父への復讐
「お嬢様! 着替えを用意しておきました!」
部屋に入ると、どこか怯えた様子のルーナがそう言って私の元に駆け寄ってきた。
「あら、気が利くじゃない」
私は魔法の特訓のせいで汚れた服を脱ぎ、用意された服に着替えた。
「紅茶を持って参りますね」
「ありがとう」
ルーナは逃げるように私の部屋から出て行った。
大方、私が兄様に負けるだろう、と踏んでルーナは窓から私たちの様子を伺っていたのだろう。そしたら私が兄様をボコりはじめたから怖くなったんじゃないだろうか。
窓からは兄様がメイドたちに肩を支えられながら屋敷に向かってくる様子が見える。
「フフッ」
面白くて自然と笑ってしまう。
そんなところにルーナが紅茶を注ぎにやってきた。実にタイミングが良い。
私はルーナの注いだ紅茶を一口飲む。
暖かい、そして気分がスッキリする。
「今日はとても良い日だわ」
「そ、そうですね⋯⋯⋯!」
ルーナは無理に笑顔を作ってそう言う。
わかりやすい子。扱いやすくて良いわ。
今日はもうやる事もないし、こうしてのんびり過ごそうかしら。
私はグッと伸びをする。
そうして数十分のんびりしていたところ、誰かが部屋のドアを開けた。
ノックを知らない礼儀知らずが多いわね⋯⋯⋯⋯。
そこには父の従者がいた。
「アセロナ様、旦那様がお呼びです」
ゆっくりしていたというのに、用があるなら呼び付けるんじゃなくて赴くのが筋じゃないかしら。
「こちらに来るよう伝えて」
「えっ⋯⋯⋯!? 本気ですか?」
「冗談で言うわけないでしょ。分かったなら早く呼んできて」
「は、はい。失礼致します」
そう言って父の従者は私の部屋を後にした。
「はわわわわ⋯⋯⋯! お嬢様! 旦那様がお怒りになったらどうするんですか!」
「うるさいわよ」
「ですがお嬢様⋯⋯⋯!」
「いい、ルーナ。怒るのってね体に毒なのよ。だからたまにはお父様を怒らせとかないと早死してくれないでしょ」
「お嬢様⋯⋯⋯なんて事を⋯⋯⋯」
顔を青くしてそう言うルーナ。
「冗談よ。怖がらせて悪かったわね」
そうして過ごしていると、廊下の方から慌ただしい足音が聞こえてきた。
そしてバンッ! と勢いよく部屋のドアが開いたと思えば顔を真っ赤にした父と傷だからけの兄様が入ってきた。
「一体どういうつもりだ!? 今日は朝からやりたい放題しよって! 終いには呼びつけにすら来ないとは! さすがに度が過ぎるぞ!」
「用があるのなら、そちらから出向いてくるのは当然のことだと思いますが」
「お前⋯⋯⋯!!」
そう言って手を強く握り、プルプルと震えるほどに怒る父。
「ハイゼンのこの傷を見てもまだそんな事を言うつもりか! これでは外にも歩かせられんだろ!」
私は兄様を睨む。
兄様は私から視線を逸らし下を向く。
少し反省したのだろうか。
「良い顔になったではありませんか。心の汚れたお兄様にはお似合いだと思いますよ」
「なんだと⋯⋯⋯。どこまで性根が腐り切っているんだ! お前をそんなふうに育てた覚えはないぞ!」
顔全体にシワが出るほどに怒りながらそう言う父。
「確かにその通りですね」
「そうだろう? なのになぜそんな態度を⋯⋯⋯⋯」
「だって私、お父様に育てられた覚えがないんですから」
そう言って私は父を睨みつけた。
父は口を開け閉めして言葉を詰まらせる。
「お父様は小さい頃から私を遠ざけていましたよね? 私は何度もお父様を呼んだというのに、あなたは無視をした。こうして育つのも無理はないと思いますけど。恨むなら私ではなく、大人げない自分を恨んでください」
「⋯⋯⋯ああ言えばこう言う⋯⋯⋯。役立たずの分際で口だけは達者になりよって。もういい! 今からでも遅くない。しっかりと躾てやる」
そう言うと父は手のひらに炎を浮かべた。
暴力で解決する気満々ね。
「<蔦掌>」
私は先手で蔦を勢い良く伸ばす。
その蔦は父の頬を掠め、後方に伸び、壁を傷つけながら周り父をミイラのように拘束した。
父はバランスを崩して前方に倒れる。
とても魔法なんて打てる体制ではない。
兄様の暴力癖は父からの遺伝だったのね。
ほんと、要らないところばかり受け継いで、兄様の方がよっぽど失敗作じゃない。
「⋯⋯⋯な、何をする!」
「申し訳ありません。攻撃の意志を感じたので反射で魔法が出てしまいました」
「父親に向かってしていいことか!」
「今更、父親ズラなんて図々しいですね。もう遅いんですよ何もかも。魔法が解けるまでの間、少しは自分の行いを悔いてみたらどうですか?」
私はざまぁみろと父に向けて笑みを浮かべてそう言った。
馬乗りで殴られなかっただけ感謝して欲しいところね。
「ルーナ、新しい部屋を用意してもらえる? もうこの部屋は使いたくないわ。4階の一番景色のいい部屋にして欲しいわね」
「す、すぐにご用意いたします!」
そう言ってルーナは逃げるように部屋を飛び出して行った。
もう父と話すこともないし、私も出て行こうかしら。
「馬鹿な真似を⋯⋯⋯! このような行為が許されると思うなよ! お前はこの家にとって道具でしかないんだ! 私に掛かればお前など簡単に捨てられるということを忘れるなよ!」
口の減らないクソジジイ。
私は蔦を操り、ぎゅっと締め上げる。
「痛たたたたたた!」
「お父様も自身の安全が私に握られているということをお忘れなく」
そんな私を不満げにじっと見つめてくる兄様。
私はギロリと冷たい視線を返す。
すると兄様は何も言わず視線を下にそらした。
先程の出来事が余程応えたらしい。
私は萎縮した兄様に言った。
「無様ね」
兄様はその言葉を聞いて心底悔しそうな表情を浮かべた。
すごくスッキリしたわ。




