再会
「エリシー! 無事だったか!」
マリーナの声がダンジョンの壁に反響する。
言うが早いか、Aランクのダッシュで飛びつく彼女。
止められる者などいるはずもない。
あの身体能力をダンジョン攻略に向けられたらひとたまりもないな。普段クールなマリーナがここまでなりふり構わないほど溺愛(?)するエリシーが、万が一『ここでの生活は辛かった』なんて言おうものならギルドの制止を押し切ってでも僕の首を取りに来るのではなかろうか。
エリシー達を会わせたのを早くも後悔しそうだ。
為すすべもなく抱きつきタックルを受けたエリシーはというと、『ぐぇっふ』と色気もへったくれもない、空気の漏れるような音を奏でて床に倒れ込んだ。
さらにそのまま床を滑る。
他の四人も、チコやチヤも、完全に固まってしまった。
ガバリと顔を上げたマリーナは、自分の下で呻いているエリシーに向けて声をかける。
「よかったエリシー。死んでしまったのかとずっと不安だったんだ」
「……死ぬかと、思いました」
なんとか返事を搾り出すエリシー。二人は皮肉を言い合える程度には親密な関係らしい。……いや、抱きつきタックルの時点でそれはわかっているのだが。
「なにぃ! ……いや、そうだな。奴隷に落ちてダンジョンで働いていたなど、誰が聞いても明らかに死にそうな状況だ」
皮肉は通じていなかった。
「さぞ辛い思いをしたことだろう。だがもう大丈夫だ。安心しろ」
そしてマズイ方向に勘違いしていらっしゃる予感。頼むから無理やり連れ出して行かないでくれよ……。
最初に再起動したのはナデアだった。
いや、職員二人には思考停止している様子はない。静観を決め込むつもりなのだろう。
エリシーたち三人の態度や言動から僕を見極める腹積もりなのかもしれない。
「マリーナ! 少し落ち着いてくださいっ! まずはエリシーの上から退いて」
「あ、あぁ。そうだな。さ、エリシー立てるか?」
素早く退いたマリーナは、エリシーに手を差し伸べて立ち上がらせた。
「マリーナさん、ナデアさん、お久しぶりです」
「久しぶりですね。エリシー。生還おめでとうございます」
「相変わらず他人行儀だな。今ぐらい、昔みたいに甘えてくれてもいいじゃないか」
「もう村にいた頃とは違うんですよ。冒険者としての先輩後輩です。人前ということもありますしね」
「全く、本当に……変わっていない……」
そう言いかけてマリーナはうつむいてしまった。しかし、
パンッ!
と強く両頬を張って、目元を軽く拭った彼女は、既にいつもの彼女だった。
「さて、エリシーその格好は何なんだ?」
メイド服を指差したマリーナが訪ねた。
「マスター……ダンジョンマスターが用意してくれたんです。奴隷商の馬車が狼に襲われて、着の身着のままでここまで逃げてきたので、服はボロボロだったんです……、下の部屋で一晩寝て次の日には私たち専用の部屋とこの服が準備されてました」
こらこら、改築には時間がかかると言ったばかりなんだが……。
妙に勘ぐられたり、魔力回収の裏事情を察されないことを祈ろう。とくに、エリザさん辺りに……。
「随分上質な服ですね、何の生地でしょうか? ……手触りもなめらかです」
「この服で風呂掃除や掃き掃除をしてるんですけど、汚れにくい、濡れにくい、シワにならない……と、物凄く高性能なんですよ」
ナデアも服を触ったり引っ張ったりしている。合成繊維はまだこの世界には無いのだからいくら調べても分からないだろうが……。おかげで創造コストが高かった。
だがエリシーの素直な感想が聞けたのはよかった。実は気に入らなかったなんてことだったら目もあてられない。
「少し痩せたかもしれないな……だが血色は悪くないし、髪も綺麗だ……まさかその格好で妙なことを強要されていやしないだろうな?」
「なっ! そんなことあるわけないじゃないですか! だいたい、小さな子供もいるんですよ。私たちはマ……ダンジョンマスターには会ったこともありません」
「いや、相手はダンジョンの主だぞ、人間の倫理・価値観は通用しないかもしれないではないか。女子供を着飾って愛でるのが趣味の変態だったら今すぐ首を討ち取ってやるつもりだが」
「ありえません! マスターは人の心がわかりますし、私たちに良くしてくれました。利用されているかもとは思いますけど、信用はできる『人』です」
ひどい言われようだ。そしてエリシーの言葉が嬉しい。
しかし会ったこともない相手をそう簡単に信じてしまうのは如何なものか……。そんなんだから奴隷にされてしまったのではないかと思ってしまう。
「あの、マリーナ? あのボードからは少し離れてますけど、ダンジョンマスターさんにも聞こえているのでは……?」
「……しまったな。 ダンジョンマスター殿! 今のは冗談だ。エリシーをからかっただけだ」
……まあ、そういう人だと理解しておけばいいか。
ふと視線をやると、エリザも頬が引きつっているのがわかった。
「もう遅いです……。エリシーがここまで言う人です。謝れば許してくれる人だと思いますけど……」
それをココで言い放つナデアも相当なものであると思うのだが……。そんな言われ方をしたら腹を立てた態度を取る訳にも行かなくなってしまう。
もちろんそんなつもりもないわけだが。
「とにかく、無事でよかった。それにしても『マスター』か……。随分親しげじゃないか」
無理やり話しを戻しやがった。
「名前はないからとりあえずそう呼ぶようにっていわれたんです。なんだかスっと馴染んでしまって……」
「ふむ……まあいいか。そのあたりは追々聞くとしよう。それじゃ、そちらの二人を紹介してくれるかな?」
いまだにどうしていいか分からずオロオロしていたのは、チコとチヤ姉妹である。
もう無理。
しばらくリアルの世界に専念します。
ちなみに、後二人位新キャラ出したら主要メンバーは出揃うと思います。
物語の性質上、ちょい役が大量に現れると思いますので、そこから主要メンバーに昇格するパターンはあると思いますが…。
というか先のことまで考えてないので、間違いなくそうなりますね。
絶対足りない役が出てくる。




