迷い込んだ者達
ある日の深夜。
風呂に流れ込むお湯を熱湯に変えることで滅菌していると、入り口に三つの侵入者反応が現れた。
夜遅くなると移動せずに野営に徹するのが一般的らしく、日が落ちてからの来客などいままで無かったため油断していた。
慌てて風呂の温度を調整し始め、その間に冒険者のほうに意識を向ける。
三人とも女性で、うち2人は子供だった。一人はサラ位の歳で、もう一人はさらに二歳ほど幼いように見える。
残りの一人は十代半ばを超えたくらいの気が強そうな冒険者風の女性だ。
三人ともボロキレを纏い、冒険者と思われる女性だけがこれまたボロボロの剣を持っていた。さらに、山中を駆けずり回ったかの様に泥だらけで、よく見ると三人とも同じ灰色の首輪のようなものをしている。
入り口を入って直ぐの広間で座り込んで息を整えているようだ。疲れていたのだろう。一番下の子は寝てしまったようだ。
暫くすると、年下2人の内の大きいほうが口を開いた。
「エリシーさん。ここは?」
これに答えるのは剣を携えた女性だ。
「ここはちょっと前に発見されたダンジョンよ。まだ一般には公開されていないけど」
「ダ……ダンジョンってあの魔物がいっぱい居るダンジョンですか!? なんでそんなところに……」
「ここは少し特殊でね、この中で魔物に襲われたっていう報告はされたことがないのよ。奥深くまで行くと分からないけど、少なくとも地下一階は安全よ。ギルドも保障してるわ」
ということはカイン達の件はバレていないみたいだ。行方不明扱いなのだろう。
「じゃ、じゃあどうして皆に知らせないんですか?」
「ここを確認したギルド職員がね、暫くの間は新人育成のための安全な拠点として利用することにしたみたいなのよ。一般公開してしまうと自分勝手な人が押し寄せてダンジョンを荒らしてしまうかも知れないから。ここのダンジョンマスターはどういうわけか人間に友好的だから、敵対しないで利用したほうがいいって判断ね」
「それじゃあ、安全なんですね。ここで助けを待つんですか?」
「それは決めかねてるわ。狼達はまいたし、奴隷商人も護衛の冒険者もたぶんやられたはずだけど、この首輪がある限り何処へ逃げても奴隷として扱われるし、主人が居ないってバレたらまた奴隷商に売られてしまうでしょうね」
「そんな……これからどうすれば……」
どうやらこの世界は奴隷制度が一般に広まっているようだ。彼女達は商品として運ばれている途中で狼に襲われ、その隙をついて逃げ出してきたようだ。
案外エリシーは、今話題の奴隷に落とされた元冒険者なのかもしれない。
「とりあえず今夜は休みましょう。ここには2~3日置きに冒険者がくるから、その人たちに助けを求めることになると思う。最悪だれも来なくても、朝から歩けば日暮れ前には町につくわ。ギリギリまでここで考えましょう」
「……分かりました。エリシーさんも休んで下さい。狼と戦って、ここまで守ってもらってきっと疲れてるでしょう?」
「気を使わなくていいのよ。コレでも4日前までDランク冒険者だったんだから。見張りの心得くらいあるわ」
「……すみません。それじゃあお願いします」
「ええ。おやすみ、チコ」
「おやすみなさい」
そうしてチコは、既に寝ている下の子に寄り添うように横になった。
エリシーはというと、剣を抱えて座り込んで風呂場への通路と階段の両方が目に入る位置を陣取っている。
さてと。このまま放置してもいいのだけど、魔力回収の大チャンスでもある。上手く行けば今後のダンジョン運営計画が大きく進展することになるはずだ。
早速スケルトン2体を創造しながら方針を練る。
他の冒険者が来る前に、今夜中に行動に移すとしよう。