背後で大きな水音があがる。素早く振り返った彼女の目には激しい水飛沫の壁が見えたことだろう。とっさに両腕で頭を庇ったが、上から下まで完全にずぶぬれだ。

 犯人は既に水中に逃げ、水上には怒りに震えるエリザと余裕の表情でガードしたアークが残った。


「……アーク」


「なんだ?」


「わざとですね」


「何のことかわからんな。会話でも主語を明……」


「急にネタばらしをしたのは私の油断を誘うためですね。と言っているのです」


 静かだが冷淡な声がアークの言葉を遮る。


「いや敵がどんな攻撃をしてくるか分らないのにそんな事しねーよ」


 分ってたらそれで遊んでた可能性もあると。


「ですが敵の位置は分っていたのでしょう。あえて敵の目の前であんな……」


「……疑り深い奴だな。例えそうだとしても、それで油断したのはそっちの落ち度だろう」


 アークの言い分は実に正しい……のだが、口調にこそ出ていないものの彼の目元や口元を見れば分る。悪戯成功を誇る悪がきの顔だ。

 エリザはプルプル震えているが、感情に任せて食って掛かることはしなかった。


「紅蓮の山に住まう王 烈火の怒りに身を焦がし 仇現るその日まで 熱き刃を研ぎ澄ます」


 あまりの怒りに気が触れたのかとも思ったがどうやら違うようだ。言葉と共に掲げた右腕の前に、腕から生えるように炎の棒が生まれたのだ。

 揺らめく炎ではっきりしないが、太さはおよそ5センチ程、長さ1メートルといった所だ。それは手の前で静止して轟々と音を経てている。


 どうやら今のが魔術の詠唱のようだ。なんだか背筋がむず痒くなる気がするが、初めてそれっぽい詠唱が聞けて少し感動していたりもする。


 5秒ほどの静寂、その間に少しずつ炎の棒が太く長くなっていく。詠唱の内容通り、待機時間中に成長し、強力になっていく魔術なのかもしれない。

 そして先ほどの犯人が水中から飛び出した。青い鱗とヒレを持つ人型の魔物……いわゆる半魚人とかマーマンとか言われる奴だ。コイツの役目は水中に潜んで冒険者に水をかけるのと、溺れそうな人間を救出することだ。……怖い顔をしているがその主な配置目的は後者である。


 手のひらと腕から生えるヒレをフルに使って水をかけようとするが、


「フレイムジャベリン!」


 待ってましたとばかりに放たれた炎の棒……もとい炎の槍が胸を貫く。

 苦悶の表情を浮かべてギシャーッと叫びながら倒れこみ、そのまま魔石となった。


 やはり生身のモンスターは死ぬところがリアルというか生々しくて気分が悪くなるな。前にゴブリンや狼がやられた時もそうだった。だが溺れる人間を迅速に救出する役目はスケルトンやゴーレムには荷が重かったのだ。

 それにしても一撃か……正直エリザを甘く見ていた。詠唱こそ長いが、その射出速度と威力は破格といっても言い。


「学院仕込みの詩詠唱か。なかなかのもんだな」


 アークの結構真面目な賞賛にも反応せず、エリザは足元の子取り藻をしっかりと切り払って歩き出した。

 それにしても詩詠唱か。確かに詩的というか物語的な内容の詠唱だったが、ダンジョンの翻訳機能の弊害か韻の踏み方やリズムが全く伝わってこない。少し残念な気分になってしまった。そしていつだかにアークが言っていた魔法学院とやらで育った魔術師は皆が皆あんな感じの詠唱をするのか……。



「まあ、良かったじゃねーか。お陰でお漏らしみたいになってたのが誤魔化せてるぞ?」


 デリカシーとか無いのだろうかと疑ってしまう……。が、分っててやっているから性質が悪いんだろうと自己解決した。

 エリザはアークの言葉には一切応えず、次の部屋へのドアを通り、そして丁寧な動作で閉めた。

 アークを置き去りにして。


「やれやれ」


 と、アークは誰もいないのにワザとらしく肩を竦めてから、風を使って子取り藻の根元を正確に断ち切ってから、藻と半魚人の魔石一つずつをしっかりと回収して先にすすむのだった。

面倒くさいのでマリーナ&ナデアのルートは省略して、伝聞形式にしてしまおうと思います。

だってマリーナの無双シーンなんて面白くも何ともないし、たとえ需要があっても面白く書く技量がないですし。


というわけでダンジョンアタックが残り①話、その後のお話が①~②話ってとこですかね。いやー長かった。幾つか閑話も交えながら、早く次の章にいきたいなぁ……。


また地図かくのか……。

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