新撰組健康診断騒動 土方歳三はお疲れの模様
健康こそ誠、善意の男 近藤勇の
思い付きにお疲れの土方歳三です。
朝の屯所。
書類の山をようやく片づけた土方の机に、一枚の紙が置かれていた。
嫌な予感しかしない。
題名には、やけに力強い筆跡でこう書かれている。
《局中健康診断のお知らせ》
「……今度は何だ」
低く呟いた背後から、弾むような声がした。
「トシ! 先日やった健康偏差値だがな、どうも客観性に欠けるという声が多くてな!」
「それはあんたも分かってただろう。くしゃみの勢いとか、誠らしさに点数をつけて算出した偏差値に、客観性を求める方が間違いだ」
「いやいや、だから今回は実測だ。ちゃんとした健康診断をやろうじゃないか!」
「近藤さん……俺は今、誠の定義だけで十分疲れてる。後にしてくれ」
そこへ医局の山崎が、帳面を抱えて現れた。
「局長に呼ばれましたが……まさか、また本気ですか」
「もちろんだ! 隊士の健康なくして誠は語れぬ!」
「昨日、町医者に健康証明書を作ってもらいましたよね。それで十分では……」
「病気じゃない=健康、とは限らんだろう?新撰組の身体だ。何度確かめても、し過ぎることはない!」
満面の笑みで言い切る近藤に、土方は深いため息をついた。
大広間には、見たこともない器具が並んでいた。
「へえ、これが診断会場かあ。なんだか近代医療っぽいねえ」
沖田が感心したように言う。
「縄と竹竿のどこが近代だ」
「データさえ取れれば文明だろう。健康こそ誠だ!」
山崎は諦めた顔で帳面を開いた。竹竿で身長を測り、縄で体重を測る――そんな診断である。
「まずは身長測定! 沖田総司、前へ!」
沖田が立つが、竹竿はぐにゃりとしなり、まったく安定しない。
「それ、縄で測る予定じゃなかったか? 無理があるぞ」「うむ……縄か。こっちの方が誠実だな!」
誠実とは何か、誰も分からなかった。
体重測定ではさらに混乱が起きた。
原田の番になると、縄の秤が悲鳴を上げる。
「おい、これ壊れてねぇか!?」「壊れたのはお前の筋肉だ!」
永倉は柔軟測定中、勢い余って畳を裂いた。
「見ろよ副長! 俺、柔らかいだろ!」
「畳が泣いてるぞ」
「土方さん、体重が……102kg?」「何だ、文句あんのか」
「いえ、筋肉ですね。純度が高い」
「斎藤、血圧が180だぞ」
「問題ない」
どこが問題ないのか、誰も聞かなかった。
測定は最後まで混乱のまま終わり、集計された健康偏差値を見て、近藤は満足そうに頷いた。
「うむ! みんな元気だ! これで誠の健康は安泰だな!」
土方はもう何も言わなかった。
その日の夕方。
裏庭で沖田、原田、永倉、斎藤がお茶を啜っていた。
「今日の診断、面白かったねえ」
「数値もすごかったな。副長の体重が102kgだぞ」
「局長は一回目50kg、二回目60kgだったな」
「合間に菓子を食ったのが原因とか言ってたぞ。」
「……ファジーだな」「俺の血圧は180だった」
「大丈夫なんだろ?」
「土方さんのやる気のなさが出てるよねぇ。
本気になれば、ちゃんとした体重計や血圧計を用意するだろうに」
「ああ、よっぽどウンザリしてるんだろ」
沖田は湯呑みを傾けながら、ぽつりと言った。
「でもさ、本気で健康を考えるなら、労働時間を減らすのが一番なんじゃない?」
しばしの沈黙。
「……うむ」「ワークライフバランス、大事だな」
誠とは、たぶん、そういうことなのだ。
――まあ、あとで土方のところにお茶でも持っていって、肩ぐらい揉んでやるかなあ、などと思いながら。
沖田総司は、のんびりと湯呑みを置いた。
※本作は、前作「健康管理月報」と
ゆるーくつながっているお話です。
よろしければ、覗いていただけたら嬉しいです。




