提案
【理由をお聞きしても?】
「はい。彼は仕事には誠実ですし実力も確かなのですが、性格に難ありと言いますか……街の有力者と問題を起こしてしまったのです。個人的な問題なので本来ならばギルドが介入するような事態ではないのですが、今回は口を出さざるを得ない状況でして……」
その問題というのが最初に話していた女性関係のことだろうか?
彼女は詳しいことを話すつもりは無いようだし、プライベートな部分をギルド職員がバラすわけにもいかないのかもしれない。
「そこでほとぼりが冷めるまで左遷……もとい、ギルドの仕事で遠出させてしまい、その間に問題解決に動こうと考えているのです。
このダンジョンの公表はもう少し先になりますし、隠れ場所としては申し分ありません。加えて、ここに来る冒険者が増えれば自然と彼ら同士の衝突も起こってしまうことでしょう。アークの仕事はそれらを抑制・解決することとなります」
性格に難があると言い放って、そんな人間にダンジョンを任せるつもりなのだろうか?
だとしたらそれなりに仕事ができて、公私を分けるとができる人間だと判断してもいいのかもしれない。
……全てを話さないエリザを信じるならば、だが。
それに実力者を懐に抱え込むのも危険を伴うことだ。彼が実はダンジョン攻略を推す側からの刺客という可能性もある。
どうでもいいが、ここに派遣されることは『左遷されること』と同じ認識らしい。
「無理を承知でお願いしています。彼の食料や生活用品はこちらで揃えますし、ダンジョンマスター様からのご要望は可能な限り叶えさせて頂きます」
……それならば、こちらからも条件をだしてみるのもいいだろう。
【でしたらお願いしたいことがあります。このダンジョンには現在三人の女性が生活しています。彼女たちの食料も融通していただけるのであれば、彼のための部屋を用意しましょう】
その瞬間女性陣の表情が鋭くなる。
「それはどういうことでしょうか? このダンジョンで行方不明者が出たという報告は来ていませんが……。女性を捕えて何をしているというのです?」
少し冷淡な、攻めるような口調だ。
どうやら妙な誤解を与えてしまったようだ。
たしかにダンジョンに囚われの女性が……とか、悪い印象しか与えられない気もする。
【誤解です。彼女たちにはダンジョン内の清掃を条件に宿を提供しているのです。】
しかしエリザ達の表情は優れない。
「では、彼女たちの素性を教えていただけますか? このあたりの冒険者なら名前くらいは聞いたことがあるはずです」
【彼女たちの詳しい素性は私も知りません。奴隷として輸送されている最中に狼に襲われて、命からがら逃げてきたとのことです。サラさん位の子供二人と冒険者の女性で、エリシーと名乗ってい】
そこまで書いたところでずっと黙っていたマリーナが声を上げた。
「エリシーだと! なぜこんな……いやそれよりも、奴隷とはどういう事だ!」
「マ、マリーナ! 少し落ち着いて。……人違いかもしれませんし」
ナデアもかなり驚いていたようだが、いきなり声を張り上げたマリーナを慌ててなだめはじめた。友人の取り乱し様に、逆に冷静になれたのかもしれない。
「……すまない。ダンジョンマスター殿、声を荒げて申し訳なかった。少し前から行方知れずになっていた友人と同じ名前でな。できれば会わせてもらえないだろうか? 確認したい」
【かまいません。私としても後で会っていただくつもりでした。ここにギルドの人間が住むというのであれば、顔合わせは必須でしょうし。】
それにしても、本当に世間は狭いというか……。
もしエリシーとマリーナたちが知り合いであるならば、奴隷の身分からの解放に助力してくれるかもしれない。
……そうすると折角の魔力源を失ってしまうことになりかねない。
ここは更に一歩踏み込んだ関係を目指すべきだろう。
【貴女方がいらした理由はおおよそ理解できました。】
まだ話せていない事や隠している事もあるだろうが、一気に全てはこなせない。まずはこのあたりで話をまとめてしまうとしよう。
【一つお尋ねしたいのですが、ギルドはダンジョン絡みのいざこざや得られる利益に口出しする権利、あるいはその優先権を欲していますか?】
エリザは難しそうな顔をして、返事に戸惑っている。最良の答えを模索しているといったところか。
「……はい。私欲に走る者たちに我々の関係を崩されないためにも、ダンジョンマスター様と強い絆で結ばれたいと考えています。もちろんギルドは慈善団体ではありませんので、人間社会での発言権や金銭的な利益にも関心は高いですが、私腹を肥やすためだけに動いているわけではないということは信じて頂きたいと思います」
【ありがとうございます。それならば私からも一つ提案があるのですが、】
これは、今までで一番の冒険かもしれない。
【このダンジョン内にギルドの支部をつくりませんか?】
キャラをたくさん出すのはいいけど、全員交えての会話とか難しくて出来ないんです。
そういう場面になりにくいってのもあるんですけど…。