大部屋●マップ3.0●
お待たせしました。
……待っててくれましたよね?
「えぇ! なにこれ!? 広っ!」
彼女はよくここに来る冒険者で、確か名前はリーノだ。いつも同じ4人組で訪れる、もはや常連である。
昨日の昼に住人達4人には外に出てもらって大改築を行ったのだ。ダンジョンに入ってまず最初に見えるのは石の床と壁で出来た大部屋である。以前のここの姿を知っているリーノ達が受けた衝撃は僕には正直計り知れない。
風呂場を一段下げるついでにエリシーたちの部屋と冒険者撃退用のダンジョン区画もずらしてしまった。これで今後、急に何かを作る必要が出た時に使うスペースを確保できた。それにダンジョン区画をお客さん達の区画と分けることで自分の近くを常に『創造可能な空間』とすることもできた。最下層に踏み込まれたら実質負けみたいなモノなのだから、『常に』といって差し支えないだろう。
「リーノ。これはアレじゃないかしら? 内装の変化ってやつ」
パーティメンバーの一人がリーノに声をかける。
「――あぁ、何日か前にエリザさんから聞いたわね。確か『いつもと違う所を見つけたら詳しく調べて報告して……』とかなんとか」
「そうそれ。まさかこんなに変わるなんて考えて無かったけど。……この広い空間に柱が一本も無いなんて。天井落ちて来ないでしょうね?」
「ちょっと。不吉なこと言わないでよ。――よし。それじゃ、皆でこのフロアを調べるわよ。二人ずつ壁伝いにね」
そういって二手に分かれて壁に沿って逆周りに周り始めた。
といっても、今は地下一階には何も設置していない。彼女達は何も発見できずに次の階に進むことになった。
「あ、確かリーノさんですよね。こんにちは。上の様子にビックリしませんでしたか?」
地下二階。掃除中のチコは突然やってきた冒険者達にも物怖じせずに声をかけた。
「こんにちはチコちゃん。お風呂はなくなっちゃったの? ここに来る冒険者はみんな楽しみにしてるのよ?」
「お風呂なら今はこの階にありますよ。マスターがギルドの人と上の階に部屋を作る約束をしたみたいなんです。昨日作ったばっかりですよ」
「たったの一日でこんなに作り変えられるものなのね。ダンジョンってやっぱり不思議だわ」
リーノはやれやれとでも言いたげに肩をすくめた。
「わたしも詳しくないんですけど、『創るのは大変だけど動かすのはそうでもない』らしいですよ。エリシーさんがマスターに聞いてました」
「ふーん。まあ難しいことはいいわ。とりあえず変わったところだけ調べたら風呂に入って休ませてもらうわ。明日はいつも通り森に入るから」
「はい。お仕事頑張ってください」
「うふふ。チコちゃんもね。それじゃ」
そう言って仲間達に指示を出し始めるリーノ。初めて来た時はまだ如何にも駆け出しといった感じだったが、すっかりパーティをまとめる姿が堂に入っている。
一先ず下階を調べることにしたようで、チコと分かれて階段を降りていった。
最近は『ならし』も兼ねて、チコやチヤにも冒険者達と関わってもらっている。ダンジョンが公開されていきなり外と関わるよりも、ギルドが認めている人間達で距離感をつかんで貰うのが目的だ。
二日後、いつも通り何事もなく彼女達は帰っていった。年少二人も少しずつだが冒険者の知り合いが増えてきている。きっとダンジョン公開後に彼女達の助けになるだろう。
リーノたちが帰ってから六日経った。そろそろギルドから使者が来てもいい頃だとは思うのだが、リーノ達と入れ替わるようにパーティが一組来ただけでその後は音沙汰なしだ。彼女達もダンジョンの様子を調べていたが、リーノたちが報告するはずだから恐らく無駄になってしまうだろう。少し申し訳ない。
前向きに考えるなら、内装の変化の情報を得て冒険者を寄越さなくなったということは、近いうちに再び話し合いの場を設けるつもりがあるということなのだろう。交渉中は他の冒険者達に聞かせたくない裏事情が飛び交う可能性もある。
最近はエリシー達の食生活もある程度改善されて来たし、食料のストックも十分ある。しばらくの間エリシーには遠出しないでダンジョン内にいてもらったほうがいいだろう。次もサラが来るかは分からないが、エリシーの様子を確認するために少なくともマリーナとナデアのどちらかは来るはずだ。エリシーが居た方が何かと都合がいい。
などと考えていた矢先のことだ。噂をすれば影と言うが、彼女達は期待を裏切らないというか間が良いというか悪いというか……。いや悪くはないか。まあそんなことはどうでもいいのだ。
「これは……報告は受けていましたが、実際に目で見ると凄さが良く分かりますね」
先頭で入ってきたのはエリザさんだ。キリッとした瞳が見開かれている。
「ふむ。確かに、この広い空間を柱なしで支えきれるとは思えんな。ダンジョンというのは本当に興味深い」
「凄っ……。こんなに広い部屋を自由に使ってもいいなんて。ダンジョンマスターって太っ腹なのね」
マリーナとサラである。すぐ後ろにはナデアが控えている。結局三人でやってきてしまっているが、彼女の親はこの状況をどう思っているのだろうか? 他の者には任せられない理由があるのか、別の思惑があるのか。
マリーナが来たので監視の感度を落とす。彼女はどうやってかコチラの気配を逆探知してくるからだ。常に監視できることがバレると色々と面倒だし信頼もなにもない。要所にカメラ役を向かわせて、それ以外の場所では全体を大雑把に把握する程度に留めたほうがいいだろう。
彼女達が部屋の中に踏み出していくと、さらにその後ろから二人、新顔が現れた。男女のペアだ。
男のほうは十代後半位の細身で若々しい青年だ。
「マリーナさん。本当にここにエリシーが住んでいるんですか?」
「ああ。前に会った時は元気そうだったぞ。特に行動を制限されている様子もなかったし、すぐに会えるだろう」
大部屋をぐるりと見回した彼はマリーナに怪訝そうに問いかけた。しかし何処か親しげな印象も受ける。彼はエリシーと関わりが深いようだ。マリーナとも親しいようだから、案外同じ出身なのかもしれない。
「アレンさん。エリシーが心配なのは分かりますが、落ち着いて下さい。ダンジョンマスターと仲良く出来ている間はエリシーも安全です。貴方が心がけるべきは好印象を与えることですよ」
ナデアのおかげで彼の名前も分かった。少しそわそわと落ち着かない様子を嗜める言葉に、彼は『はい、そうでした』短く答えて深呼吸した。
そんなに構えてくれなくてもいいのだが……。
「先輩。早くアーク様に会いに行きましょう。きっとこんな所に閉じ込められて、寂しい思いをしているはずです!」
もう一人の女性がエリザを急かした。彼女もやはり十代半ばから後半といったところだろう。エリザを先輩と呼んでいることから、ギルド関係者であるとは思うのだが……『アーク様』というのはどういうことだろう。ギルド内でのアークの立ち位置がわからない。
それにアークへの理解も僕とは随分ずれているように思う。たとえ数ヶ月牢屋に幽閉したとしても寂しがるような男ではないと思うのだが。
「キャス。言葉に気をつけなさい。『こんな所』などと二度と言わないように」
エリザに叱られシュンとなる彼女。キャス。
しかし、不満に思ってもいるようだ。エリザは追求しなかったが。
対応を間違えると面倒くさいことになりそうな女性だ。




