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短編

美容室の扉を開くと


仄かに香る、整髪剤の臭い


耳に届く、ハサミが擦れる音


鏡で確認し、満面の笑みを浮かべる女性




今日、私は髪を切りに来た




―――髪―――




高校の入学式、私は退屈だったので辺りをゆっくりと見回していた


真新しい制服に身を包み、どこか堅い表情で座っている同級生達

その奥に真面目な表情で並んでいる先生方

さらに奥に座っている、保護者


この面子を見るのも少々飽きたな、と思った時

そう言えば、隣の顔を見ていないことに気づき、何とは無しに見た


そこにいたのは、優しげな雰囲気を纏った少年…いや、青年がいた


黒く艶やかな髪は、短く切り揃えられ

オニキスブラックの瞳は、見つめていると吸い込まれそうな気になってくる


そんなことを考えながら見ていると、彼が突然振り向いてきたので、慌ててそっぽを向き、腰まで伸びた自分の髪をいじっていた




その時、私は彼に恋に落ちた




月日は経ち、私は三年生になり、卒業式を三日後に控えた

一年生の時腰まであった髪は、膝まで伸びている


この三年間、私は彼を想い続けた


席替えに心臓を音高く鳴らし

クラス替えに一喜一憂した


だけど、彼に想いを伝えることは出来ずにいた

バレンタインやら何やらと挑戦はしたものの

いざとなると、臆病な心が鎌首をもたげるのだ


この気持ちを伝えていいのだろうか?


もし、断られたら?


彼との関係はどうなってしまう?


そんな声が頭に響き、直前で足が止まってしまう


しかし、ついに最後の時が来た

チャンスは一度きり、卒業式の時だけ





卒業式は粛々と執り行われた


思い出に浸っている人

涙を流している人

これからへの期待に、静かな笑みを浮かべている人


そんな中、私は緊張で胸が張り裂けそうだった

校長の話や来賓の祝辞は全く耳に入って来ない

生徒会長の送辞も、右から左に流れていく





式の後、私は彼を呼び出した


方法は悩んだが、ベタに下駄箱に手紙を入れた

そこには、式の後に校舎裏に来て欲しいと綴ってある


手のひらに何度も人字を書いては飲み込み、深呼吸を繰り返した


そうしていると、背後から聞こえる、足が地を踏みしめる音

見なくても彼が来てくれたのだと分かる


私は振り向き、彼に三年間の想いを伝えるために口を開いた


「あの、私………貴方のことが、ずっと好きでした…!」


少しの沈黙の後、彼が口を開いた


「―――ごめん。俺にはもう好きな………いや、愛している人がいるんだ。だから、君の気持ちには応えられない」


彼は、どこか申し訳なさそうに告げた


しかし、私は知っていた。彼に大切な人がいることを


だが、私の気持ちは大きすぎて

自分ではどうしようも出来なかった

だから、彼にこの膨らみすぎた風船を割ってもらおうと思ったのだ


「―――ぁ、そっか。そうなんだ。…ご、ごめんね。こっちこそ。今言ったこと、気にしないで。」


彼に悲しい顔をしてほしくなくて、わたしは努めて明るく振る舞った


彼はもう一度ごめん。と呟き、頭を下げて去って行った


残された私は、彼が歩いて行った方向をただただ見つめた


少し強く吹いた風が、私の髪を優しく撫でた





美容室の扉を開く


仄かに香る、整髪剤の臭い


耳に届く、ハサミが擦れる音


鏡で確認し、満面の笑みを浮かべる女性




今日、私は髪を切りに来た




髪を切ることで、彼への想いを断ち切れるように


切った髪と共に、想いを思い出に変えられるように


そう願いながら瞳を閉じると


涙が落ちると同時に


髪が切り落とされた









今日、一年間伸ばしていた髪を切りました

長さ的には、肩甲骨位まであったのを肩にギリギリかかるくらい

…この前描いた、奏さんより少し短い位です


髪を切るのは、昨日決断したので

昨日の夜中に衝動に従って書いてました

あ、でも失恋した訳じゃないですよ?




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― 新着の感想 ―
[一言] 恋する女の子の気持ち、そして失恋してしまった時の気持ちが伝わってきました・・・。 男の子は確かにウチのキリトさん風でしたね、妙に大人っぽいところがw 髪をお切りになられましたか・・・現在は…
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