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春風はユニコーンと共に  作者: 龍川凡流
第3章 新たな出会い
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第3章 新たな出会い01

 雪が積もり、世界が白く染まり続ける中でも酒場だけは一定の賑わいを見せていた。とはいえ、今年の作物は唐突な降雪で全て台無し。道が凍り付いたせいでロバが転ぶので肉も魚も運ばれてこない。ここで暖かな食事は注文出来ず、精々冷め切ったおかゆを頬張るか、硬くまずい黒パンを齧る他なかった。それでも、ため込まれた酒はある。酔って顔を赤らめれば、多少は寒さを凌ぐことも無謀ではない。故に酒場で食事を頼む者は早々おらず、客からの注文は大体が酒だ。店主は日に日に減っていく酒樽の中身を思い浮かべつつも、彼らの要望に応える為に酒をジョッキに注ぎ、若い娘がそれをお客のテーブルへと運んでいた。


 人でごった返す酒場の中で、一際異彩を放っていたのはカウンター席に座っている二人組の騎士だ。両者共にガタイの良い男で、質の良いプレートアーマーを身に着けていた。その鎧には大小様々な傷が付けられており、二人がそれなりの死線を潜り抜けてきたことが察せられる。


「……っぱぁ~。ったくこの冬はいつ終わるんだ?俺達の手を真っ赤に悴ませやがって……」


黒髭の男がジョッキを勢いよくテーブルに下ろす。白い泡が僅かに溢れ、机を汚す様をカウンターの先に立つ店主が細目で見つめた。彼は非常に綺麗好きであり、店の些細な汚れも許すことが出来ない性分だった。その為、店を散らかす胡乱な客を箒でひっぱたいて追い出すことは日常茶飯事だった。だが目の間に立つのは屈強な騎士二人。中年の小太り気味の店主が強気に出れる相手ではなかった。彼はそっと目線を逸らし、憎き汚れを見なかったことにしてしまった。


「さぁ、それは神のみぞ知る……といったところでしょうかね?」


店主の心境など露知らず、若い方の騎士が冷え切ったビールを喉に流し込んでいた。


「神のみぞねぇ……。だが正直もう待ちきれんぞ……このままじゃ、みんな凍え死じまうぞ……」


年長の騎士は険しい表情でジョッキを下した。


「ま、まぁそうなる前に春がやって来ますって。ほら、最近はこの辺りでユニコーンも見られたらしいですし」


「ユニコーン?」


「えぇ、さっき百姓の旦那が言ってましたよ。雪の中を駆け抜けていく小さいユニコーンを見たって。そりゃあもう愛らしく、美しい姿だったそうですよ」


「う~む、そいつがホラを吹いてただけじゃないか?」


若い騎士の話に、年長の騎士は怪訝な表情を浮かべる。


「う~ん、でも彼が嘘ついているようにも見えなかったんですけどねぇ……」


「ふん、まぁ本当にユニコーンがいたっていうならドントル様が目を付けないわけがないな」


 ドントルとはこの地域の領主である。珍しい物好きで有名で、彼の館には各地から集めれられた珍品珍獣が大量に収められていた。


「いやそれがですね、ドントル様は既にユニコーン捕獲に向けて動いているようですよ。既に何人も狩人を雇って捜索させてるらしいです」


「やっぱりな、こういうことに限っては仕事が早いんだよあの人は……」


年長の騎士は呆れ気味にビールを喉に流し込んだ。若い騎士もそれに苦笑いしながら頷く。


「あはは……でもドントル様はユニコーンを捕まえてどうするつもりなんでしょうか?」


「さぁな。大方屋敷の庭で飼うんじゃないか?」


「幻獣が大人しくしていますかね……?ユニコーンって確か捕獲されると自害するって話ですし……」


「まぁそんな心配は杞憂なものさ。何せ流石のドントル様でもユニコーンは捕まえられっこないさ。この前だってゴブリンを捕えて僕にしようとして失敗してただろ?今回も同じような顛末になるさ」


「それもそうですね」


「……」


店主はジョッキを磨きながら騎士二人の話に耳を傾けていた。彼は二人が話題にあげていたユニコーンにも興味があったが、それよりも冬が終わらないという緊急事態にもかかわらず、ユニコーン捕獲に精を出している領主の姿に幻滅していた。


「でも、なんでユニコーンがこの辺りに現れたんでしょうね?ユニコーンって普通森の奥に住んでる筈ですけど……」


「さぁな、もしかしたら彼らの森も雪が降りしきったから、何処か安住の地を求めて飛び出したのかもな」


「春の化身たるユニコーンですら抗えない冬なんて……僕、何か心配になってきました……」


「まぁそう未来を憂いても仕方がないさ。俺達は俺達の出来ることをするだけだ。そうだろう?」


年長の騎士が若い騎士の肩を叩く。


「は、はい!僕、今まで以上に任務に励んでいきます!」


若い騎士はそう宣言し、元気づけと言わんばかりにジョッキの中のビールを飲みほした。若い者が張り切る姿を見て、店主も静かに微笑んでいた。


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