彼の性格は
今回のスケルトンには複雑な命令はしていない。
単純に、『侵入者の前に看板を掲げながら登場し、3分後に定位置に戻れ』という内容だ。
今回は相手の返事を待つ必要はない。少し時間稼ぎがしたいだけだからだ。
スケルトンが去った後、最初に口を開いたのはエリザだった。
「前回来た時も驚きましたが、今回はそれ以上です。スケルトンがこのような……知性のあるかような振る舞いをするなど……」
エリザの言葉に一同は否定を示さない。
が、それはただの勘違いである。
おそらく従来のスケルトンは人と見れば襲い掛かる危険な存在なのだろう。
実際、このダンジョンでも迎撃用の区画のモンスター達はそんな感じだ。
あの伝令スケルトンは知性や意識があるわけではなく、空っぽな機械なのだ。命令どおり必要最低限の動作しかしなかったに過ぎない。
傍から見たらそれは、命令を忠実にこなす理性的な存在に映るのかもしれない。
言葉を続けたのはマリーナだ。
「たしかに……。あのような行動をスケルトンが取るなど、この目で見なければ信じられないな」
「ギルドには全く動かないスケルトンがいると報告が上がってきていましたが……。おそらくあれの事でしょうね。ダンジョンマスターが外部と連絡を取るために生み出した特殊なスケルトンなのでしょう」
「それで……どうしますか?」
ナデアが聞く。
「そうですね、ここはダンジョンマスターに従いましょう。話し合いには応じて頂ける様ですし、無理に反抗する必要もありませんね」
今回はエリザも風呂に入ってくれるみたいだ。
前回は業務中だといって他の冒険者が風呂に入っている間も見張りをしていた。
素直に風呂に入るといったのも、案外『惜しいことをした』と思っていたからかもしれない。そう思ってくれていたら嬉しい。
「やった。またここのお風呂に入れるのね! ナデアー。今回は一緒に入るわよ!」
サラがナデアの腰に抱きついて……というか飛びついて喜んでいる。
「わっ! おっ、お嬢様!? 危ないですから。暴れないで下さいー」
二回目であること、そして何人もの冒険者が安全を確かめていることが、彼女から警戒心というものを失わせているのかもしれない。
実に良い傾向である。
その後おおまかな予定と方針を軽く話しあってから、風呂に向かう流れとなった。
彼女達はダンジョンから少し離れた場所まで馬車できており、何日も滞在する準備があったそうだ。馬車には2人の冒険者を残してきているらしい。
直ぐ近くまで乗り付けてこなかったのは、街道を通る者達にダンジョンが発見されないようにするためだろう。
わざわざ外で一泊して夜に押しかけるのを避けたということだし、僕との取引に相当慎重にあたっていることが伺える。
一先ず一時間程度で入浴を済ませてしまおうという事になった。
ばっちり堪能する気満々だ。
「それじゃ、早速行こうぜ」
アークがそう言って、一行は奥へと歩き始める。
「それにしてもアーク。あれだけ面倒くさがっていたわりには乗り気ではないか」
「そりゃあまあ、ギルド内でも一部では噂になってたからな。王族以上に贅沢なとこだって」
彼自身は本来の目的に積極的に関わる気はなさそうである。
エリザたちの目的とは別の何かのために同行しているのかもしれない。
そんな彼の言葉に反応した者がいる。
「それは聞き捨てなりませんね。ギルド内で情報漏洩が起きているということですか?」
エリザだ。
「そんなたいしたもんじゃねぇよ。ここに来るには往復二日かかるからな、噂っても職員同士で愚痴る程度だった。『知ってるのに自分たちは行けない』ってな」
大したことはないと言うアークに、エリザはまだ不安を拭えないようだ。
「それでも誰が何処で聞いているか分かりません。本来ならそのような発言すら禁止したいのですが……」
「それは無理だろ。どういうわけか女は噂話が好きだからな。いずれはどこかからボロが出るさ。むしろ冒険者どもの方が口が硬いぜ。結構しつこく聞いて回ったが誰も口を割らなかった。よっぽどこの楽園を守りたいと見える」
それを聞いてマリーナが突然、わざとらしく声を上げて笑い出した。
「あっはっは。アーク、町一番の女たらしに風呂の話題を振る女がいるわけないだろうが。もう少し誠実な人間を目指すのだな」
元々我慢する気などないのだろう。むしろアークに聞かせるように、嘲笑の成分が含まれているように感じる。
「余計なお世話だ。別にそれが理由じゃねーよ。何人かとは次の約束まで取り付けてあったんだ」
本当にとんでもない奴だった。しかし男としてはうらやましくも有るし、その社交力は注目する点でもある。今のマイペースな姿とはかけ離れている気がするが……。
女性陣の視線も若干冷たい。
「全く。そんなことだからここに来ることになったのだ。それとも、噂の楽園に来れて内心では心躍らせているのか?」
ふむ。彼の訪問には彼側の私的な事情も関係しているらしい。
個人のプライベートをギルドが尻拭いするとは思えないから、アークもギルド関係者かそれなりに権力のある位置にいることが伺える。
彼への対応は少し注意しないと余計な手間が発生するかもしれないだろう。
マリーナの問いに、彼は無言で答えた。
微妙な沈黙の中、男女別に分かれる丁字路を越えたところでエリザがアークに向けて声を掛ける。その声には明らかに怒りの成分が含まれていた。
「アーク。何故こちらに来るのですか」
五人は共に女湯の方に曲がったところだ。
もちろん、疑問形ではあったが質問しているわけではない。
「いやなに、ダンジョン内での別行動が危険なのは新米だって知ってることだ。全員でかたまった方がいいとおもってな」
その口調は実に落ち着いたもので、さも『何を当然のことを』とでも言っているようだ。
その言葉をきいた彼女は、表情こそ変化させなかったがこめかみには青筋が浮かんでいる。
人は怒りの限界に達すると本当に青筋が立つのかと少し感心してしまった。
「貴方はあちらです」
「いや……」
「あちらです」
「……わかったよ。俺は一人寂しく男湯にいくさ」
それはそれは大げさにがっかりしたそぶりを見せ、アークは男湯に向かった。
おそらくエリザをからかっているだけなのだろう。
マリーナやナデアは『ああ、またか』といった呆れた表情をするだけで口を挟まなかったし、彼自身もあっさり諦めた。去っていく彼の表情にも落胆した色は伺えない。
「さあ、行きましょう。折角の機会ですし、噂の楽園とやらを堪能するとしましょう」
今度はゴーレムは無事だった。




