現代の世直し人
とある走行中の私鉄電車の中を、一般人には怪しまれないように、そして迷惑にならないように移動する。これが意外と神経を使うのだが、俺にとっては慣れたもの。すいすいと進んで、目的の人物を探す。
「いた……。彼らだ」
標的を見つけると、俺はさっと二人に近づく。速過ぎも遅過ぎもしない、例えるなら俺から見てこのカップルの奥に見える、電車内唯一の楽園、空席を目指しているかのように。そんな気軽さで男の方にそっと近付くと、わざと腕にぶつかる。狙いを研ぎ澄まし、その手に持った携帯電話がちょうど、床に落ちて彼女の方に向くように、計算して。
「痛っ」
「す、すみません」
この時、頭を深々と下げて、顔を見られないようにするのも忘れない。こうする事で、俺の印象も良くなり、後々のトラブルも防げる。
「もう、気を付けてくださいね」
そうして、彼女の――今回の依頼主である女の手に、携帯が渡る。俺の見事な手さばきにウインクをする彼女に、俺もアイコンタクトで返す。悟られてはいけない。俺は謝りながら、下を向いたまま早々に出口へと急ぐ。
「って、ちょっとあんたこれ、誰に送ってんのよ!? 愛してるって、誰に言ってるわけ!?」
――ミッションクリアだ。
これぞ俺の必殺技、超大陸分裂。技が決まったのを見届けると、ちょうど開いたドアから素早く立ち去る。ホームに降り立った俺には分からないが、車内ではきっと彼女が別れ話を切り出している事だろう。それが彼女の依頼だったのだから。
改札を出ると、俺は邪魔にならないような場所を選び、両足にローラーブレードを装着。今回の成果を報告する為、探偵社へと足を速めた。
申し遅れた、俺は世直し屋。別れさせ工作を副業とする、至って普通の大学生である。
初めて、でもないですが、厨二っぽい感じを前面に押し出そうという作品です。
縡月名物自作リンクもありますので、どうぞお楽しみに。