ただのリピーターではない
次の日。
昼食を終えたエリシーはメイド服に着替えて入り口付近の掃除をしていた。
入り口の直ぐ近くに行くときは護身用に帯剣してもらっているのだが、メイド服の上からベルトを巻いて剣を腰に差している姿はなんともチグハグである。今は箒まで持っているのだからさらに珍妙だ。
武器を携帯できるように改良した方がいいかも知れない。
戦うメイドさんというのも中々ロマンがある。
彼女はすっかりダンジョンの仕事になれてしまったのか、警戒する様子も無く淡々と掃き掃除を続けている。
一応誰かが入り口近くに行く時は突然の来訪者にも素早くに対応できるように準備しているのだが、そのようなことは一度も無かった。真昼間にここに人が来た事はないのである。
しかし、今日で『昼間は安全説』は終わりを迎える。
突然エリシーの手が止まり、入り口の方を睨み付けた。
何事かと思い、僕が部屋を探ろうとした瞬間にはエリシーは素早く風呂場の方へ駆け出した。
丁字路を曲がった直後に壁に張り付き、再び入り口側を警戒している。
警戒の対象はこんな真昼間っからの侵入者である。
僕よりも早くエリシーが反応したのは、おそらくダンジョンの外から人の気配や話し声を聞きつけたからだろう。
僕がダンジョン内を知覚するには、まず始めに知覚したい対象に意識を向ける必要がある。
しかし、当たり前だがダンジョン外の気配には意識を向けることが出来ないのだ。
一方エリシーは、こんな面倒くさい手順を踏まないでボーっとしてても音を聞くことが出来る。
どうせ誰も来ないと高をくくってエリシーの立てる音だけに意識を向けていたのが今回の失態の原因だ。
入ってきたタイミングから考えて、走り去る後姿は見られてしまっているだろう。
しかし今回に限っては良い方向に働きそうだ。
というのも、今回来た5人の内、4人は既に知っている人物だからだ。
「マリーナ、今の見ました?」
「ああ、後姿だけだが間違いなく生きた人間だった。だがあの服装は冒険者の物には見えなかったな。ローブの亜種にも見えないことも無かったが、剣を腰に下げていたし魔術師ではないだろう」
「そうですね。暗い色合いでしたがドレスと言われた方がしっくりきます」
「なんにしてもただの冒険者ではないことは確かだ。気を抜くなよ」
「ええ。もちろんです」
………。
そう。
先頭の2人はナデアとマリーナだ。
2人ともAランクの冒険者であり、最初に風呂に入った人間でもある。
囁く様な小さな声だが、僕にはよく聞き取れる。
その直ぐ後ろには、またもやよく知る二人である。
一人はサラだ。
前回の話の流れからして二度と来ないと勝手に考えていたのだが、どういった経緯でダンジョンまで足を運ぶことになったのだろうか?
もう一人はダンジョンに最初に調査にきた女性パーティにいたギルド職員だ。
確か名前はエリザだったはずだ。
快活な女性ではなく、仕事が生きがいのキャリアウーマンといった印象を受けたのを覚えている。こんなことを言ったら怒られるかも知れないが。
そんな出来る女(予想)なエリザが前の2人に声を掛けた。
「だれかいたのですか? ギルドが把握している限りでは、今日は誰もいないはずなのですが…。」
この問いに答えたのはマリーナだ。
「冒険者には見えなかったが、中々の身のこなしだった。この先の角で息を潜めてこちらを伺っているようだな」
「もしかしたら最近突然現れたという従業員用扉と関係があるのかも知れません。むやみに攻撃しないようにお願いします」
どうやらギルドの目的は従業員についての調査のようだ。
だがそれだけではないだろう。
サラまで付いて来る理由がないし、何よりもあと一人のパーティメンバーが異質である。今までのギルドの方針とは大きくかけ離れているのだ。
最後尾にいるその『異質』が、痺れを切らしたように口を開く。
「こんなところで話していても埒があかないだろうが。とりあえずとっ捕まえてから考えりゃいい話だろ?」
最後の一人は男だった。




