対話という名の駆け引き
部屋に戻った私は彼女が来るまでに準備をする。
「ルーナ、もう少しでこの部屋に客人が来るの。その人とは2人きりで話したいから今日はもう上がっていいわよ」
「2人きり―――!? それってまさか⋯⋯⋯!」
何か別のことを期待しているのか瞳をキラキラさせるルーナ。
「あなたの考えていることとは正反対よ」
「えぇ〜⋯⋯そんなこと言って本当は?」
「あまり時間が無いの。早く出て行ってくれる?」
「あっ⋯⋯⋯す、すみません。調子に乗りました⋯⋯⋯」
では、また話を聞かせてください、と言ってルーナは部屋を出ていった。
今からすることは誰にも聞かせられる話ではないのだけれども。
私はポットに水を入れ、湯を沸かし、紅茶を淹れる。
そしてちょっとした『魔法』を―――。
少し刺激しただけで噛み付いてくるような犬と律儀に話なんてするつもりはない。
そもそもこの部屋に呼んだ時点で私の勝ちなのよ。
それから少し待っていると、誰かが部屋を乱暴にノックしてきた。
私は玄関へと向かいドアを開ける。
「よぉアセロナ嬢。来てやったぜ」
「あら、ちゃん来たのね。良いわよ入って」
私はミーネルを部屋に入れる。
そしてテーブルへと誘導し、席に座る。
ミーネルも対面に座った。
私はすぐに紅茶をコップに注ぐ。その様子を怪しむように見つめるミーネル。
彼女は私が<花の魔法>を使うことを知っている。相当警戒しているのでしょうね。
「なぁアセロナ嬢、あたしをここに招いた理由を聞いてもいいか?」
「その前にあなた達の目的を教えてくれないかしら?」
「教える訳ねぇよ」
「⋯⋯⋯⋯まっ、そうでしょうね。でもそれを言わない限りあなたを返すつもりはないわ。だってそれが私の目的だもの」
「随分なこったな。1体1ならあたしを丸め込めるとか思ってのかも知んねぇが、大間違いだぜ。あたしは折れるつもりなんてねぇからよ、とっとと諦めんだな」
「自信満々なのね。飼い主の影響かしら?」
私がそう言うとミーネルは視線に圧を籠らせて私を凝視してくる。
「さっきから気になってたがよぉ。⋯⋯⋯知ってんのかよ」
「さあ。どうかしら」
するとミーネルは私の胸ぐらを掴み。
「答えろ!!」
「その前にあなたが答えて」
「チッ⋯⋯⋯⋯」
舌打ちをし、ミーネルは私の胸ぐらから乱暴に手を離す。
「一度落ち着きなさい。紅茶でも飲んで」
私はそう良い紅茶の入ったカップを取り、口に運ぶ。
ミーネルは何かを警戒しているのかコップを凝視したまま飲もうとしない。
「飲まないの?」
「⋯⋯⋯要らねぇ。喉乾いてねぇからな」
「そう、残念だわ⋯⋯⋯。せっかくあなたの為に良い茶葉を使ったのに」
私は彼女を甘く見るような態度でそう言う。
「チッ、いちいち腹立つ顔してくんなよ」
「ごめんなさいね。癖なもので」
ミーネルは気に食わないと言った表情を浮かべる。まだ感情には飲まれてないわね。でも冷静さをかいてきている。
私はさらに彼女を煽ることにする。
「私の噂、広めたのはあなた達?」
「言わねぇ」
「そう、まあ私はあなた達も関わっていると確信しているのだけれど」
「そうか。で、何が言いてぇんだよ?」
「エルナさん相手より随分陰湿ね。どうして私には初授業以来、直接何もしてこなかったのかしら?」
「そりゃあたし達が噂の犯人じゃねぇからだろ。で、初授業の時はたまたま魔法が飛んだだけだぜ」
「そう。私はてっきり、直接だと私に言い負かされちゃうから逃げてるのかと思ったわ」
「ッ⋯⋯⋯⋯! んなわけねぇだろ! お高く止まってんじゃねぇぞ!」
私が言ったことが全てデタラメならこんな所でミーネルは怒ったりはしない。
でも彼女は感情的になった。
つまりは図星ってことだわ。おそらくシャーロットにでも言われたのね。あなたじゃアセロナには勝てない的な事を。
「動揺し過ぎじゃないかしら? もしかして図星?」
ミーネルは舌打ちをして。
「違ぇ」
「だから部屋に入った時からあなた、私への警戒心剥き出しだったのね」
ミーネルは拳を握り何とか冷静さを保ちながら。
「⋯⋯違ぇよ⋯⋯」
「つまりは私にビビってたってことでしょ」
するとミーネルは握り締めた拳をテーブルに叩きつけて。
「違ぇつってんだろ!」
ミーネルはもはや冷静ではない。
感情に飲まれ、反抗的になっている。
「じゃあどうしてそんなに怒っているのかしら? 全部ほんとの事だからでしょ」
私はそう言った後、徐ろに紅茶の入ったカップを手に取って一口飲んで見せた。
それを見てミーネルは対抗心を燃やしたかのように、顔に皺を寄せ、乱暴にカップを手に取る。
「良いぜ。だったら証明してやるよ。あたしがあんたにビビってなんかいねぇことをな」
そして一気に飲み干した。
「フフフッ、凄い勢いね」
「ああ、あんたと言い合ってたら喉乾いちまったからな」
すると突然ミーネルは私にも聞こえないような声で何かを唱えた。
その直後、ミーネルの体から凄まじい熱気が放たれる。
「安心しな。ただあたしの体内で<火の魔法>を使っただけだからよ」
「どうしてそんな事をするのか疑問ね」
「あんたがこの紅茶に<花の魔法>を使って毒を入れたのは知ってんだ。あんたの目的から察すりゃ入れたのは<毒花の雫・眠>ってとこだろ? でも残念だったなぁ。あたしはあんたの魔法の弱点属性である<火の魔法>を使えんだ。こうして体内で使えば毒は無力化される!」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
「あぁ? 悔しくて声も出せねぇか? あんたはあたしを煽って紅茶を飲ませ、あたしに毒を入れるつもりだったみたいだけど、あたしもそこまで馬鹿じゃねぇ。あんたの策略に乗った上で⋯⋯⋯逆に⋯⋯⋯⋯」
言葉の途中でミーネルは突然激しい眠気にでも襲われたかのように頭をクラクラさせる。
「はぁ〜⋯⋯よく喋る犬ね。紅茶に毒が入ってるのを知りながら飲んだ時点であなたはもう冷静さを失っているのよ」
「⋯⋯⋯チキショウ⋯⋯⋯何で無力化、されねぇんだ⋯⋯⋯⋯」
「ここまで分かりやすい誘導をしてたのだから、あなたはもっと裏を読むべきだったわね。ここ数日間の授業で私はあなたよりも魔法の実力は格段に上だって気づいていたの。いくらあなたの魔法が弱点属性だからって無条件で私に勝てる訳じゃない。魔法の実力が上ならその穴も埋められるわ。冷静さをかいて紅茶を飲んだ時点であなたの負けなのよ」
魔法で作り出した毒なら消せば証拠は残らない。飲み物だし、外傷もないのだから尚更。
「⋯⋯⋯クソ、が⋯⋯⋯だとしても、ほんとに、一服盛る話が、あっかよ⋯⋯⋯汚ぇぞ⋯⋯⋯」
「ええ、そうね。でも私はこういう時、真っ向から勝負する方が馬鹿だと思うの。あなたみたいな人は嫌いじゃないわ。簡単に罠にハマってくれるから」
ミーネルの意識は限界に近いのか、か細い声で。
「⋯⋯⋯覚え、てろよ⋯⋯⋯」
そう言いミーネルは毒に犯され催眠状態になった。
「覚えてろ、ね⋯⋯⋯。果たしてあなたに次なんてあるのかしら⋯⋯⋯」




