第3章 新たな出会い05
賞金稼ぎは二人組で、馬から降りて周囲を捜索し始めた。サフィーとガブリエルは寸前で茂みの中に身を潜めることが出来たが、見つかるのも時間の問題だった。
「くっ……アイツら俺を撃ってきた奴らだ。まだ諦めてなかったのか」
ガブリエルが小声でそう呟く。
「撃ってきた?」
「あぁ、アイツらは銃って道具を持ってるんだ。そいつの前じゃ、俺の甲冑もバターみたいなものだ……」
ガブリエルの説明にサフィーは静かに頷く。
「なるほど、しかし何故貴方は賞金稼ぎに狙われているのですか?貴方は私のようなユニコーンでもないのに……」
「俺の首には賞金がかかってるんだ。あの国の生き残りだからな……」
「あの国……?」
「俺の故郷だ。もうとっくに滅んでしまったがな……」
ガブリエルの顔が曇る。
「俺がもっと強くあれば……」
「……その様子では、貴方も死力を尽くしたようですね……でしたらそこまで自分を責めないでください。貴方は出来る限りのことをしたんですよ。今はこの状況を打開する方法を考えましょう」
サフィーのその言葉が、ガブリエルの慰めになったのかは分からない。だが、彼はひとまずは顔を上げた。
「……そうだな。今は目先の危機を解決しなくちゃな。……アンタ、何かデカい音を出す方法とかはないか?」
「えっと……それなら『爆竹の魔法』が最適な筈です」
「よし……んじゃあ俺の言うことをよく覚えてくれ……」
ガブリエルはサフィーに耳打ちをする。
「……なるほど、それは中々良いアイディアですね!」
「よし……!じゃあ始めるぞ……!」
その言葉と共に、サフィーとガブリエルは二手に分かれた。
賞金稼ぎは手分けして周囲の茂みを片っ端から掻き分けていた。
「クソがっ!確かにここにいる筈なのに……!」
賞金稼ぎの太っている方が地団太を踏む。
「そうカッカするなって。奴は手負いだ、まだ近くにいる筈だ」
痩せ気味の方は冷静に周囲の景色に目を凝らしていた。その刹那、煌めく閃光と共にけたたましい爆音が周囲に木霊した。それに驚いた賞金稼ぎ達の馬はパニックに陥り、狂ったように暴れ始めた。
「ぐぉ⁉一体何だ⁉」
太った男はその衝撃で尻もちをつき、痩せた男も馬に釘付けになった。その隙にガブリエルは彼らの背後から森の外へ向かって逃げ出した。
「……頼む、逃げ切ってくれよ……!」
ガブリエルはサフィーの健闘を祈りながら、後ろも振り返らずに走り続けた。
「クソっ!落ち着けって!」
瘦せ気味の男が馬を宥めると、漸く彼らは落ち着いた。
「な、何だ⁉あの騎士の仕業か⁉」
「いいえ、私の仕業ですよ」
その一声に男二人は振り返ると、そこにはとても美しい獣がいた。サファイアのような鬣を靡かせ、金色の角を輝かせるユニコーンだ。
「ユ、ユニコーン⁉ほ、本物か⁉」
「その通り!私の名前はサフィーです、どうぞよろしく」
サフィーは賞金稼ぎ達に対して丁寧にお辞儀をした。その様を見て男二人は目を見合わせる。
「おい、俺の言いたいことは分かるよな」
「あぁ、もちろんだとも」
「「撃てぇ!!!!!」」
賞金稼ぎ達の銃が一斉に火を吹き、それに驚いた鳥たちが一斉に木々から飛び立った。しかしサフィーはひらりと身を躱し、銃弾はあらぬ方向に飛んでいった。
「おやおや怖い方達ですね。そんなに私をものにしたいのなら捕まえてごらんなさい!」
サフィーはかの不死鳥の真似をしながら賞金稼ぎ二人を煽り、彼らに背を向けて駆け出した。
(我ながら上手く真似れたんじゃないかしら?)
内心で自画自賛しながら、サフィーは森の木々を抜けて行く。
「逃がすか!」
賞金稼ぎ達は大慌てでそれぞれ馬に跨ると、サフィーの後を追いかけた。彼らは馬を全力で走らせつつ、サフィーの背後を捉えた。
「止まれ!」
太った男が銃を乱射するが、サフィーには掠りもしない。
「く、クソ!早すぎるぞアイツ!」
「諦めるな!アイツを捕まえれば一生遊んで暮らせるぞ!」
痩せ気味の男は狙いを定めて銃を放つ。しかしサフィーは弾丸の軌道を先読みして、悉く回避していく。
「まだだ!撃ちまくれ!」
「おうよ!撃ち続ければいつかは当たる!」
その後も賞金稼ぎ達は銃を撃ち続けた。しかしそのどれもがサフィーに命中することはなかった。
「クソっ!弾が切れちまった!」
「お、俺もだ……」
その一瞬の隙に、サフィーは賞金稼ぎ達からとグンと距離を離し、森の奥へと消えていった。
「クソっ!俺のユニコーンがぁ!」
太った男の嘆きが森全体に響き渡る。
「……ところでお前、帰り道分かるか?」
「あ……」
その言葉に、二人の顔は真っ青になった。結局、二人は次の朝まで森から出ることは叶わなかった。
ガブリエルは森の外でサフィーを待っていた。そして日も暮れかけた頃、サフィーが森の木々の合間からスッと現れた。
「お待たせしました~」
ついさっきまで命を狙われていたというのに、サフィーは何事もなかったかのようにガブリエルに微笑みかけた。
「……良かった……無事だったんだな……!」
ガブリエルはほっと胸をなでおろし、サフィーの傍に近寄る。
「当然ですよ!私は幻獣のユニコーンなんですよ!まぁ彼らを撒くのは結構大変でしたけどね……」
サフィーは得意げな顔に胸を張った。
「そうか、そうだよな……俺が心配し過ぎていたみたいだ」
「うふふ、でも貴方はそうやって私のことを心配してくれていたんですね」
「そりゃあ心配するさ。お前は俺の命の恩人なんだからな」
「えっ!あぁ、ありがとうございます……!」
それはありきたりの賛辞だったが、サフィーにとっては初めて投げかけられた言葉だった。彼女の頬が僅かに赤らみ、胸が熱くなった。
「えっと……私、私……」
「ん?どうしたんだい?」
ガブリエルは無垢な表情でサフィーの顔を覗き込んだ。
(ーー良いのかしら?彼を私の旅に誘っても……アリトンによれば、騎士は勇猛果敢で正義を成す存在だと聞いたけれど……)
サフィーはもじもじとして、足踏みが止まらなかった。その様を見て、ガブリエルは増々心配を募らせる。
(ーーでも……彼は心に深い傷を負ってるわ……そんな中で彼を過酷な旅に付き合わせるなんて……)
「サフィー?」
「……⁉」
ガブリエルの一声で、サフィーはハッと我に返った。
「……ごめんなさい。私、取り乱していたみたいで……」
「気にしなくていい。アンタ、何か悩み事があるみたいだな?俺に素直に話してくれないか?前にアンタが言ったみたいに、俺だって話を聞くことは出来る」
ガブリエルは無理して微笑みを作ってみせた。サフィーはごくりと息を飲み、意を決して叫んだ。
「あの……!世界は今、危機に瀕しているんです!霜の王が終わらない冬を広めているんです!あと、私の大切なペンダントも奪われちゃって……。だから私は霜の王から春とペンダントを取り戻すために北に向かって旅をしているんです!だけど、一人で霜の王を倒すのは不安なので……その……その……私と一緒に来てくれませんか⁉私と一緒に霜の王を倒す旅に付き合ってくれませんか⁉」
ーー辺りは静寂に包まれ、息切れしたサフィーの途切れた息遣いだけが響き渡る。そしてその静寂を破ったのはガブリエルだった。
「……事情は……何となく分かった。つまりその霜の王って奴のせいでこの冬が続いてるわけだな?」
「えっ⁉え、えぇ……」
「それをアンタは止めようとしていると……」
「えぇ」
「その旅に俺も着いて来てほしいと」
「えぇ……」
「……」
「……」
ガブリエルは顎に手を当てて考え込む。サフィーはこの反応はダメだと感じ、暗い顔で顔を下した。しかし、ガブリエルは口角を上げた。
「……分かった。その提案、乗ろう。どうせ俺にはもう何処にも帰る当てが無い……ならばこの剣、世界の為に使ってやろうじゃないか」
「⁉ほ、本当ですか⁉」
「あぁ、この言葉に嘘はない」
ガブリエルはキリっした顔つきで静かに頷く。
「あ……ありがとうございます!」
サフィーは目を潤わせて、辺りを何度も飛び跳ねて喜んだ。その喜びようにガブリエル本人までもが嬉しくなった。
「ははは、それなら早速北に向かおうか。かの邪知暴虐の霜の王を討つ為にな」
「えぇ!それでは参りますよ!」
サフィーは勢いよく駆けだしたが、すぐさまガブリエルに呼び止められた。
「あのサフィー嬢!大変厚かましい願いなんだが走るペースは俺に合わせてくれないか⁉人間の足ではユニコーンには到底追いつけないんだ!」
サフィーの遥か後方で、ガブリエルが口に手を添えてそう叫んでいた。
「あ……あはは……すみません……」
サフィーは平謝りしながら、彼の元まで歩を戻した。




