悪役令嬢だった
「そうだ。私、悪役令嬢だったわね」
ベットから体を起こし、ベットの横に置いてある姿見を見て、そう確信した。
何色にも染められないといわんばかりに黒いロングヘアーに、血のような紅い双眼。
寄りにもよってアセロナ・ヴィルハートに転生していたなんて⋯⋯⋯⋯。
誰からも愛されない不遇な断罪確定のお嬢様。
言葉にすると絶望する。
「神様はいないのかしら⋯⋯⋯⋯」
あれだけ前世で嫌なことに耐えてきたのに、今世はもっと嫌なことに耐えなきゃいけないの?
これまでアセロナとして過ごしてきた私の記憶を思い返すと吐き気がする。
こんな家族に認められるために頑張って、その結果断罪されたなんて⋯⋯⋯少し可哀想ね原作アセロナは⋯⋯⋯。
まあ主人公に対する嫌がらせは正当化できないけど。
今の私はこんな家族に思うところなんて何も無い。逆にやりやすいわ。
家族すらも求めなければユリクス王子に執着する必要も無い。そうすれば断罪される未来も消えるかもしれない。
そんな事を思っていたところ。
ノックもなしに誰かが部屋のドアを開けた。
「お嬢様! 起きてください!」
私の専属メイドであるルーナ・マゼンタ。
アセロナの弱さを知り、彼女を舐めことを選んだ失格メイドだ。
原作では性格の歪んだアセロナに後々分からされていたわね。
まあだからといってこのままにするつもりもないけど。だって腹立つもん。
「何だ起きてたんですか⋯⋯⋯⋯。珍しい事もあるんですね」
そう言ってルーナは部屋に入ってくると、カーテンを適当に開けながら。
「今日みたいに毎朝ちゃんと起きていてくださいよ。朝起こすのも一苦労なんですから」
口が減らない子。
慎みというものを知らないのかしら。
今までアセロナが優しかったからそれが通用したのよ。
何だかサッパリしたい気分ね。
「ちょっと、うるさいわよ。早く洗顔用の水とタオルを持ってきてくれないかしら」
私はギロリとルーナを睨みつけてそう言う。
ルーナはいつもと様子の違う私に気づき、目を見開いて驚く。
「え? 今私に言いましたか?」
「あなた以外誰がいるのよ? 早くしてちょうだい」
「えっ⋯⋯⋯か、かしこまりました⋯⋯⋯」
ルーナは戸惑いを隠せていない様子でそう言うと部屋を出て行った。
そして数分後、ルーナが水の入った桶とタオルを持って部屋に戻って来た。
「これでいいですか!」
そう言って私の前に桶を置く。
乱暴に桶を置いたせいで中の水が跳ねて私の足に掛かる。
冷たい⋯⋯⋯。
少なくとも顔を洗うのに使うような水の温度ではない。
私はギロリとルーナを睨んだ。
ルーナは何ですか? とでも言いたげな反抗的な表情を私に向けてくる。
私は桶を手に取る。
そしてルーナに向けて中の水を全てかけた。
全身びしょ濡れになったルーナは困惑の表情を浮かべる。
「お嬢様⋯⋯⋯⋯? 一体何を!」
「ルーナ、私は顔を洗うと言ったのよ。なのにこんな冷たい水を良く平気な顔して持って来れたわね。あなたは水の温度もまともに測れないのかしら?」
「っ⋯⋯⋯⋯⋯」
ルーナは不機嫌な顔をして黙り込む。
「何か言うことはない?」
「⋯⋯⋯申し訳ありません」
吐き捨てるようにそう言うルーナの表情には反省の色などなく、未だに反抗的な視線を私に向けてきている。
「よくそんな目を向けられるわね。あなた私の事を舐めすぎよ。いくらこの家で除け者にされているからと言って、メイド一人追い出せないほど弱くはないわ。あなたはそれで良いの? 不始末で追い出されたメイドなんてどこも雇ってくれないと思うけど」
「そ、それは⋯⋯⋯⋯」
ルーナの表情が歪む。
「だけどそれも私が穏便にあなたをクビにした場合の話よ。もう少し態度を改めたらどうかしら? 生きていけなくなる前にね」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
ルーナは顔を青くする。
そして理解したようだ。もう私を見下すことは出来ないと。
「分かったなら、さっさと新しい水を持ってきなさい」
すると。
「⋯⋯⋯も、申し訳ありませんでした。今すぐご用意致します」
そう言ってルーナは頭を下げた。
そうして水を取りに部屋を出て数分後。
ルーナはノックをしてから私の部屋に入ってきた。
そしてぬるま湯の入った桶を私の前に丁寧に置くと、私の横で姿勢良く立つ。
随分と反省したようね。
私は桶に手を入れる。
「暖かいわ。ありがとう」
そう言って私はぬるま湯で顔を洗う。
気持ちいい⋯⋯⋯。
眠気が消えてスッキリする。
濡れた顔をタオルで拭き取り、それをルーナに渡した。
「さてと⋯⋯⋯⋯」
私はベットから降り、部屋を出ようとドアに向かう。
「お嬢様、どこに行かれるのですか?」
慌てた様子で私に駆け寄ってくるルーナ。
「朝食を食べに行くのよ」
「朝食でしたら私がすぐに⋯⋯⋯⋯」
「あんな残飯要らないわよ」
私は部屋のドアを開ける。
「お、お待ちください⋯⋯⋯!」
私はルーナの静止を振り切り、部屋を出る。
そして私はダイニングルームへと向かうのだった。




