接触
「アーク! ……コホン。不用意な発言は控えるようにと口を酸っぱくして言っておいたはずですが?」
一瞬声を荒げるエリザだったが、直ぐに落ち着いた雰囲気に戻った。
一方アークと呼ばれた青年の方はエリザの言葉などどこ吹く風といった感じでダンジョンの内装に目を向けながらアクビを噛み殺している。
「んぁ? ああ、言ってたな」
「ならば折角のチャンスを潰すような事をしないでください。こちらの呼びかけにここの従業員が答えてくれなかったら持久戦になるかもしれないのですよ」
「まぁそう怒るなって。何日かかろうが俺には正直関係ないだろうが。俺なりのコミュニケーションってやつさ」
アークはそう言うとまた一つアクビをかく。
随分とマイペースな男がきたものだ。
少なくとも『協調性』とか『穏便に』といった言葉とは無縁な者に感じるが、ギルドはなぜこのような男を連れてきたのだろうか。
「はぁ……全く、捕まえるなんて聞かれでもしたら交渉に支障がでるではないですか……」
エリザの独り言が虚空に消える…と思いきや、マリーナが言葉を返す。
「残念ながら手遅れだな。アークの言葉を聞いた途端奥に引っ込んでしまった」
そう。エリシーは既に撤退済みである。
だからこうしてじっくりと成り行きを見守っていられたわけだが。
「……はぁ。とにかく、件の従業員用扉というのを見てみましょうか。そこから呼びかければ返事が帰ってくるかもしれませんし」
エリザは疲れたようにそう言い、恨みがましいような視線をアークに向けるが本人にはコレっぽっちも堪えていなかった。
さて、彼女たちの力量や準備の程は分からないが、場合によっては扉の鍵は突破されてしまうかもしれない。
そうなる前にこちらからコンタクトをとってエリシー達の安全を確保しておきたところだ。
早速、伝令スケルトンを送ることにした。
同時進行で、コチラの三人にも一階まで上がってもらう。そうしないと、2階に人がいることになってしまいスケルトンの命令書き換えに支障が出るのだ。
これで2階が空になるから自由に改変を行えるというわけだ。
ちなみに、今回は事前に設置して置いたコウモリやムカデに視点を被せてある。
視線を感じられるマリーナの様な人種への対策として日頃から癖をつけておいたのだ。
これで視線を感じることが出来たとしても、どこでも見ることができる訳ではないとアピールできたらと思う。
マリーナには前回来たときに虚空から見ている事を感知されてしまっているが、前回のは『中継器』を見落としていただけだと勘違いしてくれることを祈るばかりである。
最初に気づいたのはやはりマリーナだった。
「む? 下から何か来る。ナデアはサラ様を」
「任せてください」
言うが早いか、ナデアは既にサラをかばう様にして立っていた。
もっとも、守られているサラの方は興味津々なようで、ナデアの脇からのぞき見ようとしている。緊迫した状況を感じてか声は出さないでいるが…。
エリザもいつでも動けるように準備しているようだ。
ただ一人、アークだけは自然体で落ち着いた表情でいた。
ここに連れてこられる位なのだから実力はあるのだろう。あるいはマリーナ達に任せておけば大丈夫と考えているのかもしれない。
だが、一見いい加減に見えるこの男だがどうにも軽視できない自分がいる。
顔立ちは整っている方だが決して美形というわけではない。どこにでも居そうな軽い兄ちゃんなのだが、どうにも頭の中まで軽い男には見えなかった。
まあ、僕の対人経験など忘却の彼方であり、ほぼ直感でしかないのだが。
骨が石の床を叩く音のみが響く。
いつかのエリシー達が来た夜を思い出すが、あの時とは違い彼女たちは武器を構えてはいない。
おそらくダンジョンの者に敵意を示さないための策なのだろう。
対して、こちらも全くの無策というわけでは無い。前回と違い、あらかじめ看板を掲げながら登場してもらうことにしたのだ。
それのどこが策だという気もするが、はじめから文章がみえているだけでも大分ちがうだろう。
以前作った伝令スケルトンはずっと直立不動で配置してあったため、ギルドとしても両手に看板を持ち首からも【伝令】と標識を下げたスケルトンがいることは聞いていたことだろう。
中には微動だにしないスケルトンに話しかけていく冒険者もいた。
はじめはワクワクした顔をしていたのだが、直ぐにガッカリした表情で去っていくのを見るのは心苦しかったのだが、仕方なかったのだ。人が目の前にいると改変できないからリアクションを取れないのだから。
エリシーたちも初めは戸惑っていたが、慣れてくると備品の一つであるかのように当たり前に掃除をしだした。
ともかく、ついにスケルトンが5人の前に到着する。
マリーナとエリザはポーカーフェイスを崩さない。
しかし、ナデアは困惑の表情を隠しきれていなかった。
一方サラはというと、新しいおもちゃを与えられた子供のように満面の笑みを浮かべ、その瞳は好奇心に輝いている。
前回も冒険者に憧れるような発言をしていたし、プチ冒険気分でも味わっているのだろう。
実際、人類史上初かもしれない事象を目の前にしているわけだし。
そして、流石のアークもこれには目を見開き、「おいおい、マジかよ」っと他の誰にも聞こえない程小さなこえでつぶやいている。
まるで無関心を貫いていた彼に一泡吹かせられたと思うと、ついついニヤついてしまった。
右【私はダンジョンマスターです。話し合いの準備が整いましたら迎えに来ます。】
左【まずは風呂場で疲れを癒すとよいでしょう。どうぞお寛ぎください。】
『今回は結構書いたな!』なんて思っていたのにいざ投稿しようよしたらたったの二千字ちょっとしかありませんでした。どーゆうことじゃぁ!




