令嬢さんの愉悦的ススメ「婚約潰されて人生終了かと思ったら変な魔法を貰ったので恥かかせる」
ここは辺境に位置する貴族の屋敷。
私にとっては今日もまた憂鬱な朝が来る。
「おはよう、リコ。今日も朝から教育が詰まっているので、早く準備するように」
「はい、母様……はぁ、辛い」
正直、私は昔から「やりたいこと」に憧れていたと思う。
外で同じ年の子供たちと走り回りたい。
真っ白なキャンバスに自由に絵を描きたい。
家柄だけで繋がっていないような、気の置けない友達が欲しい。
値段だけは高価そうな、よくわからん壺を割ってみたい。
大変残念なことに、その全てが許されていない……いや、最後のはまともでも無理なんだけど。
「定刻5分前、よろしい。ディタムーン家の令嬢たるもの、常に厳格で、冷静で、完璧でありなさい」
「母様……その、今日こそ話を聞いていただきたいのですが」
「今は教育の時間です。ディタムーン家の令嬢たるもの、常に厳格で、冷静で、完璧でありなさい」
「いやあの」
意見を言いたくとも、こんな感じで母様たちは精密なからくり時計のように何度も同じ格言でごまかしてくる。
いや、こっちはマニュアルで動かせる玩具じゃねーんだぞ。
もしかしたら後頭部が可動式で、中に歯車が入っているのかもしれない。それも真っ黒に錆び付いたヤツが。
なんて考えていると、そのまま家庭教師を迎えに行った母様と入れ違いで少女が入ってきた。
「あ、お姉様」
「アリス……もしかしてまたパーティー帰り?」
「ええ。特に誰にも咎められてないし、いいでしょう?」
双子の妹のアリス・ディタムーン。
ディタムーン家の次女として表向きは真面目に振舞う癖に、裏では自由に遊びたい放題。
流石に同じ腹から生まれた子、思考の遺伝子は似ているということだ。
唯一違うのは、長女じゃないからか、要領がいいからかは知らないが、何故かあいつは監視もゆるゆるで、毎日好きなことができていること。
何とか努力してこのお姉様も連れてって欲し……じゃなくて、心底妬ましくて腸が煮えくり返る。
だけれど、そんな窮屈な生活もここで終わり。
何故なら次の夜会で、私も晴れて婚約者になることが決まったからだ。
相手は王都の有名貴族の当主、エクス・ティエン様。
どうしてコネが繋がったのかは知らないが、評判だと誠実で優しい麗人だと聞いているので私にはもう些細な問題だ。
監視だらけの生活から抜けられるどころか、王都のイケメンの玉の輿に乗る恵まれた生活が待っていること間違いなし。
これでようやく息の詰まる人生が華やかに――
「……! 失礼、君の名前は?」
「うふふ、アリス・ディタムーンでございますわ」
「そうか、君がディタムーン家の……聞いていた話よりも明るくて綺麗な花みたいだ。」
「……! ええ、そうですわ、エクス様」
あれ? ちょっと?
「私はエクス・ティエン。改めて、私と婚約してほしい」
「あの、エクス様?」
「はい、喜んで!」
「アリス!?」
妹? 嘘だよね?
「エ、エクス様! 大変失礼なことを申し上げますが、今回ご紹介になった婚約者は私です!このリコ・ディタムーンです!」
「おや、アリスさんとお聞きしましたが……少し失礼」
「お姉様、エクス様が困っておられますわ。そもそも同じディタムーン家ですし、横取りせずとも家に問題はございませんでしょう?」
問題しかございませんが? てかさらっと横取りっていうな、それはあなたの方でしょうがよ。
いや、誠実で評判のエクス様ならきっと――
「ふむ。まあ、そういうことで――」
ちょっと待て、誠実はどうした誠実は。
すました困り顔して思いっきり自己都合マンじゃないか、下半身に動力搭載してんじゃねーぞ。
すると、異変に気付いたのか我らが母様が現れる。
普段は妄想でサンドバッグにしているくらいには嫌っているけれども、今回ばかりは助かった。
厳格な母だ、きっと私の味方を――
「リコ、みっともない言いがかりは辞めて、頭を冷やしてきなさい」
母様? ディタムーン家の家訓は?
「か、母様! よく考えてください、アリスの行動はディタムーン家にふさわしいと思えません!」
「何を言ってるのかしら、えっと……そう、元々家が婚約者に出したのはアリスの方でしょう」
「ちょっ、それは人の心がなさすぎませんか!?」
悲しいかな、私が知らないだけで、どうやらディタムーン家の教えは都合のいい方に流動的。
本当に滑稽で仕方のない劇だ、まあ惜しむらくは笑うこともできないということ。
「とにかく、あなたは広間から出なさい。恥を増やす前に」
「だそうですわ、お姉様」
「はい??」
「アリス、もっと君のことが知りたい。あそこで二人きりで話さないか?」
一体なんだこれは。
恥を増やしてるのはどう見ても母様たちだし、婚約者だったはずのアレはもうこっちに興味をなくしてるし。
なーんて表立って言えるわけもなく、華やかな光の会場からあっさりと暗ーい庭園に追い出された。
……あの、私の人生もしかして終わりですか、教えてマイフレンド?
ああそうだ、いないんだよマイフレンドは。
「……クソ妹はいつか恥かかせるとして、どうすればいいのかしら……」
家族に裏切られ、婚約者に裏切られ、真っ暗な庭園のベンチで、絶賛私は孤独を噛みしめ中。
どうして必死の努力を強制されて頑張ってきた私よりも、楽しく生きてきた妹が人生の重要なポイントでも美味しい思いをするのだろう……なんて、考えれば考えるほど惨めになる。
……いや、こうとも考えられるはずだ。妹が嫁いだなら、私が逆に妹のようにやりたいことをやって生きられるはずだ。
そう考えたら、むしろあの下半身貴族様との婚約生活よりもいいのではないか?
いや、きっといいはずだ。
「そ、そうだ、もっと前向きに考えよう。きっとこれからは期待のないスローライフを生きられるはず――」
「へぇ、本当にそうだと思うの?」
「ええ、そりゃ、妹がそうだったんだし……ちょっと待ってください? あなた誰ですか?」
待て、今私は誰と話した?
夜の庭は当然暗く、私はその中でも特に目立たないベンチに座り込んでいたはずだ。
慌てて顔を上げると、そこにいたのは真っ黒な鳥の仮面をつけた……ああ、不審者?
「その顔……今、失礼なこと考えてるでしょ。」
「こんな場所でわざわざ仮面越しに話しかけるって普通に危険人物でしょう。あ、衛兵さー」
「ストップ! 一旦落ち着きすぎだね!? もうちょっと焦った体で話してくれると話の展開的に嬉しいんだけど」
「それで、何の用でしょうか?私の自由な人生設計に対して否定的な発言をしていましたけれど……適当な野次をおっしゃっているのならあなたを監獄にぶち込みますわ」
「こわ、落ち込んでるとは思えないくらい図太……たくましいね。大丈夫、適当言うつもりはないから」
「それってどういう……」
不審者が仮面を取ると、桜色の瞳を持った笑顔の男性の顔が現れた。
まるでその瞳は夜空に浮かぶ星のように光り輝いており、飄々として読めない笑みも相まって、不気味でたまらない思いと同時に惹きこまれる感覚を覚える。
「……さて。改めて、僕の名前はアバロン。エルメス家の執事として、"7代目・愉悦の魔女"であるあなた様のお迎えに上がりました」
「お医者様この人で」
「そのくだりいいから!そこはでてきた情報に驚け!」
アバロンと名乗る男は咳払いした後に語り始める。
「まず、あなた様が本来進むことになる未来だけど……自由になれると思ったら大間違いで、あの母様によって教育を受け続け……やがて軍関係の名家である"ボイダー家"に嫁いで、特に愛されることもなく有能な召使同然に使われることになるんだよね」
「はい?? いやあの、妄想ですよね?」
「……」
なんか……思った以上に具体性のある気持ち悪いこと言って来たな。
後こっちの不安に対して、意味があるのかどうかもわからない微笑みで返してくるのは是非とも勘弁してほしい。
「何か言ってください!? こっちは人生に関わる内容聞かされてるんですけど」
「あれ、ごめんねー。でも大丈夫、それを回避するために僕がわざわざこのタイミングで会いに来たんだから」
アバロンが取り出したのは一本の短い杖。
……杖。
さっきの魔女発言と言い、いよいよ御伽話地味てきたこの状況に、目の前の男の話に付き合ってきたことに若干の後悔を覚える。
「もしかして信じてない?」
「魔法なんて存在しませんから、絵本の中の話ですわ」
「って思うでしょ?普通はね」
アバロンは証明するかの如く、杖を振ると……本当の意味で空からケーキが降ってきた。
さっきまで感じたことのなかったその甘い香りに、手品でもなく本当に現れたと、魔法の存在を嫌でも理解させられる。
それと当たり前のように素手で掴んでるけど、ちゃんと自分で食べるんだよな?
「まあ、こんな感じ。君だってできるよ。なんなら愉悦の魔女はこれとは比にもならずに自由なことができるんだ」
「……魔法の存在は認めます。それで、私をどうしたいんですか」
あ、つい好奇心が。
アバロンが待ってましたとばかりに目が光る。
「そうだね……あなた様はエルメス家の当主となり、愉悦の魔女の称号を継いでいただくことになるかな。学園とかもあって楽しいよ」
学園。家庭教師漬けからすると憧れる響きだ。だが……
「その……当主って大変じゃありませんか? 結局、色々責任とかも降りかかるんでしょう?」
「責任!? そんな言葉をおっしゃる!?」
「驚き方ダル」
「これは失礼、私の知る先代魔女様たちはその言葉とは無縁だった人ばかりだからね、それはもう。仕事なんて放棄が常時で。先代はレース大会の開催に半年の時間を文字通り半永久的に休むことなく費やしてました。特に喫煙所コーナーに力を入れていて……」
「ちょっと突飛すぎて困ります」
「で、契約する?」
「うん、契約したい。めちゃくちゃ興味しかないです」
「そう言うと思ってたよ……じゃあ……」
すると、アバロンが突然自分の顔を近づけてくる。
興味しかないとは言ったが、そこまで間近で見る気は……待ってこいつ……!
「? あの、それはキスでは……ちょ!? あの、ふし、不審者が……むぐっ」
「黙ってて……はい、これで契約完了」
乙女の尊厳と引き換えに契約をした瞬間、生まれて十数年一度も感じたことのなかった何かが流れ込むのを感じる。
体は何も変わっていないが、今なら何でもできる……気がする。
「それではリコ様。記念すべき初め、何をしたい?」
何をしたいか……そう聞かれるとまだ固まってないな。どこかに気持ちよく魔法を振るえる相手でもいれば――
あ、そうだ閃いた。
「よし、あいつらわからせよ」
夜会の会場に戻ると、平穏な空気は憎たらしいくらいに何も変わっていなかった。
まずは母様の所へ挨拶に行く。また難癖付けられるのも面倒だからやむを得ない。
「あらリコ。頭は冷えたかしら」
「ええ、母様。問題ありません」
「よかったわ。今ちょうどボイダー家の方と話していたの。あなたには厳格な方が合っているでしょう?」
「わーありがとうございます」
マジでやろうとしてたんかい。
先に突き付けられた未来が現実になりそうだったと知ると、改めて背筋が凍る。
「そうだ。アリスはどこにいらっしゃいますか? 先ほどの非礼を謝りたくて」
「ああ、ほら、あちらの方でエクス様と談笑しているわ。今度は粗相のないようにね」
「はい」
謝りたいわけないが、私が謝ることがさも当たり前のように返されるのも腹が立つ。
はよいけって面すんなよ、この厚顔無恥。
足を踏み入れると、そこにいたのはお花畑が二人。
こっちが来ても気づきもせずにイチャイチャいちゃ位置しているのは腹が立つ。
「あの……」
「失礼、ちょうどアリスと話こんでて気づかなかった。えっと……名前は誰だったか」
「ぷぷっ、エクス様ったら……」
誰だって言ったか今???
仮にも婚約したい人間の姉の名前すら覚えられないタコを社交場に送りこんでくるな。
「……改めまして、私はリコ・ディタムーンと申します。大変失礼なことは承知ですが、今日名乗り上げた人間の名前を忘れるのはいただけることでないと存じますが?」
「はぁ……厳格なお姉様には分からないでしょうけど、エクス様はお忙しい身なの。卑しい泥棒猫に記憶を割く余裕など――ぶっ!?」
……おっと、失礼。あまりにも煩わしくて、大事な妹の頬に手を出してしまった。
「ごめんなさい、もう一度言ってくれるかしら?」
「……いや、は?お姉様……?」
「あは、泥棒猫はあなたでしょう?」
あ、完全に空気が凍った。
そりゃそうだ、事情はどうあれ立派な暴力沙汰なのだから。
まあ、だからなんだという感じではあるが。
「君! 私の婚約者になんてことをするんだ!」
勿論、下半身貴族様にも酷い目に合ってもらわねば。
……そうそう、せっかくだし愉悦の魔法を試してみるか。
「"愉悦"」
その瞬間、下半身貴族様のベルトがはじけ飛び、貴族様のご子息様が大衆の面前でお披露目になった。
「……は?」
「エ、エクス様!? どうされたのですか!?」
夜会場は完全にパニックになる。そりゃそうだ、周りからは王都の貴族様が自分の子爵様を堂々と見せびらかし始めたようにしか受け取れないのだから。しかも……
「「……ちっちゃ」」
「ま、待てアリス! 違うんだこれは……!」
何とは言わないが……うん。
正直に言ってめちゃくちゃ滑稽で面白いわこれ。
すると、空気を切り裂くように面倒くさい人がやってきた。てか、婚約者のこの光景を見て何も言わない母様メンタル強すぎだろ。
「リコ! あなた、謝りに行くって言ったわよね!? 一体なんのつもりでアリスに平手など――」
「母様、私は誠実な対応を行っただけですわ」
「はぁ!? なにを馬鹿なことを――」
「奥様がた! すぐにお戻りください!」
詰め寄ってきた厚顔無恥に割り込むように、ウチの使用人がやってくる。うーん、これはナイスタイミング。
「何よ、今大事なときで……」
「それが、その、怪盗と名乗る盗賊に屋敷の美術品が数点盗まれました……!」
「は!? ちょっとどういうこと――」
「その、どうやら夜会に出る際に鍵を閉め忘れたのが原因のようでして……そ、それで、ご主人様のお気に入りの例の絵画も盗まれていたようで、怒りが有頂天になっており……」
厳格を形にしたような男の逆鱗。その言葉に、母様とアリスが揃って顔面蒼白になる。
先んじて愉悦の魔法でとりあえず家にトラブルが起きるように仕向けていたが、想像以上に突飛な方向に持っていったみたい。
「か、母様、どうせならお姉様に責任を押し付けましょう」
おーい、聞こえてんぞー。お姉様ぶちぎれるよー……いや、とっくにぶちぎれてるんですわ。
まあいいや、まだ復讐は終わらないから、この魔法で十数年の恨みつらみを押し付けさせていただこう。
「"愉悦"」
するとあら不思議、慌てて足を踏み出したアリスの靴が突然氷でも踏んだかのように滑る。
テーブルの上に置かれた料理を巻き込んで、逆さまのあられもない体制でどこに見せても恥ずかしい令嬢の出来上がりだ。
「アリス!?あなた、何して――ぎゃっ!?」
あ、ちゃんと母様にも全く同じことをやってもらうことにする。仲間がいれば問題ないでしょ。
困惑したフリであたりを見回すと、一部始終を見ていた周囲が数秒の沈黙……からの、失笑が浮かべ始める。
当たり前だ、外の目線で見ればなんか揉めていた家の人間が、ご勝手に二人揃って同じマヌケを晒したのだ。
「そうだ、アリス、母様。1つ、申し忘れておりましたが……私、今夜の件の責任を取るため、高貴なるディタムーン家の身分から身を引かせていただきます」
「は、お姉様!? 今!?」
そう、今だよ。
「はん、お姉様みたいなみっともない真面目人間が1人で生きていけるなんて、冗談はほどほどに――」
「えー、今みっともないなのは君じゃない?」
「は?誰……え!?」
「面白いことになってたみたいだから……つい来ちゃった」
……あれ、黒仮面の不審者様。なんでいるんだ君。
完全に笑いをこらえているように見えるのは、私の気のせいだよね。
「だ、誰よ、このかっこいい声のお兄さん……! お姉様がこんなのと知り合いなはずないわ」
「いやいや、立派な知り合い……否、それ以上かもね。でなきゃ僕は彼女を雑に潰そうとしたあなたらに怒る理由もないだろ?」
顔は飄々とした笑みの癖に、その声は笑っていなかった。
なんだこいつ、まさか私のために本気で怒って……ないな、ほぼ初対面だし。
「ご安心ください、お義母さま。このお転婆さんは僕が責任もって幸せにするんで」
「お転婆いうな」
アバロンは再び仮面を外し、この修羅場にあざ笑うかのような一瞥をした後、突然お姫様抱っこしてくる。
こいつ……執事として振舞ってるのか? 振舞ってるよね?
「あ、あなた……誰が義母よ!?」
「イ、イケメンがお姉様に……!」
「おい目の前でお姫様抱っこするな」
小声の抗議も完全に無視。
夜会の惨状なんて知ったことか、とそのまま堂々と去ったアバロンは、そのまま屋敷の前に止めてあった馬車に私の体を乗せる。
なんていうか……想像以上に丁寧に乗せられて驚いてしまっている私がいる。
勿論、ディタムーン家のものではなく、例の胡散臭い執事のアバロンが用意したもので、馬になぜか鳥の翼が付いているが、今はどうでもいい。
こちらを振り向いたアバロンの顔は……なぜかめちゃくちゃ苦笑いしている。一応、この魔法をくれた張本人のはずだけど。
「僕は婚約者じゃなくて執事なんだけど……それにしても、想像以上に上手く使いこなしてるね、魔法」
「あれ、そうですかね?」
「初日で大衆の面前で他人様のズボンを降ろしたのは君が初めてだからねー、そんな無垢なフリしなくていいからね。……それにしても、あの人たちもある意味愉快だったね。ここまで目先の欲望に踊らされてるのも中々見たことないや」
アバロンはそこまで言うと、視線を前に向けて馬車を走らせる。
夜会の会場はやがて小粒のようになり、自分が今まで住んでいた世界が遠くになっても何も感じないことに気づく。
十数年縛り付けてきた癖に私を裏切ったディタムーン家の今後など、もうどうでもいいみたい。
だが敢えて1つ言うなら……ごきげんよう、ざまぁみろ。
数ヵ月後。
あの馬車は山どころか空を超えた。
どこにあるかも分からない浮遊大陸の田舎にエルメス家の屋敷はそびえ立っていた。
新しい生活は今までの真逆で、あらゆることが好きにし放題。
食事に大量のチョコソースをかけてもいいし、廊下を走り回るどころか馬車を乗り回してもお咎めなし。
正直こんなにやってもいいものかと思ったが、アバロン曰くそれが愉悦の魔女にとっての普通らしい。
なお、機関車を屋敷の前に停車させたときは流石にドン引かれた。
孤独な環境で家庭教師にしごかれるだけだった息の詰まる青春も、学園への転入を機にマイフレンドもそこそこできて、楽しくやれていると思う。
ああ、決して問題児という称号を得たわけではないので、そこは忘れないように。
「そうだ、アバロン。私……同級生の方に恋してしまったかもしれないわ」
「ほう、リコ様が恋! それは喜ばしいことだね。連れてきてよ、ぶち殺……いや、責任を持って見定めるから」
「ふふ、冗談よ。それよりあなたもずいぶん頭が愉快になったのね」
「はぁ……先日、学園の花に剛健な体を生やして徘徊させたのはどこの誰だろうね」
「あれはもう反省文を書いたので無問題ですわ」
今日も私の人生は自由で素晴らしい。
よければ評価や感想、誤字脱字報告くれると喜びます




