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第五話:記憶のノイズ


 戦闘の余波が漂う地下ホーム。破壊されたモノリスの指揮官機から、ガイのデバイスへと強制的なデータリンクが実行された。

 ノイズ混じりのホログラムが、二人の間に浮かび上がる。

「……これは、モノリスの機密アーカイブか?」

 凱の問いに答えるように、画面に映し出されたのは、数年前の実験室の記録映像だった。

 そこには、拘束台に横たわる変身前のレイと、傍らで冷酷にデータを弄ぶ九条――モノリスの幹部の姿があった。

『……よろしいのですか、乾 零。被検体001――伊吹 凱の結晶化進行度は、もはや手遅れです。彼を救うには、あなたの「純粋な適合細胞」をすべて移植する他ない』

 映像の中のレイは、ひどく穏やかな、それでいてどこか遠くを見つめるような目で笑った。

『……構わない。あいつは……凱は、俺よりずっと強い。俺が「電池」になって、あいつが生き残れるなら、それが一番いい曲になるはずだ』

 カナタの息が止まった。凱の拳が、ミシミシと音を立てて震える。

『……代償として、あなたは自我を失い、モノリスの「生体パーツ」として再構築されることになりますが?』

『……いいさ。……約束したんだ。いつか、あいつと奏多と一緒に、誰も砂にならない場所で、下手くそな合奏アンサンブルをしようってな』

 映像の端に、幼い頃の三人が映り込んだ古い写真がノイズと共に流れる。

 まだ病も、戦いも知らなかった頃。木の下で、おもちゃの楽器を手に笑い合う、レイ、カナタ、そして少しだけ照れくさそうに笑う凱の姿。

「……ふざけるな……。ふざけるな、零!!」

 凱の絶叫が、地下ホームに木霊した。

 彼がずっと信じていた「自分は強さで生き残った」という自負。それがすべて、親友の「施し」によって与えられた命だったという真実。

「……あいつ、そうだったのか……。自分の心臓を、お前に……」

 カナタが伸ばそうとした手を、凱は烈火のごとき勢いで振り払った。

 

「黙れ! 貴様に何がわかる! 俺は……あいつに貸しを作ったまま、あいつを化け物にしたモノリスの犬として生き長らえさせられたというのか!」

 凱の首筋の結晶が、怒りに呼応して赤黒く明滅する。

 レイは、凱を救うために自分を捨てた。

 そして今、そのレイは「白夜の騎士」として、かつての約束を忘れ、自分たちを殺しに来る。

「……奏多。勘違いするな。俺はあいつを許さない。俺を救ったことも、勝手に消えたこともだ」

 凱は、デバイスから流れる「約束の旋律」――幼い頃に口ずさんだメロディの断片を、力任せに遮断した。

「俺はあいつを壊す。……モノリスも、あいつが守ったこの命も、すべてを使い切って、あいつをこの地獄から解き放ってやる」

 凱の瞳に宿ったのは、かつての憎悪を超えた、漆黒の決意。

 カナタと凱。二人が背負う「不協和音」は、あまりにも重く、悲しい真実を飲み込んで、最終決戦への譜面を書き換え始めた。

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