拠点能力強化と別れ?
あれ? 忙しいはずなのに、なんで書いちゃってるの?
むしろ今までよりハイペースなんですけど…、どういうこと?
「……それは一体どういう意味でしょうか?」
エリザが怪訝な表情でたずねてくる。
【私もギルドとは互いに利のある関係でありたいと考えています。大きな方針転換の予定はありませんし、ダンジョンの建設方針を決める際に貴女方が近くいる方が都合が良いのです。
ダンジョン内に支部があり私と密な関係にあると外部に示せれば、ギルドは他の勢力から頭一つ抜けた大きな発言力を持つことになることでしょう。
ダンジョンと人間とを繋ぐ、架け橋や関所のような役割をお願いしたいとのです。】
「それは……願ってもない申し出なのですが、私の一存では決めかねます。詳しいお話を伺った後で町に戻って上司に報告させて頂きたいと思います。建設予定地は既に決まっているのでしょうか?」
【場所は地下1階を予定しています。それより地下にある施設はより深い場所へ移築します。広さは男女の浴室および脱衣所分のスペースを全て使って頂いてかまいません。間取りの要望がありましたら作り変えられますし、一つの大部屋を貴女方で区切るなり改装するなりして使って頂いてもかまいません。】
「本当にそんなことが……、はい。それ程の部屋をお借りできるとなれば、なんとしても上を説得してみせます。ですが……それに見合うだけのお礼を準備できそうにないのですが、本当によろしいのですか?」
どうやら予想以上に嬉しい申し出だったみたいだ。
【問題ありません。おそらく、私の利益の方が大きくなる申し出です。】
欲深い者達への牽制、利用者の増加、人間側の要望の反映、食料調達、魔力回収、などなど、嬉しいことずくめである。
デメリットといえば、ダンジョンの仕組みが解明される危険が高まることや、敵対するかもしれない戦力を内部に取り込むことになる程度だろう。
【だだし、ダンジョン内の大規模な改変には時間がかかります。おそらく三十日程度となるでしょう。それまでは今まで通り信用のおける冒険者を送って頂けると助かります。施設はそのまま使えますので。そのあいだに人間側で話をまとめていただけないでしょうか?】
三十日というのは魔力を貯めるための期間だ。筆談ボードを二つも設置した後であるため、魔力にそれ程余裕はない。部屋の創造や移設は、魔物や罠を作るのに比べて低コストでできるのだが、一階層分の大部屋となると今の貯蔵量では心もとないのだ。
「わかりました。どうぞよろしくお願いします。」
【それでは次に、そちらの御三方をお連れした理由をきかせて頂いても?】
「はい。彼女たちはこのダンジョンに関わる物資のやり取りを受け持って頂きます。食料品や家具、建築資材、冒険者用の備品の調達・輸送・販売を全て引き受けていただけることになりました。このダンジョンは現在秘匿されているため、既に所在やギルドの方針を知っているハーディング商会に依頼しました。彼女たちが選ばれたのは、既にダンジョンを訪れたことがあるからです。
本日は、その挨拶のためにお連れしました。」
すると、サラが一歩前に出た。
「紹介に預かりました、サラ・ハーディングと申します。ダンジョンマスター様とギルドとを商品で繋ぐ役割を任せて頂きました。今後共よろしくお願いします」
まだチコと同じ位の歳に見えるが、その口調やたたずまいは年相応には見えず、丁寧であり、そして堂々としている。
さすがは商人の娘といったところだろうか。
【よろしくお願いします。サラさん。】
挨拶で終わるかと思いきや、さらに言葉がつづいた。
「私たちは当初、しばらくの間はダンジョン入口付近に仮の店舗と倉庫をおいて商売をしようと考えていました。ですが、可能であれば、私たちにも販売所と倉庫が一体化した様なスペースをダンジョン内に設けていただけないでしょうか? 」
また面白い提案である。
そして今後を考えるなら是非お願いしたい。
しかし他のメンバーが驚いていることから、彼女の独断なのだろう。
【理由をお聞かせいただけますか?】
「商会には優秀な護衛がいますが、外に物資を置くことには不安が残ります。資材と人員の安全のためにお願いしたいのです。叶えて頂けるのでありば、これからダンジョンマスター様が欲しい商品の入手に協力させて頂きます」
【報酬に関しては嬉しいお話ではありますが、それはギルドとの取引の持っていき方次第でどうにかなりそうな事に思います。私の旨みが少ない様に感じますが、どうでしょう?】
本当は旨いことだらけだが、あまりなんでも引き受ける印象を与えるのも良くないかもしれない。
「え……えぇと、ですね。では、ギルド経由でのダンジョンマスター様からの依頼品は割引するというのはどうでしょう」
【それで喜ぶのはギルド側ではないですか? 一応私の要望が通りやすくなる可能性はありますが、そもそもそれ程高価な物を欲してはいませんし。】
「あぁ……ぅ」
サラは答えに困ってしまった。
大きな商会とはいえ、こちらの事情を知らないサラ達では、僕にとって本当に有益な提案をするのは難しいだろう。逆の立場なら、僕にも良い案は思い浮かばないだろうし。やはり商売や取引は苦手だ。
少しいじめ過ぎたか?
うんうん唸るサラにかわって、ナデアが話しかけてきた。
「ダンジョンマスター様。なにか私たちにできる事は無いでしょうか? なにぶん、あなた様は未知の取引相手ですので、何をすればご期待に添えるかわからないのです」
【そうですね。二つほどお願いがあります。】
その途端サラが挙動不審状態から立ち直った。こちらを……というかボードを凝視している。
ナデアもあっさり提案を引き出せたのが意外だったのか、少し驚いているようだ。……自分で聞いていおて。
【一つは、ナデアさんとマリーナさんへのお願いです。今後ダンジョンには様々な施設を追加していく予定です。場合によってはギルドの方々と相談しながら作りたいとは思っていますが、貴女方には出来た施設を実際に体験して頂いて、冒険者の視点から意見を言って欲しいのです。実力と経験を兼ね揃え、ギルドからの信頼も厚い貴女方だからこそできる仕事です。】
商会組三人は意外なお願いにすっかり混乱してしまっている。
ギルドの二人は先程から完全に静観しているし……。互いに問題が起こらない範囲ならば交渉事に口出ししないようにしているのだろうか?
「二人は私の護衛なので、何日もというわけには行きませんが、可能な限り対応させて頂きます。マリーナとナデアも問題ないわね」
「もちろんです。命の危険を感じた場合は拒否させていただくかもしれませんが……」
「私も問題ありません。二人共駆り出される場合を考えて、その間のお嬢様の護衛も用意しなければなりませんね」
二人共快く引き受けてくれてよかった。
僕としては、施設の使用感も大切だが、それよりも一流冒険者の実力の方が気になる点である。
ダンジョンの守りとしては、彼女たちを出し抜けるレベルを目標にしないとまずいだろう。
「それで、もう一つのお願いというのはなんですか?」
【まだ具体的に決まっているわけではないのですが、店の商品や販売方法に口出しさせて頂く可能性があるということです。著しく利益を損なうような要求をするつもりはありません。】
「ダンジョンに不都合なものの販売を禁止するということでよろしいでしょうか」
【その可能性もありますし、逆に商品に追加して欲しいものが出てくる可能性もあります。
今はまだ構想段階ですが、ダンジョン内に店があるからこそ可能な仕組みを既に考えついています。】
ダンジョン内に店舗を持つことの絶対的な優位性を示した。
これで、多少の不安要素があっても取引に応じて来るだろう。これは別にハーディング商会にしか出来ない事ではないのだから。先着一名で、他には真似できない取引形態に関われるというチャンスを逃す手はないだろう。
「わかりました。このダンジョンとの取引に関しては私に任されてます。その条件で私たちのスペースをお願いします」
サラからも了承を得る事ができた。今日一日で一気にダンジョンの下地が整いそうだ。
【場所はまだ決めていませんが、おそらく地下一階になると思います。店ができるのはギルド支部設営の話が一段落した後になるでしょう。ギルド支部設置の話が流れた場合は保留です。ギルドと敵対するとなると、店舗を置くどころではないでしょうし。】
「わかりました。」
【広さは、倉庫、店舗あわせて浴室と同じくらいの広さになると思いますが、構いませんか?】
「十分すぎるほど広いと思います。でも、いいのですか?」
【問題ありません。私としては、いずれはスペースが足りなくなるのではないかと危惧している位です。】
「ありがとうございます。それでは、間取り等については後日改めてということで、よろしくお願いします」
なんとか、いい感じに話がまとまった。
それを察したのか、今度はエリザが話し始める。
「それでは我々からは以上となります。店舗の事は予想外でしたが、特に問題ないと思い口出ししませんでした。
ダンジョンマスター様から何かありますでしょうか?」
【大丈夫です。それでは、最後にエリシー達に会って頂きたいと思います。本人たちが望むならば町へ連れて行ってあげて下さい。その場合は、週一回位のペースで風呂の清掃要員を手配していただけると助かります。】
できることなら、エリシー達には悪いがダンジョンに残ってもらいたい。魔力の回収源としても、従業員としても、非常に得難い存在だ。彼女たち無しで三十日で支部を置くための魔力を回収できるかも怪しいところだ。
その場合はアークをこき使って体力を消耗させるとしよう。その分だけ回収効率は上がるわけだし。
ともかく、次はエリシー達に話しを付けるとしよう。チコとチヤにはエリシーから『なにかあるかもしれない』程度には話が通っているようだし。




