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やすらぎの迷宮  作者: 魔法使い候補生
第一章 公衆浴場として
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ダンジョンマスター

 四人が暗い穴に落ちていく。そこまで確認したところで、ダンジョンの様子を知覚から遮断して椅子から立ち上がった。

 彼らは僕と同じ最終階層に到着してしまっているのだから、最後の罠を乗り越えられた場合その時点で僕の負けが確定してしまう。僕には戦う力も度胸もないのだ。


 部屋の隅にある隠し扉を通り、さらに奥にある隠し部屋に向かう。

 先ほどの部屋にあるダンジョンコアを奪われれば僕は魔力の供給源を失い死んでしまうだろう。しかしあんな物騒な剣で斬りつけられて死ぬくらいならコアを渡して静かに死を待つほうが良いだろう。下手したら捕らえられて拷問されたりするかも知れないし……。

 この隠し部屋は侵入者達がコアを持ち出すまでの間隠れているためだけの部屋だ。家具などは一切ない。




 一応最後の罠は確実に仕留める事を考えたつくりにしてある。

 簡単に説明すると、まず始めにゴブリンの死が引き金となって部屋の床すべて開く。部屋全体が落とし穴になっているのだ。落ちた先はトリモチのプールになっていて侵入者の動きを制限する。下の部屋にはスケルトン(槍)2体、スケルトン(弓)2体、ゴブリンメイジ1体が待ち構えていて、動けない侵入者にとどめを指すという仕組みだ。さらに部屋には闇のエレメントを配置しているため暗く、今まで明るい通路を通ってきた者達ではこちらの先制攻撃を受けきるのは難しいだろう。

 そこまでの簡単で良心的な道のりは油断を誘うためのものでもあった。もっとも、一つ目の部屋のスイッチは予想以上に侵入者の疑心暗鬼を誘うものだったみたいだし、水攻めも思ったよりも精神的な効果も見込めた。逆に狼やクレイゴーレムはもう少し頑張ってくれると思っていたのに、まさか敵に魔物を使う資質を疑われるとは思わなかった。……落とし穴の魔物は余った魔力の殆どを使って強化してあるから大丈夫だと思いたい。

 考え付く限り、そしてダンジョン生成のための魔力が許す限り現段階ではもっとも致死性の高い罠を張ったつもりだ。

 ダンジョン生成のルールが曖昧なため、これからもより確実な方法を考えていく必要があると思う。




 そもそも現在の状況すら把握しきれてないのだ。

 記憶も曖昧で、自分の名前は分からないのに日本出身だということは覚えている。向こうのテレビCMや漫画の台詞は覚えているのに役者の名前は覚えていない。逆に素性は一切分からないのに顔と名前が一致する場合もある。

 数日前に目が覚めたら巨大な水晶玉(ダンジョンコア)が中央に鎮座している石造りの小部屋にいて、何故そこにいるのかは全く不明だった。

 コアに触れたとたん情報が頭に流れ込んでくるような感覚に陥り、最低限の情報が得られたのが幸いだった。



**********


コアは契約者の生命活動を補助する。

食べなくても死なないし、病気にもならない。

食べたり寝たりすることはできるが、それが代謝や成長に影響することはない。

契約者は、致命傷を受けるかコアが破壊されると死ぬ。


契約者はコアの力の及ぶ範囲から出ることができない。

コアは地上への出口と繋がった場所にしか設置できない。

契約者はダンジョン内の全てを把握することができる。


コアの力を発揮することで部屋や通路、罠、魔物などを創造することができる。

創造できるものは、その性質や形状をある程度想像でき、かつ世界の法則の範疇に収まる物に限る。

床や壁として創造したものは、コアの力以外で破壊することができない。

創造した魔物は契約者に絶対服従する。

創造物は死亡した場合も一定時間後に自動的に復活する。

創造した魔物は魔力を消費することで後から強化できる。

込めた魔力量が多いほど、迷宮の外での存在可能時間が長くなる。

即死および脱出不可能な地形や罠は作れない。


コアの力は魔力を消費することで使用することができる。

創造に必要な魔力量は、被創造物の大きさ・材質・複雑さ・成型の難しさ等の要因によって決まる。

魔力は迷宮内で生命体がその生命力を消費することで得られる。

ある程度の魔力を貯めると、魔力の中継拠点を設置することが出来るようになり、迷宮設置可能範囲を広げられる。


**********



 重要そうなのをまとめるとこんな感じだ。

 分かったことも多いけどそれ以上に分からないことが増えてしまった。

 例えば、コアの設置場所を進入不可能の密室に設定できない理由とか、スケルトンが世界の法則に当てはまってる事とか、死んだ魔物の復帰の際の魔力はどうなるのかとか、『即死罠の判定って誰がするんだよ!』とか、僕がここにいる理由が結局分からない事とか……。

 特に最後のは問題だ。もしも僕のこの状態が何者かの意図するところであるなら、そいつの目的は何なのだろうか。

 人間の敵だとするならば、即死罠を禁止したりコアを隔離する事を禁止する意味は無い。

 逆に人間サイドであると言う場合も疑問がのこる。このダンジョンシステムは明らかに対人戦闘を意識したものだし、冒険者の話を聞く限りダンジョンマスターは言葉を話せない異形であることの方が多いようだ。

 可能性としては、人間を狩って成長したダンジョンコアあるいはダンジョンそのものを後々奪い取って利用したい何者かによる陰謀。といった線があるが、それにしたってもう少し楽なやり方がありそうなものだ。今回みたいに別の誰かに横取りされる可能性もあるわけだし……。



 まあこの辺は考えたって仕方が無いし、分かったところで僕にどうこう出来ることでもないだろう。

 ……だけど今は待つ位しか出来ることがない。彼ら4人をあの罠で仕留められることを祈るだけだ。本当ならさっきまでのように彼らの動向をチェックするべきなのだが、生粋の日本生まれ日本育ちの僕には、自分の罠で人が死ぬ様を直視する勇気がなかったのだ。

 というか出来れば一人も殺したくなんかないんだ。だから一階に公衆浴場を作ったのに完全に無視されてしまった。

 思惑としては、攻略するよりも娯楽として楽しんだ方が有益であると思わせることで攻略の意思を削ごうというものだった。

 公衆浴場という言葉自体がそもそも存在しないのだろう。浴場の意味すらわかっていなかった。


 ……自分で言葉を書いておいてなんだけど、言葉が通じるのはどういうことだろう? また一つ謎が増えてしまった。



 そもそもこの娯楽施設としてのコンセプトを思いついたのは、『生命力の消費により魔力を得る』という力に注目したからだ。これは単純に殺すだけではなく、生命体の傷の修復や下手したら代謝などからでも魔力を得られるのではないかと考えた。実際、彼らがダンジョンに入ってから微量ながら魔力が回収された。

 つまり、様々な娯楽を用意して少しでも長くダンジョン内に居ついてもらい、家に帰って更に多くの客を呼び込もうという算段だ。

 殺すよりも魔力の回収効率は大きく落ちるけど、僕の精神安定上重要なことだった。そのうち慣れるのかも知れないけど、自分が自分でなくなってしまうようで怖かったのだ。

 自分の名前すら分からないくせにとも思うが、むしろ、だからこそ今ある考え方や倫理観こそが自分のアイデンティティのようにも感じた。


 

 


 なぜ今になってコレまでの行動や推論を振り返ってみたのかというと、単純に恐怖を紛らわせたかったのだ。

 ただの現実逃避である。 

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