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7/8

狙われたのは誰だ

間が空いてしまいました。すみません。

書き手としましても、勘を取り戻すまでに大分かかりましたが、けれどもレンジャーたちの戦いは続きます。

では最新話。いよいよ物語は本題へ入っていきます。お楽しみあれ。

 大分時間が空いてしまったので、前回までのあらすじ。

 前回、ついに俺の野望のその一部であるところの“正義の味方”について、ついうっかり口を滑らせてしまった。それだけならばまだ、少年の心を忘れないお茶目な大学生の野心だと、笑って済ませてくれたかもしれない。けれども、その名称がまずかった。俺が心の中だけで思っていた、俺達のヒーロー像。その名も、

“非リア戦隊、お邪魔虫レンジャー”

 そこからは、てんやわんやの大騒ぎ。取調室に放り込まれたかと思いきや、あれよあれよと主役をかけた決めポーズ対決にまで発展。まったく、発案者であり自他共に認める厨二病患者であるところの俺こそが、レッドであるべきなのに。あいつらときたら、見てくれだけで雨を推しやがって。

 その楽しい、かどうかは分からないが、些細な日常の一幕は、一人の可憐な依頼人の登場により、幕を閉じた。さてはて、どこにでもいそうな普通の少女。彼女がもたらす依頼とは。

 ……え、お前は誰かって。そんなことも忘れちゃったのかよ……。では、改めて。俺はこの物語の主人公であり、探偵社のメンバーの一人。輝く太陽よりも熱い意志を持つ男、ここでは剣と呼んでくれ。

 さて、回想はこのぐらいにして。では、本編に戻ろう。


 何事もなかったかのように居住まいを整え、ごほんと咳払いをしてから、雨が尋ねた。

「えーっと、そちらの方は?」

「今回の依頼人よ」

 彼女は紹介されたのと同時に、ぺこりと慌てて頭を下げる。

「ふ、藤家(ふじいえ)(かなで)です。よろしくお願いします」

 身長はやや低め、ピンクを基調とした可愛らしいふわふわとした洋服がよく似合っており、髪は肩ぐらいでこれまたふわふわとゆるいパーマをかけている、童顔の女性であった。その柔らかい様子が、なんだかいつもの殺気立っている依頼人とは雰囲気が違うなあと思いつつ、しげしげと眺めていたら、

「ごめんなさいね、今すぐに片付けるから」

クイーンに指示された。

「皆の者!」

『ははーっ!』

 妃に命令されては、家来は働くしかない。

「……何時代なの……?」

 その時の彼女の呟きは、最高速度で掃除をしている俺達の耳には届かなかった。


「さ、どうぞ」

 ものの数分で片付けを終えた俺達は、爽やかな笑みを浮かべて、彼女を応接間へと誘った。そう。断じて、ここは応接間であって、取調室などではないのである。断じて。

「ありがとうございます」

 少々戸惑いながらも、彼女はこの事務所で一番綺麗なソファに腰を下ろした。


 で、ここから真面目パート。と思うじゃないですか。

 いかないんだなぁ、これが。

 さて皆さん。ここで、先程まで俺達は何をやっていたのかを思い出してほしい。そう、それは、技と技、力と力、持てる全てを出し尽くした、壮絶なるポジション争い。

 というわけで、しばし、そのノリは続いてしまうのであった。

「では奏様、お飲み物は何がよろしいでしょうか」

「珈琲、紅茶、緑茶、ほうじ茶、プーアール茶、凍頂烏龍茶なんかもあるでござるよ!」

「今なら雨のお手製クッキー付いてくる!」

「甘いの好きなら、ジャムもあるわよー」

「ちょっと、あんた達……」

 流石に、大切な依頼人を前にしてのこの態度は、クイーンも我慢ならなかったようだ。けれどもここで声を張り上げたのは、なんとこれまで肩身を小さくして大人しく座っていた、お客様の方であった。

「だからせめて時代ぐらい統一してきてくださいよ!」

 彼女はすっくと立ち上がると、びしいっと指をさしながら説教を始める。

「最初の人は執事風、次は侍、かと思えばCM調の人もいるし! で、最後のジャムって。ジャムって。ロシアンティーとか国際色豊かにもほどがあるでしょう。だったら最初の執事さんとなぞらえて、イングリッシュミルクティーの方がまだ統一感がありますよ! クッキーを三段の籠に入れて持ってこられたら二重丸ですよ! それなのに貴方方ときたら。ボケに一体感がありません! 先程のお掃除をする姿から、ある程度長い期間皆さんは一緒にいらっしゃるのでしょう? それなのにこのクオリティとは。皆さん自由すぎるんですよ。きっちりかっちりボケないと!」

『すみません……』

「いや、あたしは別にボケたわけでは……」

 姫の呟きも耳に入らないようで、彼女は尚も熱く語る。

「いいですか、狙ってやるボケは天然ボケとは違うんです。皆さん私が見たところ、なかなかの素質を持った方が集まっているようです。それなのに、その才能をくすぶらせているなんて、私は我慢なりません。良いですか。たかがボケ、されどボケ。お笑いの神髄は、いかに美しく分かりやすいボケを提供するかにあるのです。そこにはある一定の規則性と、美学をですね……」

 ここでようやく、かっとなった分は消費されたのか、再びしおらしく、ソファに戻った。

「……す、すみません。つい」

 頬を真っ赤に染め、さらに身を縮こませている姿は、なかなか愛らしく、俺の目に映る。

 しかし重要なのはそこではない。俺は、いや、おそらく他のメンバーも、これまでに味わったことのない満足感を覚えていた。それはまるで、パズルのピースがぴたりとはまったみたいに。

「これだ……!」

 最初に口を開いたのは、雨。

「そうね、これね」

「僕達はこれを待っていたんだ!」

「そうだな。これこそ、俺達が求めていたものだ」

 続いて、姫、鉄。最後に俺。やはり皆、思っていることは同じのようだ。

「え? え?」

 訳が分からない、と困惑し、俺達をキョロキョロト見回す依頼人。でも彼女は分かっていたはずだ。先程、あんなに鋭い分析をやってのけたのだから。俺達が息の合った連係プレイを発揮するということを、きちんと理解していたはずなのだ。

 それを証明するように、止めを刺したのは、他ならぬクイーンだった。

「奏さん。貴女、うちの専属ツッコミとして、一緒に働かない?」

 それは、(クイーン)が膝を折って手を差し伸べるという、異例の光景だった。

「ええー!?」

 突然そんなことを言われ、そして皆にひざまずかれたた依頼人は、驚きのあまり大きくのけぞる。ソファの背もたれの性能をあますところなく活用した、ナイスリアクションである。

「いやどうしてそうなるんですか!?」

――それは貴女が、ツッコミだからですよ!

 またしても、全員の心は一つだったろう。そう、何故かは知らないが、ここに集まる人間はほぼ全員が残念なボケなのだ。残念、というところがまたみそである。……ちなみに。姫は多分ポテンシャルの高い子だから、ツッコミもできるのだが、否、あまりボケもしないのでツッコミ体質なのではないかと推測しているのだが、俺達のあまりのボケっぷりに匙を投げたのではないかと、俺はひそかに推測している。

 とにもかくにも、この事務所の混沌(カオス)を抑えるための、貴重なツッコミ要因。差し詰め、レンジャーを影から支えるサブキャラ。非リアシルバー、といったところだろうか。

 いや、まだ彼女が非リアかどうか、分かったものではないのだけれども。


 久々に話がまとまる、という奇跡の経験をしたので、おふざけはこのぐらいにして。お待たせいたしました。それでは本題に入りましょう。

『数々の失礼、お許しください……』

 まずは無礼を、全員が土下座で詫びるところから始まった。

「いえ、こちらこそ……」

 落ち着きを取り戻した彼女と、平静を獲得した我々は、ここでようやく、今回の依頼内容について話すことができた。

「それで、ご依頼というのは」

「数日ほど、前のことです。私、友達と喧嘩しちゃって、それで」

 成程。友人間のいざこざか。確かにまぁ、人間関係でお悩みのあなた、とか宣伝用のポスターに書いてあった気がするから、うなづけなくもない。

 けれどもそれだけで、年若い女の子がわざわざ探偵社を訪ねてくるだろうか。そこで気になって、

「友達というのは?」

軽い気持ちで尋ねてみると、思わぬ即答が返ってきた。

「男性です」

 別にそこが聞きたかったわけではないのだが……。いや、先輩だから言いづらいとか、せいぜいそんなものだろうと思ったのに。だがそれで合点がいった。何故、彼女がここを訪ねてきたのか。

 それはうちが、男女間トラブルの解決を、専門としているからである。

 俄然やる気になったクイーンと姫が身を乗り出し、尋ねる。

「どこで知り合ったの?」

「大学で。趣味が合ったもので」

 カタカタカタ、と恐ろしいスピードでキーボードを操る姫。あの小さな頭の中で、一体どんな仕打ち……いや、作戦が立てられているのだろうか。その末恐ろしい少女と、そして目の前でにこにこと普段の十倍ぐらいの笑みを浮かべるクイーンの姿を見て、俺は思わず身震いした。

 それに影響されたのか、彼女は勢いづいて話し出す。

「確かに、ここ数カ月仲良くはさせてもらっていました。休み時間とかに会うと、一緒に話をしたり、時間が合えば、途中まで二人で帰ることもありました。でも、だんだん彼の方が怖くなってきて」

「怖い?」

「ええ。わざわざ教室の前で授業が終わるのを待っていたり、あと、さっき一緒にいた男は誰だ、とか聞いてくるようになって」

「……確認だけど、その彼とは付き合ってないのよね?」

「はい。そんなこと、一度も言ったこともありませんし、言われたこともありません」

「つまりは、勘違い男が逆恨みして、ストーカーになりつつある、と」

「はい……」

 膝の上で拳を固め、うつむいて肩を震わせる姿は、嘘をついているようには見えなかった。

 恐怖からか、黙りこくってしまった彼女に、クイーンが優しく話しかける。

「早い段階でうちに来てくれたのは良かったわ。警察じゃ、多分取り合ってくれないから」

「何かあってからじゃ遅いからね。その点、私達なら貴女の力になれる」

 がしい、っと力強く彼女の手を取る姫とクイーン。依頼人はそれで安心したようで、少し笑顔が戻る。けれども俺はその姿を見て、全く異なる感想を抱いた。

「可愛そうにな」

 ぼそりとつぶやいた言葉に、雨も賛同を示す。

「うちの女性陣敵に回したら、ただじゃ済まないだろうな……」

 うんうん、とまだ入って日が浅い鉄でさえ、うなづいている。男性陣の共通認識である。

『なんか言った!?』

『いえ、なんでもありません!』

 だから、例えいくら真実でも、いや事実だからこそ、妃と姫に睨まれては、家来は蛙も同然であった。


 で、そのまま今後の作戦会議へと移行したわけだが、そこでとんでもないことを、俺は参謀に命令された。

「じゃあ、つるちゃん、あんたが警護につきなさい」

「ええ!?」

 いやいやいや。なんで俺が。適任は他にいるじゃないかと、おっかなびっくり問い質す。

「こーいうのは雨の仕事じゃ……?」

「雨っちだと、ほら。目立つから」

「俺じゃ目立たないとでも言うのか……!」

「とりあえず、彼氏だとは思われないだろうね」

 お前が言うなお前が、と俺は雨を睨み返した。

「くそう……」

 まぁ確かに、話を聞く限りでは、今回の標的は割と危なそうな人物。今だって何をするか分からないのに、そこに雨のような容姿の整った人間が現れては、彼は激昂するに違いない。雨に怪我があっては、あの妹君が許さないだろう。それを考えれば、鉄じゃ若すぎるし、適任は俺しかいなかった。

 仕方ないなぁと、俺が覚悟を決めた時、

「あ、あの」

遠慮がちに、しかししっかりと、彼女は頭を下げてくれた。

「よろしくお願いします」

 ここまでされては、俺も男だ。引き受けるしかない。とはいえ、気恥ずかしかったので、俺も頭を下げて顔を隠しながら、ぼそぼそと言う。

「……こちらこそ」

『お見合いかっ』

 その様子は流石のボケ集団でも、つっこみたくなったようだ。

「その意気です」

 楽しそうに、ツッコミの師匠は笑った。うむ、この笑顔を守るためならば、喜んで警護しようではないか。



 こうして、俺は彼女、藤家奏のボディガードを任されることになった。

 ただ、ボディガードと言っても大したことはせず、ただ送り迎えをするだけ……。いや、これでも語弊がある。正確には、五メートルほど離れて彼女を見守っているだけだったのだから。だが、依頼人がこれで良いと言ったので、とりあえずこの状態で様子を見ることになったのだ。まぁ、あれから三日経過したが、俺が見ている限りではそれらしき男が彼女の身辺をうろついている気配もないから、大丈夫だろう。あるいは、彼女がうまくあしらえたのかもしれないが。

 しかし、そんな俺の楽観的な推測を嘲笑うかのように、悲劇は襲い掛かるのであった。



 それは、俺がボディガードとなってから、一週間ほど経ったあの日のことである。

 警護生活も、一週間ほど経てばある程度慣れるもので、その日の放課後も、いつものように彼女を門まで迎えに行った。

 そして、一週間経ったということで、今後の方針を決めるため、俺達は共に探偵社に赴くことになった。勿論、俺が外で彼女と話しながら歩く、というシチュエーションは、今回が初ということになる。それなのに。何かしら話していないと間が持たないからと、お互いの大学生活のことなど、とりとめのない話をしていたら、突然、黒い影が目の前に躍り出た。

「くたばれえええええええ!」

 男はどうやら待ち伏せをしていたようで、手にナイフを持ち、正面から突進してきた。

「危ない!」

 とっさに、俺は彼女を守るように前に出た。だが、

「死ね、くずが」

男が暴言と共に浴びせた攻撃は、彼女ではなく、俺が受けることになった。

「え?」

 深々と、冷たい感触が腹に突き刺さる。それはほんの一瞬のことで、刺された直後は本当に何が起こったのか分からなかった。けれども、あまりの痛みと衝撃で、俺はどさりと、膝から崩れ落ちた。



「つるちゃん、つるちゃん!」

「しっかりしてください!」

 遠くの方で、そんな声と、それから、けたたましいサイレンの音が鳴っている。ああ、俺は死ぬのかな、と申し訳ないが自分のことばかりを思った。何故ならば、彼女は、藤家奏は無事だという、根拠もない確信を俺は持っていたのだから。

 

「はい、もう大丈夫ですからね」

「剣、救急車来たから。これで大丈夫だからな」

 体がふわりと持ち上げられる。かすかに消毒液のにおい。成程、これから病院か。なら、安心だな。

 気が楽になったからか、景色が遠のいていく。薄れゆく意識の中、俺はぼんやりと考えていた。



 何故彼は、まっすぐ俺の方に向かってきたのかと。本当に狙われていたのは、彼女だったのか、と。



時が経つのは早いもの。しかし、レンジャーたちの活動は終わることを知らない。

久々登場剣くん。にもかかわらず、のっけから大怪我を負ってしまう。

果たして犯人の真の狙いは誰だったのか。

次回「Mission2:友のために戦え」

頑張れ、僕らの非リア戦隊お邪魔虫レンジャー!

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