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アークと雑談

 この数日間で、僕とアークの間には至って良好な関係が築かれつつあった。

 今のところ彼にダンジョンの仕事をしてもらう予定はないし、彼にも積極的に働く気は無いようだった。

 ボード越しに雑談をしたり、互いに当たり障りのない範囲で情報交換をして時間を潰す、のんびりとした日々に安らぎすら覚える。

 

 最大の収穫は、魔術に関する情報が得られたことだろう。

 僕はダンジョンマスターとしての知識を得た時に『魔力』の存在を自然と知ることができたが、この世界の住人も魔力というものの存在は認識しているとのことだ。それが何であるか、どこから生まれてくるのかは知られていない。

 地球でも、目に見えず触れることもできない『空気』という存在は大昔から認識されていたのだし、特におかしなこともないのだろう。

 魔術とは『魔力を操り事象を起こす技術』なのだそうだ。そのアプローチの仕方は多様に存在し、文字や図形に力を持たせたり、歌やジェスチャーを媒介にしたりと様々なのだそうだ。

 それらは一族に伝わる秘術であったり、国家や民族独自の文化と密接に関わるものであったりするため、複数種の魔術を扱える術者はすくない。学ぶ機会がないし、器用貧乏になるより一点特化した方が良いという考え方が一般的であるらしい。

 それでも、大きな国の王都には魔術学院が設置され、詠唱魔術や紋章魔術などの、オーソドックスに知られている物を研究し、若い世代に伝える機関もあるのだそうだ。

 なんとも心躍る話である。ダンジョンマスターとしてこのダンジョンに縛り付けられている僕には縁遠い話であるが。


 アークの使う精霊術は、精霊と呼ばれる存在と心を交わして術者の望む事象を現実に引き起こしてもらう術なのだそうだ。

 完全に先天的に持って生まれた才能に左右される技術で、精霊との親和性が術の威力や精度を決める、運と血筋に依存するシビアな世界らしい。

 火水風土の四大属性の内一種類に特化した魔術であり、どれか一つの属性の精霊と意識を繋げることが出来た瞬間、それ以外の属性の精霊を感じる道は閉ざされてしまう。

 そのかわり、精霊術は最速にして最大の自由度を誇る魔術であり、魔術師同士の1対1の戦闘においては最強と言われているのだとか。

 他の魔術師が詠唱なり道具の準備なりをしている間に『こんな事象を起こしたい』をいう思いを精霊に伝えるだけで良いのだ。おまけに、精霊術には特定の型やパターンは存在せず、術者の応用力次第でありとあらゆる場面に対応できる。他の術とは圧倒的に戦術の幅が違うのだ。

 ちなみにアークは風の精霊と心を交わすことができ、風術師とも呼ばれるらしい。


 エリシー達の首輪にも使われている契約魔法というのは、紋章魔法を主軸に幾つかの魔術を組み合わせた魔法で、その名の通り約束事に魔術的な拘束力を持たせる魔術であるとのことだ。

 一見便利そうではあるが、実は利用される機会は少ない。契約内容に穴があった場合、一方に不利な制約がかかってしまう場合があったり、そもそも相手を信用していないと公言するような魔術だからだ。

 昔は貴族や商人が取引に使っていたそうだが、現在は改変されて奴隷契約や犯罪組織の裏切り防止のために使われている。しかも製作者が優秀だったのか、解析が困難で複製は容易ととんでもない性能の術式で、裏世界に蔓延って撲滅できないとのことだ。

 

 まあ現状では首輪の解除法が見つかってしまうと僕が困る。彼女たちには悪いがもう少しここで働いてもらいたいところだ。



 他にも、アークの冒険者時代の武勇伝を聞けたことは大きい。外の人や冒険者の考え方や行動原理、出会ったモンスターや野生の獣について色々と喋ってくれた。

 女性相手の武勇伝を聞かせてもらったこともある。……別に頼んだわけではないが。

 その時は偶然チコが通りかかって、顔を真っ赤にして走り去ってしまったものだから興がそれたのか話は終わったが、僕としてはいつになったらネタ切れになるのかと内心げっそりしていたのだ。なにせコロコロと女性の名前が変わるものだから、両手の指を超えた段階で餌食になった女性たちの名前を覚えるのをやめてしまったほどだ。

 その後、アークはエリシーに文句を言われていたが、本人はどこ吹く風といった様子でエリシーが空回りしているだけであった。


 来たばかりの頃に言葉数が少なかったのは、未知の相手に隙を見せるのを嫌ったかららしい。まあ確かに、僕が許可を出したら本人の意思とは関係なくここに住まわされる事になっていたのだから当然かもしれない。


 

 

 そんなこんなで、まあ色々有りつつもなんとか仲良くやっているわけだ。

 そして今も、アークは地下2階ボードの前で横向きに寝転がって、折りたたんだ自分の腕を枕にして気だるそうに喋っている。ちなみに寝転がっている部分だけ風の魔術でキレイに掃除されている。この世界に来て初めて見た魔法らしい魔法(正確には魔術だが)は非常に地味で夢が壊された気分だった。まあ凄いと言ったら凄いのだが……。


「リスレナの奴ももう一押しだったと思うんだがなぁ。やっぱパーティで来てると一人だけ呼び出すのは難しいかぁ?」


 リスレナとは今朝までダンジョンに滞在していた冒険者の女性の一人である。アークは二日前の晩の風呂上りの彼女を気に入ってからアプローチをかけていたのだ。


【私には女性の心は分かりませんが、リスレナさんは望み薄だったと思いますよ。一緒にいた赤毛の女性の方が可能性があったのでは?】


 個室での彼女たちの会話を聞いていたのだから間違いない。


「んー、あー、ミラのことか? まぁそうなのかもしれないが……。気の強すぎる女はどうも苦手でな。それにあえて高難易度の女に挑むのも面白いぞ?」


 まったく清々しいほど女の敵である。


【まああなたの嗜好については何も言いませんよ。案外、エリザさんが注意しているのかもしれませんね。『狼さんが放し飼いになっているから気をつけるように』と】


「……多分それ当たってるな。下手したらマリーナあたりがある事ない事吹聴してる可能性もある」


 ――それは本当に『ある事ない事』なのかと疑ってしまうが。


【では当分は禁欲生活ですね。ここの娘達には手を出すなと釘を刺されていますし。私も遠慮して欲しいところです。】


「いやいや流石にそれはひどいぞ。子供に手を出す程見境なく見えるか? 残りの一人はアレだし……」


【それを聞いて安心しました。】


 そこまで書いた直後、アークは自分からくるりと手前に倒れ込んだ。

 同時にバサリと音をたててアークがいた場所に箒が叩きつけられる。


「全く。アレっていうのはいったい誰のことかしら? 白昼堂々、そう言う話をしないようにって前に言ったわよねぇ?」


 エリシーである。もちろん僕もアークも気づいていた。


「別にエロい話じゃないだろ。それともあれか? 自分の事を言われていると思ったのか? それは自意識過剰ってもんだ」


「うっさい! 余った一人って私しかいないじゃない! マスターもこんな男に合わせて話さないで下さい! チコたちに嫌われてしまいますよ!」


【おっとそれは困ります。アーク。私達の友情もこれまでのようです。私は仕事に戻りますね。】


 もちろん冗談だし、仕事なんてあるはずも無い。


「おい! この状況で逃げるのかよ。……あー、という訳で、ダンジョンマスターには振られちまった。俺は外の風にあたって涙を乾かしてくるわ」


 アークも逃げることにしたようだ。


「まだ話は終わってないわよ! だいたいアナタはもっとマスターへの口のききかたが……聴いてるの!?」




 アークが来てからエリシーは怒鳴ってばかりだ。

 だがまあ、本気で我慢ならないというわけではなさそうだし問題ないだろう。こんな地下にいつまでも引きこもっているよりは余程健康的だろう。



「まだあるわよ! ここに来る冒険者を口説くのもやめなさい! ダンジョンの評判が落ちたらどうしてくれるの!」





 多分問題ない。

初めは、こういうストーリーとはあまり関係ないちょこちょこっとした話をダラダラッと垂れ流して行きたいなぁ。と考えていました。


今回は短いですし、本編と関わりもある部分ですが。


本編進める事に力を入れた方がいいのかな?

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