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やすらぎの迷宮  作者: 魔法使い候補生
第二章 宿泊施設として
16/69

準備2●マップ2.5●

 記憶を失う前の僕の趣味や女性経験について垣間見えそうになったが、そんなことよりも目の前の仕事を片付けるとしよう。

 衣装のデザインはシンプルなヴィクトリアンメイドをモチーフにしよう。装飾が少ないシンプルな服装ならばロングスカートである点を考慮しても魔力の節約になるし、なにより女性に如何わしい服を着せて侍らせているなどといった噂が立ったりしたら目も当てられない。

 質素でそれでいて上品な印象を与えるようなものを作りたいところだ。


 今回は魔力節約のために手を出さないが、記憶が正しければ繊維表面をフッ素コーティングすることで通気性と撥水性を兼ね備えた生地を作ることが出来たはずだ。コアによる創造はフッ素層の厚さや表面の形状まで思いのままであるため実験を繰り返すことでかなり高性能な服が作れるだろう。彼女達の仕事の大部分は風呂掃除となるのだから、余裕が出来たら試してみたいところだ。


 実はそこまでしなくても、魔力を用いた防水加工が世界の法則に適っていれば、概念的に同様の性質の生地を作ることが出来る可能性は十分にあるのだが……。どちらの方が魔力消費が激しいか? そもそも可能であるのか? については試してみないと分からない。


 サイズは適当だ。工夫すればぴったりのサイズに仕立てることも可能だろうが、いきなり自分の体に丁度合う服をわたされたりしたら不審に思うことだろう。


 ただし水を得るために外に行く時は着替えてもらうしかない。魔力を大量に込めれば外での存在時間は伸ばせるが、実際の時間は試さなければ分からないしそんな余裕もない。

 当面は個々に来るときに来ていたボロか、カイン達の装備から見繕ってもらうとしよう。男物だが、大きい分には修正が効くし、そのための道具もある程度は作ることが出来る。……持ち出せないから糸は用意出来ないが。




 次に彼女達の寝床についてだ。

 ダンジョンの従業員であり主人がいない奴隷である彼女達が外部の者達からどのように扱われるかはまだ分からない。

 彼女達が風呂掃除中に誰かが侵入してきたらその時点で袋小路に閉じ込められることになり、逃げ切ることは困難だろう。

 それ以外の場所にいる場合ならば地下三階の宿泊施設に立て篭もることができるため比較的安全だろう。

 つまり、何処にいても必ず安全地帯に逃げ込めるような構造にするためには、風呂場と彼女達の休憩所を直接繋げるのが最適だ。ただし彼女達が一つの階に居座り続けてしまうとダンジョン改変がし難くなるので、風呂から通路と階段を経由して地下二階に部屋を作ることにしよう。さらに階段付近にスケルトンを配置しておけば、彼女達への伝令や万が一冒険者が侵入しても迎撃できる。暗めの一直線の通路を作って弓兵と取り外せる看板を配置することにしよう。

 

 今ある食料は全て彼女達に管理してもらうつもりだ。備蓄を実際に見ることも彼女達にとっては重要な判断材料になるだろう。いつでも辞めていいとはいってあるが、長く働いてもらうに越したことはない。どうせ直ぐにバレることなのだから、隠さずに見せることで僕なりの誠意を示そうというわけだ。

 そのうち氷のエレメントを使った食料保管庫も作るつもりだが、今は保存食のようなものが殆どだし、魔力の消費も押さえたい。まずは一部屋だけ作って彼女達の寝床に置いてもらおう。



挿絵(By みてみん)


 

 一先ず大まかな設計は出来たが不安は幾つか残る。

 一つは、風呂場に突然扉が現れたら不審がられる可能性があることだ。

 ダンジョン内の風呂で今更何をという気もするが、扉には従業員用という注意書きとともに鍵をかけるつもりなのだ。今までとは違い、扉の向こう側の安全確認が一切出来ていない状態で果たして風呂に入ってもらえるだろうか。

 

 コレについては実際に試してみて反応を見るしかないだろう。あるいは、彼女達の存在が公になればある程度安心してもらえるかもしれない。


 付随する問題として、扉の鍵の安全性についての問題もあがる。

 そもそもダンジョン内の罠は、知恵や力で必ず突破・回避・脱出できるもので無ければならないという制約がある。つまり、ドアに個人を認識させて彼女達だけを通すようなことは出来ないし、ドアに鍵をかけたとしても彼女達が鍵を奪われたりした場合は誰でも鍵を利用できる。


 また、ダンジョンの創造物は出来る過程で概念的なものが刷り込まれるようなのだ。例えば、床や壁は空間を仕切り、隔離するためのものであり、壊れてしまっては困るものだ。そこから、破壊不可能属性とでも言うべき性質が宿るらしいのだ。言い換えると、設置の目的や性質を保持する方向に力が働くともいえる。


 ならば鍵付きのドアは通行不可能属性に守られるのかというと、確実にそうとは言い切れない。

 地下二階にあるような、条件や押しボタン式のドアならまだ問題ないと思うのだが、鍵穴を作ってしまうと、そこから突破されてしまう恐れがある。

 というのも、鍵穴が認識するのは鍵そのものではなく開錠条件を満たすか否か、であるからだ。前の世界でもピッキングやカードキーの偽造などによって鍵をあける方法はあった。つまりそういう性質も持っているのだ。


 壁や床も『壊れる』という性質を持たない訳ではないが、それよりも『丈夫である』という性質の方が強い。一方鍵穴は『鍵を持つ者のみを通す』という設置目的と『条件が満たされた時開錠される』という実際の性質との間に矛盾が生じる場合があり、どちらがより強く働くかは分からないのだ。

 

 今のところ鍵をこじ開けようとする冒険者は現れていないが、このダンジョンが有名になればいずれはそのような技術を持った者が現れるかもしれない。幾つか対処法や抑止法の考えはあるが、とても完全とは言えない。

 良い防衛方法が見つからなければ、ここは緊急待避所としてのみ利用し、従業員の宿舎はべつの場所に移すことになるかもしれない。



 


 


 そうこうしている内に彼女達が風呂から上がったようだ。

 薄汚れ、疲れが顔に出ていた先ほどまでと比べると大分血色がよくなったように見受けられる。

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