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【連載版】悪役令嬢だと気づいた私は悪に染まりきる  作者: シュミ


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18/22

妨害

 あれから3日が経過した。

 クラスメイト同士で友達ができ、休み時間に賑わいが見え始める頃だ。

 初授業以来、ミーネルからの直接的な嫌がらせはない。強いて言うなら誰かさんに変な噂を流された程度。

 確実にシャーロット含める『アセロナ反対派』の連中ね。

 本当に幼稚なことをするわ。


 まあそのせいで友達が出来ないっていう実害が出ているのだけれども⋯⋯⋯⋯。

 恐らくシャーロットは私を孤立させて公爵家の令嬢としての格を落とすつもりなのでしょうね。前世の私のままだったら夜も眠れないほどに悩んだことでしょう。でも今となっては無理に人と関わるより1人の方が楽だと感じているわ。父や兄様、ユリクス王子のせいね。


 シャーロットたちに広めている噂というのは例えば、父に反抗し魔法や暴力まで振るったとか。メイドへの当たりも強く、私のせいでやめていったものが後を絶たなかったとか。父や兄の助言は聞かず、ヴィルハート家の規律を乱す礼儀知らずな人だとか。終いにはそんな性格が祟り婚約者との仲も実は良くない、とか言いたい放題なのである。

 腹立つのはその全てが完全に嘘とは言いきれないこと。偶然にしては出来すぎている。確実に家での私を知っている人物がこの噂を流しているわね。


 まっ、そんな人1人しかいないのだけれど⋯⋯⋯。


 こんな展開、ゲーム本編では存在しなかった。

 存在しないものは存在しないものからしか生まれない。

 となれば自ずと誰がこの噂を流したのか見えてくる。生徒会入りを果たし、副会長にまで上り詰めた人物。

 この噂の源は確実に兄様でしょうね⋯⋯⋯⋯。

 妹の話ついでに悪評ばかりを口にした、といったところかしら。


 どんな手を使っても私に勝ちたい兄様と私の格を落としたいシャーロット。

 利害が一致している⋯⋯⋯⋯。

 考え過ぎかしら?


「おはようエルナ」


「⋯⋯⋯あっ、お、おはようございますユリクス殿下⋯⋯⋯」


「どうしたのだ? 浮かない顔をして⋯⋯⋯」


「っ⋯⋯⋯た、大したことではありませんのでご心配いただなくて大丈夫です」


 絶賛新たな婚約者募集中のユリクス王子はどうもエルナに興味があるらしい。

 ゲーム本編と展開が同じ。やはりそこは揺らがないのね。

 次期聖女という代わりの務まらない特別な役職。王家の人間と婚約するには相応しいとも言える。


 階級社会というのは面倒ね。相手の身分によっては結婚なんて夢の話になるんだから。


 その点、エルナはユリクス王子と釣り合いが取れないこともない。だけど悪いわね。私はこのまま2人を放っておく訳にはいかないの。だってシナリオ通りに事が進んでしまうと本当に2人は結ばれてしまうから。


 皮肉なものね。

 原作アセロナとは志が違うのに、結局のところ2人の仲を妨害することには変わりない。


 でもさすがに手段は変えさせてもらうわ。ユリクス王子に断罪されるなんて溜まったものじゃないし。


 今のところ2人の仲はシナリオ通り。となれば次起こる展開は予想が着く。

 それを利用し、エルナを私の元に引き込む。

 そうすればユリクス王子は彼女に手出しできない。というか私がさせない。


『アセロナ反対派』というのは名ばかりで、ただユリクス王子に近づく人間を遠退ける集団だ。すでにエルナも密かに噂を立てられ、圧をあけられている状態にあるだろう。

 その時は近い。


 今できることは、ただ時が過ぎるのを待つのみね。



 ※



 そして時は過ぎていき、次の日の朝となった。


 教室には少しずつクラスメイトが集まってきている。当然、エルナもいる。

 だがユリクス王子の姿はまだない。


 そのタイミングを見計らってエルナに仕掛けに来る3人の影。

 ミーネルとその一味だ。


「おい、あんた」


「⋯⋯⋯は、はい」


 ミーネルが友好的でないことに気づいたエルナは緊張で息を飲む。


「あんた、おこぼれの爵位を持ったらエセ貴族のくせしてユリクス殿下に近づきすぎなんだよ。でしゃばりすぎなの理解してねぇのか? ⋯⋯⋯それとも調子乗ってんのか?」


「いえ⋯⋯調子になんて乗ってません⋯⋯⋯」


 するとミーネルの一味の1人がエルナの髪を触って。


「今どきおさげなんて、平民臭さぁ。よくこんな髪型で過ごせるね」


「ほんと、ユリクス殿下の品が下がってしまうから一緒に居ないでもらえる?」


 ミーネルの一味たちはそう言いエルナに圧をかけていく。

 エルナは萎縮し、恐怖で震えるのみ。


 だからこそミーネルたちはエルナに対してだけ直接的な嫌がらせをする。

 シャーロットが考えそうな事ね。


「次期聖女ってだけで貴族の仲間入りができたと思ったか? 残念だけどそんなに甘くはねぇんだよ。背伸びしただけの平民風情は大人しくしてろよな」


 エルナに瞳に強い眼光を当ててそう言うミーネル。


「⋯⋯⋯すみません⋯⋯⋯」


 エルナは暗い顔を浮かべ、弱々しい声でそう言う。


「えぇ? 聞こえねぇよ!!」


 ミーネルは声の大きさを1段上げてそう言う。

 その声に驚いたエルナはビクリと体を揺らす。


 そろそろ限界かしら。


 私は席を立ち、エルナたちの元へと向かう。


 その行動に驚いたのかミーネルは瞳を大きく開き、私をガン見してくる。


「⋯⋯⋯何か用かよ、アセロナ嬢」


「朝から騒がしいわよ。見てられないわ」


 私はそう言いエルナの背後に立つ。

 何をされるのかとエルナは怯え、私の方に振り向く。


「エルナさん、少し髪を触るわよ」


「えっ⋯⋯⋯?」


 私はエルナのおさげを解く。


「あなた、エルナさんの髪型が気に食わないんでしょ? なら暴言を吐くんじゃなくて直してあげたらどうかしら?」


 私はおさげよりマシな簡単な髪の結びをエルナにする。


 ミーネルは気に食わないといった顔をし、口を開く。


「何のつもりだよ。⋯⋯⋯もしかしてよぉ、あれか? 噂を拭いたくてそこの平民に媚び売ってんのかよ。公爵家の令嬢のくせに必死すぎんじゃねぇの?」


「はぁ〜⋯⋯幼稚なことを言うのね。あんな噂程度に振り回されるほど私は子供じゃないの。⋯⋯⋯それとあなた達、ユリクス様にお近づきになりたいんでしょ? それならもう少し大人になるべきじゃないかしら。こんなことをしていても相手にされないわよ」


 私はミーネルたちを見下すような笑みを浮かべる。


「あぁ? 何だとてめぇ!! 婚約者だからって何様のつもりだ!!」


「ちょっと! やめなさいよミーネル!」

「あんな挑発に乗っちゃいけないでしょ!」


 顔を真っ赤にして怒るミーネルを一味は何とか押さえつける。


 ミーネルの弱点は短気なところ。煽り耐性が全くと言っていいほどない。

 だからシャーロットは私への当て馬に彼女を選ばないし、行動を起こす際は必ず一味を付き添わせている。思ったより早く片付きそうで助かるわ。


「あたしはあんたがユリクス殿下の婚約者だなんて認めねぇ。もっと()()()()()がなるべきだ」


「相応しい人って誰のことかしら?」


「⋯⋯⋯さぁな。どこかの誰かさんだよ」


 さすがにシャーロットの名前は口に出さないのね。


 そうしてエルナは私たちの元を去っていった。


「大丈夫?」


「は、はい⋯⋯⋯。助かりました⋯⋯⋯」


「あんなしょうもない連中に負けちゃダメよ。もっと堂々としなさい。⋯⋯⋯なんて言っても難しいわよね」


「⋯⋯⋯そ、それは⋯⋯⋯その通り、ですね⋯⋯⋯」


 エルナは落ち込んだ表情を浮かべてそう言う。


「落ち込まなくていいのよ。仕方ないことだもの」


 私だって前世では全く出来なかったことだし。言い返せる人の方が少ないもの。


「多分、こんなんじゃあいつらは懲りないと思うから、私がどうにかするわ。あなたの身も守ってあげる」


「い、いえ! そんな、悪いです」


「気にしないで。私も変な噂を流されて苛立っていたところだから」


 エルナもその噂を聞いたことがあるのか、納得した表情を浮かべる。


「⋯⋯⋯⋯すみません⋯⋯⋯⋯。でしたらお願いしてもいいですか?」


 申し訳なさの混じった口調で彼女はそう言った。

 私は首を縦に振る。


「じゃあ今日1日、隣で授業を受けてもいいかしら?」


「は、はい! もちろんです!」


 少し緊張した様子でそう言うエルナ。


「ありがとう。じゃあ失礼するわね」


 私はそう言って彼女の隣に座る。


「髪型⋯⋯⋯。おさげだとまたバカにされてしまうから後で簡単なの教えてあげるわ」


「そんな事まですみません⋯⋯⋯⋯」


 そう言いエルナは頭を下げる。

 そして溜め込んできた悩みを吐き出すかのように。


「⋯⋯⋯やっぱりミーネル嬢の言う通りですね。私は貴族なんて名ばかりの平民で、髪型も作法も全く知らなくて⋯⋯⋯⋯。それなのにユリクス殿下は気にかけてくれて⋯⋯⋯⋯。アセロナ嬢の婚約者だし、私みたいな身分の人間が関わっていい方じゃないってわかっているのについ甘えてしまっていて⋯⋯⋯申し訳ないです⋯⋯⋯⋯」


 性格の悪い貴族に囲われた学園生活は彼女にとって息が詰まるようなものだっただろう。こうして気分が下がるのも理解できる。

 まっ、私だって善意で彼女に近づいているわけではないんだし言えたものではないけれど。


「教えてもらってもいないことを出来ないなんて当たり前のことよ。これから覚えていけばいいのだから、気にすることないわ。⋯⋯⋯それとユリクス様なんて大したことないわよ。釣り合うとか気にするだけ無駄ね。私はあまり話したいとも思わないわ。面白くないもの」


「面白くないって⋯⋯⋯⋯」


「―――それは俺に言ってるのか? アセロナ」


 怒りを隠すような笑みを浮かべてそう言うユリクス王子。

 ほんとタイミングの悪いところで教室に入ってくるわね。


「ええ、その通りですよ」


「⋯⋯⋯⋯正直で何よりだ」


 そう言いながらも内心少しムカついているユリクス王子。

 そんな彼は視線をエルナに移す。


「おはようエルナ」


「えっと⋯⋯⋯おはようございますユリクス殿下⋯⋯⋯」


 エルナは気まずそうにそう言った後、チラリとミーネルたちの方を見る。

 彼女たちは威圧感の籠った視線をエルナに向けている。それを見てエルナの表情は恐怖で染まった。


 その表情を見てユリクス王子は怪訝な顔をする。


「それにしても珍しい組み合わせだな。どういう風の吹き回しだ?」


「ちょっとした接点がありまして。少し仲良くなったんです」


「ほう⋯⋯⋯⋯」


 ユリクス王子は私の真意を読み取るような視線を向けてくる。だが彼に私の真意などわかる訳もなく。


「⋯⋯⋯まあ良い。それじゃあ俺は今日はアセロナの隣にでも座ろうとしよう」


 無駄に大きな声でユリクス王子はそう言い断れない雰囲気を作ってくる。

 探りを入れてくるつもりね。

 こんな時まで自分のことしか考えていないなんて、ほんと自己中な王子様。


「あら、悪いけどお断りさせて頂きます」


「はっ?」

「えっ!?」


 私の返答を予測していなかったであろうユリクス王子とエルナは驚く。


「せっかくエルナさんと接点が出来たんですから、友人になるためにも親睦を深めたいんです。ですから今日はエルナさんと2人で授業を受けたいんですよ。ユリクス様なら理解していただけますよね? それとも私に友人ができるのは不服ですか?」


 ユリクス王子は表情を変えない。だがその瞳からは勝負に負けた時のような悔しさが滲み出ている。


「なるほど⋯⋯⋯⋯それは失礼したな。今日のところは別で授業を受けるとしよう」


 そしてユリクス王子はエルナの方を見て。


「アセロナは少し素直じゃない部分はあるが、優しいやつではある。仲良くしてやってくれ」


 嘘も方便ね。

 他人を上げて自分の評価も上げようとしている。


「は、はい! もちろんです!」


 それだけ言ってユリクス王子は私たちから離れ、別の席に着く。すかさずそこへ別の生徒が彼に近づき話しかける。


 これでいい。

 こうやってエルナからユリクス王子を遠ざける。シナリオ通りに関係を進めはさせないわ。



 ※



 授業が終わり放課後となった。

 私はエルナと共に寮へと戻る。朝の出来事からミーネルは一度もちょっかいを掛けてこなかった。ユリクス王子の近くだし当たり前ではあるのだけれど。


 やり方が陰湿というか、慎重というか、ミーネルらしさのない、黒幕の性格が伺えるようで嫌ね。


「今日は1日ありがとうございました」


 別れ際、エルナがそんな事を言った。


「気にしないで、また何かされたらいつでも相談してちょうだい」


「はい! なんだがアセロナ嬢って心強いですね。噂に聞いていたような人じゃなくて安心しました⋯⋯⋯」


 するとエルナは顔をハッとさせる。


「あ、すみません! 噂のこと⋯⋯⋯⋯」


「良いのよ。所詮噂だもの。私は気にしてないわ」


「アセロナ嬢はお強いんですね」


「こんなの強さじゃないわよ。⋯⋯⋯慣れというべきかしら」


「慣れ⋯⋯⋯?」


 エルナは首を傾げてそう言う。


「それじゃあね」


「は、はい! お疲れ様でした! また明日学園で」


 私たちは別れ、各々自分の部屋へと戻った。


「お疲れ様ですアセロナ様」


 部屋に入るとルーナが迎えてきた。


「何か飲みますか?」


「そうね。適当に入れてちょうだい」


「かしこまりました」


 そうして私はルーナに入れてもらったお茶を飲みながら時間を潰した。


 気づけば日は沈み、外は暗くなっていた。

 お腹も空いたし、そろそろ夕食にしようかしら。


 この寮には食堂が着いている。

 朝食と夕食は寮内の食堂で済ませるのだ。


「食堂に行ってくるわ」


「はい。分かりました」


 そんなタイミングで、部屋のドアを誰かがコンコンと叩いてきた。


「私出ますね」


「良いわ。私が出る」


 誰が来たかなんて大体予想が着く。

 私は玄関へと向かいドアを開けた。


「こんばんは、アセロナ嬢」


「何か用かしら?」


「ええ。夕食、ご一緒にどうでしょうか?」


 どんな感情を抱いているのか一切読めない穏やかな笑みを浮かべ私を見つめてくるシャーロットの姿がそこにはあった。


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