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文字を覚えたい

「エリシーさん。文字を教えてください」


 エリシーが部屋に戻って一番にかけられた言葉だ。

 彼女の目の前には、背中が見えるほど深く頭を下げる姉妹の姿がある。


「えーっと。まあそれは良いんだけど……なんで急に?」


 突然の事に困惑しているのだろう。彼女としてはもっともな疑問だ。


「そのですね。いつもマスターとの交渉とか連絡はエリシーさんにお願いしていたんですけど、やっぱりそれじゃあエリシーさんの負担が大きくなってしまうと思うんです。私たちが文字を読めるようになれば、いざという時役に立つと思うんです」


 チコの模範解答である。僕としても彼女たちと筆談できた方が色々とやりやすい。


「アークばっかりずるい」


 そういってボードを指差すチヤ。本音が漏れている。


「わっ! わーっ! ……えっと。え、えへへ……」


 慌ててチヤの指を下ろさせ、言葉を遮るがもう遅い。チコ本人もわかっているのか、笑って誤魔化すことにしたようだ。


「まあいいわ。ここに残るにしても、街に行って奴隷になるにしても、読み書きができた方がいくらかマシでしょうし」


 誤魔化されてあげるエリシーは実にいい人である。


「それじゃ、そうね……。折角だからこのボードを使わせてもらいましょう。書くものがないと教えようがないわ」


「え、でもいいんでしょうか?」


 チコはやはり少し慎重で臆病な娘だ。僕としては全く問題ない。


「それは聞いてみないと分からないわね。でも『建前』の方ならマスターにも利があるし、私たちが悩んでも仕方ないことよ」


 というわけで、彼女は早速マイクのスイッチを入れて問いかけてきた。





【いいですよ。いつでも好きな時に使って下さい。二人とお話できるのを楽しみにしてると伝えて下さい。】


「ありがとうございます。――使っていいってさ。二人と話せるのを楽しみにしてるそうよ。頑張らなきゃね」


 そういって、エリシーは少しだけ意地悪そうに笑った。


「うぅ、頑張ります。有難うございます」


「ありがとうございます」


 二人がペコリと頭を下げた。




 で、さっそく使ってもらっている。マイクはoffだ。

 二人は全く読み書き出来ない状況であるから、練習方法もシンプルだ。

 エリシーが単語を書いて読み上げ、それを二人はボードいっぱいに隙間がなくなるまで書き続けるというものだ。

 すでに会話ができるのだから、ひとまずは文法などに力を入れる必要がない。


 最初は『私』『あなた』『ダンジョン』『冒険者』『ギルド』『パン』などの身近にあるものからだ。

 とりあえずこの単語がわかればダンジョン内で交わされる会話を最低限理解できる……というようなものから重点的に攻めている。


 まあ気長に見守るしかないだろう。





「で? それを話して俺にどうしろと?」


 アークは気だるそうに答えた。


【ここに来る冒険者の多くは文字を読めるようでしたので、ギルドで文字を教えているのかと思ったのです。良い方法や道具があったら教えて欲しいと思いまして。】


「そりゃあギルドの方で文字を読める奴を選んで送って来てるからな。新しく張り紙が追加された時に誰も読めなかったらあんたに迷惑をかけるかもしれないだろ? 一応ギルドでも文字を教える体制を整えはじめてるが、まだまだ識字率は低いな。特に男どもは5~6割って所だろ。新人はさらに字の読めない奴が多い。女の方が勉強熱心というか、将来を見据えて字を覚えたいっていう奴は多いぞ。先輩の女冒険者たちで協力して教えてるみたいだ」


 なるほど、細かいところで気を使わせてしまっていたみたいだ。そういえばカイン達やマリーナ達は問題なく文字を読めていた。いきなり字の読める冒険者に当たったのは運がよかったのだろう。


【それでどのような方法で教えているのですか?】


「そりゃ場合によるが、そうだな。例えばギルドには冒険者向けのパーティ編成とか野営とかに関する指南書みたいな本がおいてあってな。そういうのを教材に文字を教えて一石二鳥を狙ったりしてる。まあ筆記用具は自前だし、講師は手の空いたギルド職員が二束三文で突発的に引き受けるだけだから、しっかり教えてるわけじゃないんだが」


【わかりました。それでは一般の家庭ではどうでしょう?】


 この質問にアークは少し考えてから、


「普通の農家や猟師として暮らす分には文字はいらないからな。最低限の計算ができれば問題ない。少し裕福な家とか商人の家なら絵本なんかを使って親とかが教えてるが」


【なるほど。それなら絵本を手に入れるのがいいかもしれないですね。よろしくお願いします。】


「はぁ? なんだそりゃ?」


 流れで押し切ろうと思ったがダメだったか。まあ自分でも無理があるのはわかってる。


【私と冒険者との間に立ってくれるのではなかったのですか? 冒険者を通じてギルドやサラさんに本を欲しがっていることを伝えて欲しいのです】


「あ……あぁ。そういうことか。俺に買ってこいって言ってるのかと思ったぜ。当分帰ってくるなって言われてるからな」


 ただの勘違いのようでよかった。次の冒険者が来るのがいつになるか分からないが、今のところそれが最速だろう。


【それで、お願いできますか?】


「おう。もちろんいいぞ。話題振りのネタ提供感謝する」




 ――次に来る冒険者さん。ごめんなさい。

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