王宮のテラスにて
あれから数日が経過した。
私は王宮のテラスである人を待つ。
テーブルには紅茶も茶菓子も用意していない。
だって必要ないもの。
「はぁ〜⋯⋯⋯。女の誘いに平気で遅刻する男ってどう思うかしら?」
「さ、最低ですね!」
「よね。だからきっちり言ってあげないといけないわね」
私は企みの笑みを浮かべる。
「お嬢様⋯⋯⋯何をなさるおつもりで⋯⋯⋯?」
そうしていると私の背中にいつもの冷たい言葉が刺さる。
「また父親の言いなりか?」
「違いますよ。今回はあくまで自分の意思でお呼びしました」
「ほう。珍しいこともあるのだな」
そう言うとユリクス王子は私の向かいの席に来る。
テーブルに何も置いていないのを見て、ユリクス王子は不満げな顔をする。
「お茶すらも置いていないとは、どういう事だ? 呼び出しておいて、もてなしもしないとは失礼ではないか?」
「どうせ飲みもしないんですし良いでしょ? そもそも私、あなたをもてなす気なんて微塵もないですから」
いつもと様子の違う私に驚きつつも。
「⋯⋯⋯⋯まあいい」
そう言ってユリクス王子は椅子に座る。
「それで話とはなんだ?」
「この婚約についてです。単刀直入に言わせて頂きます。私もあなたと結婚するなんて死んでもごめんです。だって私、あなたのこと嫌いですから」
ユリクス王子は目を見開いて驚く。
「驚いたな。今まで交流を深めるのは大切などと口にしていたお前からそのような言葉を聞くことになるとはな。参考までに聞こう。俺のどこが気に入らなかった?」
どこか探るように、ユリクス王子は鋭い視線を私に向けてきた。
「誘いに平気で遅刻してくるところ。上から目線な態度。話し方。あとは根本的にタイプじゃありません。私は守ってあげたくなるような可愛らしい男性がタイプですから」
「耳の痛い話だな。それでなぜ今になってそんな事を言い出した?」
「どうせ婚約破棄されるのなら、私があなたを振る側でいたいと思いまして。振られるのは癪に障りますから」
未来がどう変わるのかは分からない。
だがこれだけは言える。
ユリクス王子は確実に主人公に恋をし、私との婚約破棄に動き出すと。
「言いたい放題だな。父親はいいのか?」
「お父様ならご心配要りませんよ。どんな手を使ってでも言うことを聞かせるつもりですから」
私がそう言うとユリクス王子は笑う。
「クハハハハッ⋯⋯⋯⋯⋯」
「私、何かおかしなことで言いましたか?」
「いいや。すごい変わりようだなと思ってな。どういう心境の変化だ?」
「⋯⋯⋯弱い自分にうんざりしただけですよ」
「そうか。まあ前までのお前よりは幾分かマシだな。今のお前となら少しくらい茶会に興じてやってもいいくらいだ」
「あら、それは嬉しい評価ですね。でも生憎
、私はあなたとの茶会なんて望んではいませんよ。1秒たりとも。だからこうして会うのは今日が最後です。出来れば学園入学まで顔も見たくありません」
「そうか。楽しかった⋯⋯⋯とは言えないな」
「ええ、ただただ苦痛でした。ですから清々します」
「その通りだ。⋯⋯⋯お互い学園で良い相手が見つかることを願っている。この婚約をなかったことにするためにもな」
「ええ、そうですね。だけど私はあなたの幸せなんて望みません」
「ハハッ、今のアセロナはそれくらい横柄な方が魅力的だ。せいぜい俺に泣きつかずに済むよう励むんだな」
「ええ、もちろんです」
私は確信していた。
ユリクス王子はこれくらいでは怒らない事を。
だって彼は主人公を救うヒーローなのだから。
善人でなければ成立しない。
まあ現実の彼は言えても偽善くらいかしら。
※
屋敷に戻った私は自分の部屋に戻り、窓の傍に置いている椅子に座ってくつろぐ。
外は既に暗く、月明かりが部屋の中を照らしている。
新しく移った4階の部屋は窓が大きく、外がよく見える。
やはり部屋を移動して正解だったわ。
そうしていると部屋のドアを誰かがノックし、開けた。
入ってきたのはルーナだ。
「お嬢様、紅茶をお持ちしま⋯⋯⋯⋯」
ルーナは月明かりをバックにくつろぐ私を見て固まる。まるで見とれているように。
「どうかした?」
「とても⋯⋯お美しい、です」
「あら、ありがとう」
どうやら私は昼間の太陽よりも夜の月明かりの方が合っているらしい。
素直に嬉しく思う。昼間の太陽は私には眩しすぎるし。主人公に譲るわ。
だって私は悪役令嬢―――アセロナ・ヴィルハートなんだから。




