スカウト
なぜこんな面倒くさい方法でコンタクトを取ったのか?
それは、ダンジョンの創造システムに問題があるためだ。
ダンジョンマスターは、基本的にダンジョン中のどこにでも改変を行えるし、見聞きすることが出来る。しかし、改変については人がいる階層では行えないのだ。
これは、冒険者の行動に合わせて魔物に指示を出したり、足元に罠を出現させたり出来ないようにするための措置だろう。
誰が何の目的でこのようなルールを作ったのかは不明だが、実際そうなのだから仕方がない。
つまり彼女達の前で看板の内容を書き換えることは出来ないし、スケルトンに移動の命令を出すことも不可能だ。
かといってスケルトンには会話の流れや相手の表情を読む知能はないし、今のところ自立思考可能な魔物は作れない。これは迷宮が発展し、魔力量が増えることで可能になっていくのだろう。
だからスケルトンには次の様な単純な命令しか出していない。
① 指示があるまで地下二階の階段下の広場で待機。
② 指示を受けたら侵入者の前まで歩いていき、看板を見せる。
③ 相手が左手の命令に合致する行動を起こしたら、左手の看板の裏面を見せ、5秒後に地下二階の待機場所へ移動する。
人がいない階に行けば、看板の内容や魔物への命令を書き換えることが出来るというわけだ。
さすがに一言ごとに行ったり来たりするのでは話しが遅々として進まないので、一体目が帰還中に二体目の看板を改変し、入れ替わりに地下一階に送り出すことで会話のタイムラグを少なくする。
ちなみに左看板の裏には【まて】とだけ書いてある。
このコミュニケーション方法は少し前には思いついていたのだが、中々実行するタイミングに恵まれなかった。
今回は、夜間なら邪魔が入りにくい事や、彼女達が切羽詰っていて話を断られ難いと予想される事などの要因で、コンタクトにはうってつけだったのだ。
ちなみに自分が直接会うなど論外である。
一見温厚そうな人物であっても、目の前の相手を殺せば莫大な富と名声が得られるという状況でどんな行動に移るか分からない。
また信頼できる人物であっても、脅されたり利用される可能性がある。僕に近づくことは双方に危険を生むのだ。
そろそろ人恋しくなってきた所でもあるが、それは我慢しよう。コレまでの生活で、どうやら僕は中々のボッチ耐性を備えている事がわかったことだし。
生前(?)の僕に一体何があったのか…。
それはさておき、エリシーは随分悩んだ様だが、ゆっくりと左手を頬にやった。構えた剣はそのままだ。
それを確認したスケルトンは命令通りに【まて】の看板を見せてから階段へ向う。
踵を返したスケルトンに、エリシーは緊張が抜けたのか剣を下ろして後ろの2人を振り返る。
「2人とも、ダンジョンマスターから話があるそうよ。今なら安全に逃げられるけど…どうする?」
すぐに次のスケルトンを送ろうと思っていたのだが、彼女達が相談を始めてしまったので待つことにした。
目の前の事柄を整理する時間も必要だろう。
こちらとしても流されるままに、何となくで承諾されても困ることだ。
「……えっと、その、エリシーさんはどうしたらいいと思いますか?」
「そうね…、私は話を聞いてみるのもいいと思うわ。逃げたところで私達の安住の地なんてそうそう見つからないだろうし、夜に行動するのは危険よ。逃げるなら話を聞いてからでも遅くはないわ。出口は直ぐそこだし」
「分かりました。お話はエリシーさんにお任せします。私達は字が読めないですし…。チヤも、いいね?」
「……うん」
どうやら一番下の子はチヤというらしい。
よく見ると2人は良く似ている。姉妹で奴隷になってしまったのだろうか?
あと字を読めない人がいることを考えてなかった。
ここに来る冒険者達を見る限り識字率はかなり高いと考えていたのが…。実は事前情報があるから読めなくても使い方が分かったということかも知れない。
エリシーが字が読めなかったらその時点でアウトだった。
とにかく、次のスケルトンを送るとしよう。
「じゃ、2人はもう少し入り口側に…そう、そのあたりでいいわ。私が合図したら直ぐに逃げるのよ」
「はい」
丁度次のスケルトンが現れた。
エリシーは再び剣を構える。
右【あなた方にはダンジョンで働いて貰いたいのです。報酬はパンと干し肉と寝床。仕事は掃除です】
左【読み終わったら左手で頬に触ってください】
剣を構えた彼女はポカンとしていた。
当たり前か。




