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混浴ってどうなの

感想にて、見取図の階段の接続が昔と今で違うというご指摘を受けました。

図の修正は大変なので当分しませんが、最新の図面の接続が正しいと思ってください。イメージとしては、角ばった螺旋階段のような感じですね。


また、地図はあくまで参考程度であり、縮尺や配置には多少のずれがあります。

「アーク様! お背中御流しします!」


 アークが一人で風呂に浸かっている時のことである。胴体にタオルを巻いたキャスが乱入してきた。しかもアレンに「暫く風呂には入らないで下さい」と言ってから来ているのだから意外と計画的だ。


「……いらん。出てけ」


 アークの方はというと、これっぽっちも動揺した様子がない。仮にキャスが素っ裸で入ってきても同じ態度で返事をしたことだろう。

 アークの反応が気になって見物していたが、キャスも来たことだし視界をシャットアウトしておこう。


「んもう。そんなに照れないでくださいよ。一緒に身を清めて疲れを癒しましょう。二人っきりで」


「あのな、なんでダンジョンマスターが風呂を男女で分けたと思ってるんだ? 風呂場にそういう問題を持ち込むなってことだろうが。職員がダンジョンマスターの方針に喧嘩売ってんじゃねぇ」


「それなら問題ありません。だってこちらにはゴーレムの監視がないじゃないですか。つまり、こちらに女性が入ることは問題ない、いえむしろ推奨されていると判断できます!」


 随分突飛な理論で攻めてきた。魔力をケチらずに両方にゴーレムを設置するべきだったか。


「飛躍しすぎだ。お前の言っていることは唯単にそういう可能性もあるというだけで、それが正しいとは限らない」


 アークがもの凄くまともなことを言っている。

 まあ普段から一応は理にかなったことを話しているが、態度や性格の補正で随分だめ人間に見えていた。


「でしたら男湯から男女共用に変えていただけるように提案してみましょう。そう! 共浴なんて呼び名はどうですか? 誰も損しませんよ?」


「……どうしてこんな奴が派遣されたんだか。……エリザめ、しくじったか?」

 

 独り言のようにアークが呟く。彼の言葉から、キャスの派遣はエリザよりも力のある人物が関与している可能性が出てきた。まあアークの予想からもれた言葉をヒントに推測しただけだから信憑性は低いが。

 ――キャスが謀略に向いた性格ではなさそうなのがせめてもの救いだ。そもそもまだキャスが敵対派の手先であると決まったわけではないし。

 どちらかと言うと、ダンジョンに取り入ろうとする別派閥だと言われた方が納得できる。それもキャス自身にはそのつもりは無く、伝手を作るための布石程度にしか思えない。これまでのキャスの言動が全て演技なのだとしたら、ギルド相手の取引を有利に進めるなど夢のまた夢だろう。


 いや、想像であれこれ考えるのはやめよう。情報量が少なすぎて妄想の域に入っている。


「とにかく。出て行け」


 そういってアークがひょいと手を払うと、突如現れた突風がキャスを直撃して脱衣所まで吹き飛ばした。ご丁寧にドアの開閉までやっている。

 この能力を見るに、やはり彼をトリモチ落とし穴で仕留めるのは難しいだろう。対魔術師用の罠を考えるか、強力なモンスターを配置する必要がある。


 キャスの悲痛な悲鳴が聞こえなくなったところで、アークは一つため息をついた。





「ダンジョンマスター様。男湯を男女共同で使えるようにすることを提案します!」


 翌朝のことである。

 困ったことに、キャスは有言実行するタイプのようだ。


【理由をお聞きしても?】


「男性は皆、女性の裸が好きなのです! 男性冒険者達の心を掴めます!」


 一応それっぽい理由は考えておいたみたいだ。

 確かに混浴が実現すれば多くの男性冒険者はダンジョンを攻略しようなどとは思わないだろう。

 浴場に入り浸るような輩も現れるかもしれない。

 ……あくまで実現すればであるが。


【なるほど。しかし問題も起こり易くなるかもしれませんね。しばらくは様子見が必要でしょう。】


「それでは意味なっ!……と、途中から仕様を変えるのは冒険者達に要らぬ混乱を与えることになりかねません」


 やはり冒険者が来るようになってからもアークと一緒に風呂に入ろうなどと思ってはいないようだ。他人の目を気にする理性は残っていたか。


「あっ! アレンさん、良いところに! アレンさんも女の人とお風呂に入りたいですよね?」


 偶然通りかかったアレンを味方に付ける気だ。しかしその切り出し方はどうかと思う。


「はい!? え、ええと……」


「聞きましたかダンジョンマスター様! アレンさんも賛成だそうですよ」


「え、いや違っ! いったい何の話ですか?」


「ですから、男湯は女性も出入り自由ということにしようという話です。エリシーさんと入りたくないんですか?」


 最後の方はマイクに入らないように小声だった。しかし僕に対して内緒話など不可能なのだ。


「なっ……エリシーと……いや、でも。だ、あー」


 アレン。そこはきっぱりと否定すべきだった。

 いや、それはそれで問題かもしれない。論理的かつ理性的に否定すべきだったと思う。


「アレン……と、キャスさん? 私がどうかしたんですか?」


 噂のエリシー登場である。

 妄想中の相手から突然声を掛けられたアレンは固まってしまった。


「どうしたのアレン?」


 アレンは何とか平常心を取り戻したのか、ゆっくりと振り返った。


「い、やぁエリシー。どうしたんだい? そんな格好で」


 彼女はメイド服ではなく、少しサイズの合っていない革の鎧と服を着ている。


「これから水汲みと、あとは野草でも摘んでこようかと思って。それで? 私の名前、出てたわよね? 何かあった?」


 話題変更失敗である。


「え、うぁ、ええとね。その~」


 そう言いよどんでキャスやボードに目配せするアレン。

 しかしそれをエリシーに気付かれたようで、


「マスターとも話してたのね。いったいどんな……」


 エリシーがボードに残った履歴を見る。

 ギョッとしてキャスとアレンがボードを見直すが、残念ながら決定的なことは書いていなかった。

 ほっとする二人には悪いが止めを刺させてもらおう。


【男湯を男女共用にした方が人気が出】


「わー! あぁーーー!」


「ぇまっ、まって!」


 慌てた二人がエリシーとボードの間に割り込む。

 ……この二人は僕が雇用主だったり取引相手だったりすることを忘れているのではないかと疑ってしまう。

 僕も半分悪ふざけのように告げ口しようとしたが、普通会話に割り込んで妨害などするだろうか?

 エリザに言いつけてやろうか。


「……それでいったいどうして私の名前が出てきたのかしら? アレン?」


 ばっちり見えていたようだ。


「これは、いっいや違うんだ。キャスさんが!」


「ぅええ! あぅぁ、私は、だって。……アーク様ぁ」


 突然ふられたキャスは動揺してわたわたしていたが、情けない声でここにはいないアークに縋る。

 というかアレン。そこでキャスに責任転嫁するのは悪手だろう。たとえ真実だとしても。


「……もういいわ。マスターと話します」


 言外に『どけ』と言うエリシーであった。哀れアレン。だが悪いとは思わない。

 二人はすごすごと脇にずれた。


「マスターの判断は正しいです。確かに女性と入浴できるというのは男性には魅力的かも知れませんが、ほとんどの女性にとっては嬉しくもなんともありません。人によっては不快に思う可能性もあります。男性側としてもそれ目当てでダンジョンに来たのに女性が皆女湯に行ってしまっては不満がたまるだけでしょう」


【なるほど。やはりそうでしたか。なら女湯にゴーレムを配置したのも間違いではなかったかもしれませんね。男女で浴室を使い分けることを徹底しましょう。】


「はい。あのゴーレムの存在が、マスターを信用できるかどうかの判断においても役に立ったのは間違いないでしょう」


 話の流れ的に混浴は無理だと察したのか、キャスは目に見えてがっかりしているのが分かる。

 アレンは少しホッとしているか?


【キャスさん。ということですので、男女共用の話は無かったことに。】


「……はい。思慮の足りない意見でした。申し訳ありません」


 よし。これで一件落着だ。


「それではマスター。私は外に行ってきます」


【わかりました。気をつけて行ってきて下さい。】


「あ! エリシー。一人じゃ危ないよ。僕も行く」


 アレンがすかさず同行を申し出た。


「あなたと一緒の方が危ないんじゃないかしら? 一人で十分よ」


 しかしエリシーの返事は随分とそっけないものだった。まあつい先ほどのやり取りを考えれば当たり前か。

 エリシーの脳内認識は少々行き過ぎている可能性もあるが、まあ問題ないだろう。


 誤解を解く間すら与えずにエリシーは部屋を出て行ってしまう。

 それでも彼女の事が心配だったのだろう。アレンはエリシーが出て行った後をまるで隠れるように着いていった。

 

 アレンよ。気持ちは分かるがそれではただのストーカーである。

 バレたら余計に心象を悪くするだけだ。


 まあ見ていて楽しいというのもあるが、エリシーの心がダンジョン以外に向くのはあまり良くない。

 アレンと仲良くなりすぎて人並みな生活に戻りたがったり、逆に外との接点を失いすぎて町を恋しく思われるのは困る。

 彼には是非とも、ゆっくりと距離をつめて欲しいものだ。

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