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同士はいない?

右【お湯加減は如何でしたでしょうか? 皆様がお集まりになりましたらご案内いたします】


 入り口広場に待機させていたスケルトンの看板だ。

 5人が揃ったら地下二階に向かうように指定してある。


 そして、現在四人が既に集まっていて、残りの一人を待っているのだ。


「まったくあの男は……。四人いる私達よりも長風呂とはどういう了見だ」


 マリーナの零した言葉に答えたのは彼女の相棒であった。


「まあまあ。彼はここに来るのは初めてですし、折角のチャンスを堪能しているのでしょう。それにまだ予定の時間よりも少し早いですよ」


「そういえばナデアは初めて来た時二回も入ってたわよねー。町に帰ってからもよく『また行きたい』ってこぼしてたし。仲間ができてうれしいの?」


「なっ! お嬢様! 決してそんなことはありませんよ。私はこう……パーティ内の衝突を少しでも緩和しようとですね……」


 だんだん尻すぼみになっていくナデアの言葉にはイマイチ説得力が無かった。

 もっとも、彼女が嘘をつけない人間であることが僕にマイナスに働くことはそうそうないだろうが。


「衝突などと大げさなものでも無いだろう。それにあの男もこれから風呂に入る機会など幾らでも得られるはずなのだ。後でいくらでも楽しめるのだから今は仕事を優先すべきではないか?」


「ですから、そうではなくてですね。パーティなのですからもう少しこう、和やかに行けないのかと」


「ふむ。随分と肩を持つじゃないか。さては惚れているな」


「なっ! 何を言うのですか! そのようなことは一切ありません。誰があのような男を」


 先程までのしどろもどろな口調とは一変して全否定だった。

 照れや羞恥の成分はなく、本気で心外だといっているのが分かる。

 ……それでアークを哀れに思うかというとそうでもないが。


 それはともかく。

 マリーナの口ぶりからして、アークはダンジョンとギルドをつなぐ役割を担うことになるのだろう。

 それが町での多角関係問題にどう影響するのかまではわからないが、それについては後で聞いてみるしかない。

 

 その後、アークが予定時間ピッタリに戻ってくるまでの間、ナデアが弄られている様子に耳を傾けながら時間を潰すことになった。






 つい先ほどまでアークの態度や行動に文句を垂れていたマリーナだったが、何食わぬ顔で戻ってきたアークを口撃する事はなかった。

 ナデアの言葉に動かされたのか、口論にまで発展させる気はなかったのか……そのあたりは分からない。


「それで、そいつが案内してくれるのか? さっきのとは違う奴みたいだが?」


 彼はそうエリザに問い、待機しているスケルトンに目をやった。


「そのようですね。私達が来てからも微動だにしていませんし、5人揃うまでは何もする必要がないと分かっているのかも知れません」


「分かっている……ねぇ。ダンジョンマスターの意を酌んで行動してるってことか? 思考力があるようには見えないがね……。命令以外はこなさない人形って方がしっくり来るぞ?」


「他の多くのダンジョンでスケルトンは危険なモンスターとして知られていますが、様々な武器を使いこなす固体や連携の取れた群れが確認されています。ただの人形に出来ることではないと思いますが?」


「いや、そりゃそうなんだろうがな。此処と他所を同じように考えちゃだめだろ。先入観持ってあたるのは危険だ。まだ人類にとって味方である保障もな……おい、動きだしたぞ」


 アークが話している最中に、スケルトンが案内を始めてしまったのだ。


「え……あ、ついて行きますよ。さあ」


 そうしてスケルトンの生態についてはウヤムヤになった。





 気になったのは、この世界のモンスターの認識についてだ。

 彼女達の話を聞く限り、モンスターは意思のある存在であるという認識がなされている。

 

 その根拠としては彼らの多彩な戦闘技能や連携が上げられていた。

 確かに一つ一つの戦闘に命令を出せるわけでもない。このダンジョンでも、大まかな方針を示しただけで勝手に戦闘をこなしてくれている。

 つまり、モンスター達は自分で考えて行動しているといっても良いのかもしれない。


 しかし、そこに心はない。

 少なくとも現在のところ、心を持つモンスターを作ることは出来ない。 


 彼らには、命令に沿う方針で最適な行動をするための人工知能のようなものが宿るようなのだ。

 まあこの場合は人工ではなくて、『ダンジョン工知能』あるいは『世界工知能』なので、ある意味では自然のものといっても良いのかも知れないが。


 モンスターへの命令が『侵入者を殺せ』や『体力を消耗させろ』といった曖昧なものならば、その場にあわせた行動を思考し、実行してくれる。


 一方で、伝令スケルトンのように単純にして明確である場合は、それ以外の行動は不必要とみなされて行動しなくなってしまうのだ。

 この場合も人工知能が働いていないわけではなく、目的地に向かうための最適ルートや、歩行時にバランスを取るための手の振り方などを割り出すことなどでは機能しているだろう。


 

 おそらく今までに知られているダンジョンのモンスター達は皆、曖昧な命令をされていたものだったのだろう。それも、かなり攻撃性の高い命令だ。

 そうでなければスケルトンのような無生物的なモンスターに知性があることを当たり前のようにとらえる様にはならないと思う。


 しかし長い歴史の中では大型のダンジョンが制覇されたこともあっただろう。

 もしもこのダンジョンのように非戦闘用モンスターが居た場合、攻略の過程でそれらが見つかるはずである。

 それが無いということは、この世界に存在するダンジョンマスター達は人間を殺すことだけしか見えないほど憎んでいるか、精密な命令で侵入者を翻弄しようという知性を持ち合わせていないのかのどちらかであるという可能性が高い。と思う。



 人間達と親密な関係を築くこうとするダンジョンマスターはかなり特異な存在であるとは分かっていたが、それ以前に僕のようなダンジョンマスターは存在自体がこの世界にとってのイレギュラーなのかもしれない。

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