兄への復讐
屋敷を出ると兄様は口を開く。
「構えろ。さっさと始めるぞ」
「はい⋯⋯⋯」
ここ2日で魔法も少しは形になった。
原作知識のある私にはアセロナの特徴もハイゼンの特徴もある程度なら覚えている。
全てを利用すれば勝てない試合では無いはずだ。
「<烈火弾>」
兄様はそう唱えるとバスケットボール程の大きさの炎の球を放ってきた。
私を殺すつもりなのかと思える攻撃だ。
<火の魔法>に対して<花の魔法>だけで対抗すればまず勝てない。
私は全力で走り、炎の球を避ける。
アセロナは兄様ほど魔法を上手く扱えないが、意外に運動神経はいい方なのだ。
体がすごく軽く感じる。
「<蔦掌>」
私はそう唱え、兄様に向けて蔦を放つ。
「<烈火弾>」
兄様は蔦を燃やそうと魔法を放つ。
それを見て私は直ぐに蔦を地面に落とし、炎を回避する。
蔦は土を削り、地下へと潜る。
「何だと⋯⋯⋯!?」
それを見て兄様は驚いた顔をする。
そして再び魔法を放つ準備をする兄様。
「無駄です」
魔法が放たれる前に私は地下深くに潜らせた蔦を一気に地上に上げ、兄様の足元から出現させた。
反応が遅れた兄様は蔦を燃やすことが出来ず、そのまま蔦に身体を拘束される。
「ほう。やるな⋯⋯⋯⋯。こっそり特訓でもしてたのか?」
「ええ、そろそろお兄様にも痛い目を見てほしいと思いまして」
そう言って私は兄様に巻き付く蔦に手を伸ばす。
「<薔薇棘>」
瞬間、蔦から小さな棘が生え薔薇が咲いた。
薔薇の棘が兄様を軽く刺し、痛みで兄様の顔が歪む。
それでも兄様には余裕があるように見える。
すると。
「 <烈火爆裂>」
そう唱えて兄様は自分自身を焼いた。
炎が落ち着くと蔦から開放された兄様が余裕そうな笑みを浮かべて現れる。
「チッ」
私は思わず舌打ちをする。
「応用的な魔法の使い方は評価してやろう。だがそれでは俺を倒すことなど出来んぞ」
<花の魔法>で<火の魔法>の使い手をそう簡単に完封できる訳ないでしょ。
不利属性何だし。
「それにしては少し焦っているようにも見えましたけど」
「フンッ、その舐めた態度もいつまで続くか見物だな。ここからは俺も少し本気を出させてもらう」
そう言って兄様は私に向けて手を伸ばす。
「烈火連砲」
兄様がそう唱えると無数の炎の球が私に向かって放たれてきた。
私は全力で走り、それを回避。回避しきれないものは<蔦掌>を盾にして防ぐ。
炎の勢いが強く、たちまち私の周囲は煙で包まれた。
それを見て兄様は魔法をやめたのか、徐々に煙は晴れていき視界が戻る。
そこにはニヤリと勝ちを確信したような笑みを浮かべる兄様の姿があった。私を確実に仕留めたとでも思っていたのだろう。
平然と立っている私を見て兄様はすぐに驚いた顔をする。
それが面白くて私はつい笑ってしまう。
「アハハハッ! お兄様、まさかこの程度で私を倒せると思っていたのですか? 考えが甘いのでは?」
「ほう。言うじゃないかアセロナ。あまり俺を舐めるなよ!」
兄様は顔を真っ赤にして怒りの籠った感情的な口調でそう言う。
煽られた事が相当効いているらしい。
無駄にプライドが高い人だし仕方ないわよね。
さてと⋯⋯⋯⋯。
私はゆっくりと兄様の方に歩みを寄せる。
「花の舞」
そう唱えると紅い薔薇の花びらが現れ、まるで花吹雪のように私の周囲を舞う。
その花弁の一つが兄様の頬を掠めたとき、そこから血が漏れ出てきた。花弁一つ一つがナイフのような切れ味を誇っているらしい。
「どうしましたか? お兄様。随分と驚いているようですが」
「アセロナ、その魔法をどこで覚えた⋯⋯⋯⋯!」
「さあ? 夢の中とでも言いましょうか」
これは<花の魔法>でもそこそこ上位の技だ。
不意打ちにはもってこいだと思い、この技の習得に全てを注いでやった。この瞬間の為だけに。
私を痛ぶりたいがために、兄様は私に初歩的な魔法しか教えなかった。さぞ驚きだろう。
私は徐々に兄様との距離を詰めていく、それに伴って兄様は私から距離を離す。
「どうして逃げるんですか? まさかこの程度の魔法にも勝てないとおっしゃるんじゃないでしょうね。有利属性のくせに」
「アセロナァァァ⋯⋯⋯!」
兄様は顔全体にシワが出来るほどに怒り、魔法を放つためか両手を私の方に向けた。
「烈火爆滅砲」
兄様の両手に炎が凝縮し、一気に膨張する。
それと同時に極太の炎の柱が放たれ、私の視界を炎で埋め尽くす。
これじゃあ兄様も私がやられたのか分からないわね。
私は企みの笑みを浮かべた。
炎が落ち着いても、周囲は濃い煙に覆われて先が見えない。さすがに兄様も疲れたようで少しぐったりしている様子だ。
だがその顔には勝ちを確信したような笑みが浮かんでいる。
実に滑稽だ。
兄様には学習能力というものはないのかしら。
私は煙が完全に晴れる前に地面を蹴って、兄様の方に一気に間合いを詰める。
兄様の視界に私が入った頃にはもう、ガードすら出来ない距離感だった。
「なっ!? ―――ガハッ!」
私の右拳が兄様の腹を抉る。
クリティカルヒットだったようで、兄様は息苦しいそうに、顔を青くしてその場に倒れ込む。
そんな兄様を私は蹴り飛ばし、仰向けにさせた。そして馬乗りになる。
「くそっ⋯⋯その動き⋯⋯⋯教えてもいない魔法で⋯⋯⋯! 俺を出し抜くためにわざと隠していたな!」
そう叫ぶ兄様の顔に拳を叩きつける。
「当たり前じゃないですかお兄様。これは今までの復讐なんですから。しっかり食らってくださいね」
そう言って私は次々に拳を兄様の顔を振り下ろす。兄様は抵抗するが私から逃れることは出来ない。
「ごめんなさい。運動神経は私の方が良いようですね」
「くっ⋯⋯⋯!」
そう言うと兄様は怒りの表情を浮かべる。
そして魔法を唱えるつもりか口を開けた。
「させませんよ。<蔦掌>」
蔦で兄様の口を完全に閉じる。
ついでに体も縛った。
これで詠唱はできない―――つまり兄様は魔法が使えない。
これで気が済むまで殴れる!
「アハハハハッ! アハハハハッ! なんていい気分なのかしら!」
私は日頃のストレスを全て拳に貯めて兄様にぶつける。
兄様は怒りでクシャクシャになった表情を私に向け、「んー! んー!」と閉じられた口から必死に声を上げる。
あまりの滑稽さに笑いが止まらない。
だが兄様のその表情は少しして消え去った。
兄様は顔を引き攣らせ、とてつもない恐怖を抱いている様子だ。私から逃げたいという気持ちが強いのか必死に抵抗を始める。
だが蔦で縛れている状態では逃げることなんて出来ない。
私は兄様に向けて言った。
「兄様も分かったようですね。痛みと恐怖が」
そして最後に全力の拳を兄様の顔にぶつけた。
私は立ち上がると兄様から離れる。
屋敷の方から誰かがこちらに向かってきているのが見えたからだ。メイドや⋯⋯父の姿も見える。兄様が変に強力魔法を使ったせいだ。さすがの騒ぎに見逃すことが出来なかったらしい。
まあ結構スッキリしたし、もういいわ。
兄様の顔はボコボコになっており、弱って立つことも出来ないようだ。
私は父やメイドが兄様に駆け寄るのを横目にこっそりと屋敷へ戻った。




