第一話:鳴り止まない不協和音(後半)
「……ターゲット、排除」
漆黒の騎士――『白夜の騎士』が、その右腕に装備された高周波ブレードを起動させる。
空気が震え、死の旋律がカナタの鼓膜を突き刺した。かつての親友、レイと同じ声。だが、そこには一切の感情が通っていない。
「待てよ、レイ! 俺だ、カナタだ! 忘れたのかよ、あの時の――」
返答は、音速の刺突だった。
カナタは咄嗟に銀色の腕で防ぐが、衝撃波だけで結晶の装甲に亀裂が走る。
「ぐ、あああああッ!!」
圧倒的な出力の差。モノリスによって「完璧に調律」された死の機械に対し、カナタの体は自身の命を削る不完全なプロトタイプだ。
レイのブレードが、カナタの喉元へ振り下ろされる――その瞬間。
――ガギィィィィィィィン!!
路地裏の屋上から放たれた「紅い閃光」が、レイのブレードを弾き飛ばした。
「……チッ。相変わらず、モノリスの『掃除屋』は仕事が早すぎるねぇ」
軽薄だが、どこか芯の通った女の声。
瓦礫の上に降り立ったのは、深紅のライダースジャケットを纏った一団――モノリスに反旗を翻す武装抵抗組織『レジスタンス・アリア』のメンバーだった。
その中心に立つ女、サラが、肩に担いだ巨大なレールガンを再び構える。
「おい、そこの銀色! 死にたくなきゃ、こっちに来な。……その『調律器』、アンタには重すぎるだろ?」
「レジスタンス……!? 邪魔をするな、俺はあいつと――」
「あいつはもう、アンタの知ってる人間じゃないよ」
サラの言葉と同時に、彼女の背後から数人のメンバーが煙幕弾を投下する。
視界が白く染まる中、レイのバイザーが不気味に赤く明滅した。
「……障害物を確認。……ミッション継続不可能。帰還する」
レイは追撃することなく、霧の中に姿を消した。
まるで、プログラムされた通りにしか動けない人形のように。
「ハァ……ハァ……」
変身が解け、カナタはその場に崩れ落ちた。
右手の先が、パウダー状の砂となってパラパラと崩れ始めている。
「……あいつ、レイ……。生きてたのか……」
助けられた安堵よりも、親友が「壊されてしまった」という事実が、カナタの胸を締め付ける。
サラが歩み寄り、カナタの首筋に浮かぶ結晶の紋様を凝視した。
「……アンタ、いい音(心音)してるじゃない。……気に入ったよ。私たちの隠れ家へ来な。モノリスをぶっ壊すための『不協和音』、アンタなら奏でられるかもしれない」
灰色の雨の中、カナタはサラの手を借りて立ち上がる。
親友を救い出すための、長く、険しい反逆のタクトが今、振り下ろされた。




