第三話:欠落したスコア
地下水道の激闘を終え、ボロボロの体でレジスタンスの隠れ家――廃墟となった地下鉄の駅ホームへと辿り着いたカナタ。
変身を解いた彼の右脚は、すでに感覚を失い、白く乾いた砂が軍靴の隙間からこぼれ落ちていた。
「ハァ……ハァ……。ここが、あんたたちの……」
「ああ。歓迎はしないよ、死に損ない」
ホームの奥、暗がりから響いたのは、氷のように冷たく、それでいて傲慢な響きを持つ男の声だった。
カツン、カツンと正確なリズムを刻み、一人の男が歩み寄る。
名は、伊吹 凱。
レジスタンス『アリア』の戦闘指揮官であり、サラですら一目を置く凄腕の戦士だ。彼は、カナタの首筋の結晶紋様を、汚物を見るような目で見下ろした。
「……サラ。なぜこんなゴミを連れてきた。結晶病の末期患者は、野垂れ死ぬのが社会のためだと言ったはずだが?」
「口を慎みなよ、凱。こいつはモノリスの『プロトタイプ』を起動させたんだ。私たちの戦力になる」
「戦力? 冗談はやめろ。自分の命すら調律できない不協和音など、戦場ではノイズでしかない」
凱は、自らの腰に装着された漆黒のデバイス――『皇帝の指揮棒』を指先で弾いた。
彼は、灰化病の進行を完全に抑え込み、結晶の力を「純粋な破壊」へと変換できる稀有な適合者だった。
「……てめえ、誰に向かって言ってやがる」
カナタが這い上がり、凱の胸ぐらを掴もうとする。だが、凱は電光石火の動きでカナタの手首を捻り上げ、冷酷に言い放った。
「乾 零を知っているか? かつて救世主などとおだてられ、最後は無様にモノリスの操り人形に成り下がった男だ」
「……レイを、あいつを馬鹿にするなッ!!」
「事実だ。あいつは弱かった。守るべき『夢』などという不確かなものに縋ったから、心を壊され、今の『白夜の騎士』というスクラップに成り果てたんだ」
凱の瞳には、かつての英雄に対する激しい憎悪と、それ以上の「執着」が宿っていた。
彼にとって、レイは超えるべき壁であり、同時に自分をレジスタンスという修羅道に叩き込んだ元凶でもあったのだ。
「いいか、奏多。貴様に選択肢をやる。……今すぐそのデバイスを置いて消えるか。あるいは、俺に壊されるまでその無様な音を鳴らし続けるかだ」
凱の手が、デバイスの起動スイッチにかかる。
ホームに、一触即発の重苦しい「静寂」が立ち込めた。




