初授業
クラス発表。
それは学園生活において楽しみの1つとなるイベントだろう。だがゲーム本編を知っている私からしたら、それも楽しみの1つではなくなってしまう。だってクラス発表なんて見るまでもなく、自分がどのクラスなのか分かってしまうから。
1年B組。
そこが私はクラスだ。
「わたくしはA組ですわ。アセロナ嬢と同じクラスになれず残念です⋯⋯⋯⋯」
シャーロットは残念そうな表情を浮かべてそう言う。
嘘が上手ね⋯⋯⋯⋯。
シャーロットと別れ、私はB組の教室に入る。するとクラスメイトたちが私を興味ありげに見てくる。中には恨みでもあるのか、と思うくらいに睨んでくるやつもいる。
私はそんな視線を無視して、席に座る。
少しして入ってきたのはエルナだ。
茶髪のおさげに可愛らしい大きな瞳。
歩く姿からはどこか自信のなさを感じる。
きっとクラスメイトの視線が一気に彼女の方に向いたからだろう。
「あの子、同じクラスなんだ」
「へぇー次期聖女なんでしょ。興味ある〜」
「でも平民出身なんだよね?」
「次期聖女を産んだってことで親が男爵位を受けたそうよ。平民じゃ示しがつかないからって」
クラスメイトから向けられる視線と噂話に驚いたエルナは怯え、あたふたし始める。
「君、大丈夫か?」
そんなエルナに優しく声を掛けた人物がいた。
金髪に金の双眼。
視界に入るだけで腹が立ってくる人物。
そう―――ユリクス・バルハルト王子だ。
エルナは元々は平民。
王子なんて見ることも話すことも叶わない雲の上の存在だ。そんな彼がいきなり話しかけてきたら⋯⋯⋯⋯。
「で、でででで殿下!? は、はい!? だ、大丈夫、でしゅ⋯⋯⋯⋯!?」
緊張してカミカミになるわよね⋯⋯⋯⋯。
「そ、そうか。⋯⋯⋯って君、もしや次期聖女の⋯⋯⋯」
「は、はい⋯⋯⋯!? エルナ・ミセェルと申します⋯⋯⋯!?」
エルナは必死に舌を回しそう言う。
「クハハハハッ、そんなに緊張するでない。学園では皆平等、他人の身分など気にするな」
ユリクス王子の言う通り、学園では一応身分の差はないとされている。だからといって身分の低いものが高いものにズカズカと礼儀なく接するなんて許される行為ではない。貴族だもの、プライドで生きてるんだからしかないわよね。
暗黙の了解というやつよ。
「す、すみません⋯⋯⋯。ありがとうございます⋯⋯⋯」
そう言ってエルナは強ばった笑みを浮かべて礼をした。
「さっ、早く席に着くんだ。先生が来る」
「はい。⋯⋯⋯では失礼します⋯⋯⋯」
そう言いエルナはユリクス王子の元を離れ、適当な席に座る。
ユリクス王子もどこに座ろうか、と席を見渡す。ゲームならアセロナが彼を呼んでいたかしら。
私は呼ばないけども⋯⋯⋯。
すると私と彼は不意に目が合った。
彼は迷いなく私の方に来る。
なんでそうなるのよ⋯⋯⋯⋯。
「まさかお前と同じクラスになるとは思わなかった」
ユリクス王子は作り笑顔をしてそう言った。
きっと周りに不仲を悟られたくないのね。
「そうですね。最悪な気分です」
私は冷たくそう返す。
ユリクス王子は表情を崩さず言う。
「隣座っても良いか?」
「嫌です」
するとユリクス王子は私の耳元に口を近づけて言う。
「あまり険悪な雰囲気を出すと変な噂が断ちかねない。しばらくは婚約者の振りくらいはした方がいいのではないか?」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
カス王子の言う通りであるのが腹立つところね。面倒なことに貴族は周りの評価ばかりを気にする。婚約者となってしまった以上、最低限の仲を見せておかないと変な噂が立ち、後々の学園生活に響く。彼と利害が一致しているからこそのデメリットね。
ユリクス王子は私の隣に座る。
クラスメイトはそんな私たちに注目し、勝手に盛り上がる。
その状況を利用し、ユリクス王子は私の方に体を寄せ、私にしか聞こえないほどの声量で言う。
「婚約破棄についてだが、どちらかが相手を見つけたらで良いか?」
「ええ、良いですよ」
相手さえ見つければ婚約破棄によるイメージダウンは関係なくなる。タイミングとしては完璧ね。
「即答か。賭けに出たものだな。言っておくが俺は婚約破棄の為なら容赦などせんぞ。ヴィルハート家の命運を俺が握っていることを忘れてはいないだろうな?」
「忘れてないていませんよ。そもそもあの時、あなたを呼んだのはヴィルハート家をいつでも潰せるようにするためですし。それにこんなのは賭けのうちにも入りません。だってあなたに別の相手が見つかるとは思えませんから」
私たちは決まり事を守るほどできた人間では無い。父の悪事を黙っているのは全部自分たちのため。だから自分たちに得が無くなれば黙っておく必要などないのだ。それに私たちの目が無くなれば父は必ずたま行動を起こす。どちらにせよ、ヴィルハート家は危機を迎えることになる。
「相手が見つからないか⋯⋯⋯。なぜそんな考えに至るのか些か疑問だな。俺はこう見えてもこの国の王子だ。物珍しさに近づいてくる者もいるだろう。どう考えても俺が有利だ」
「あなたがそんな人を選ぶとは思えませんが⋯⋯⋯、そこに『運命の相手』がいることを願っています。くれぐれも女遊びの激しい王子様にならないようにしてください」
「俺もお前がヴィルハート家と共に沈まないことを祈っている」
そうしていると教室に先生が入ってきた。
ふらりとした長い髪に優しい瞳。歩き姿と笑みを浮かべる表情から、ゆるりとした穏やかな雰囲気を感じる。
「初めましてみんな〜! このクラスの担任をするフレア・ミーネです。よろしくね〜!」
クズばかりいるこの世界でこんなにもゆるふわな先生がどうしたら生まれるのか疑問ね。
「今日は午前中に色々説明をして、午後からさっそく魔法の授業を始めていくよ!」
※
そうして午後となり、魔法の授業が始まった。
初回の授業ということもあり、内容はシンプル。各々訓練場に設置されている的に向けて魔法を放つのみ。
フレア先生がそれを見て周り、指導をしていくといった感じだ。
私の隣にはエルナ、少し離れたところにユリクス王子がいる。クラスメイトは授業を真面目に受けているようで、時より視線はユリクス王子や私たちに注がれており、何だか落ち着かない。
そんな視線を好都合と思ったのかユリクス王子は派手に魔法を放つ。
「<風矢>」
無数の風の矢を放ち、的に穴だらけにする。
その光景にクラスメイトは「おー!」と関心する。フレア先生も手を叩いて褒める。
ユリクス王子が使えるのは<風の魔法>だ。
文字通り風を操る魔法。
才能とは残酷ね。
どうせ彼はろくに魔法の練習なんてしていない。それでもあれくらい魔法を使いこなせているのだから。
するとユリクス王子は挑発でもしてくるかのような腹立つ笑みを私に向けてきた。
私はため息をつき。
「<薔薇棘>」
私は的に向けて棘を放つ。
全て的の中央を捉えて貫通した。
クラスメイトからの驚きの声と度肝を抜かれたようなユリクス王子の顔。
私はバカにした笑みを彼に返す。彼は悔しそうに私から視線を逸らした。
「まあアセロナ嬢、魔法上手だね。もしかして小さい頃から魔法使ってた?」
驚いた様子でそう言うフレア先生。
「はい。多少は」
全部家族への復讐のためだけど。
「そっか〜! 基礎部分はユリクス殿下と同じで完璧だね」
アイツと同じと言われると何だか嬉しくないわね⋯⋯⋯。
そう思っていたところ、隣にいるエルナが私のことを羨ましそうな目で見つめてきているのに気づいた。
私と目が合ったエルナは慌てて私から視線を逸らす。
どうしたのかしら⋯⋯⋯⋯?
そう思っているとエルナは魔法を放つためか、腕を的の方に向けた。
次期聖女である彼女だけが使える<光の魔法>。
皆気になっているからか、彼女の方に視線が集まる。
「<願いの光>!」
そう唱えるとエルナの手に丸い光の球が出来た。だがその光の球はすぐに光を失っていき、やがて消えた。
そんなものか、とクラスメイトは興味をなくしたように彼女から視線を逸らす。
エルナは落ち込んだ暗い表情を浮かべ、ため息をついた。
「⋯⋯⋯そんなに落ち込むことないわよ」
私がエルナの方を見てそう言うと彼女は目を見開いて驚く。
「私も最初はそんな感じだったもの。ユリクス様のように才能溢れる人じゃなかったからね。でも安心して。魔法は努力次第で使えるようになるわ。とにかく数をこなすしかないのよ。もし分からないことがあるなら私で良ければ教えるわ」
するとエルナの瞳に希望とも呼べる小さな光が灯る。そして少し緊張した様子で。
「⋯⋯⋯あ、ありがとうございます!」
エルナの使う<光の魔法>には他の魔法にはない特性がある。それは彼女自身の願いが魔法の強さとして反映されるというもの。願い強いほどそれは顕著に現れる。
だから前向きに魔法を使いこなせるようになりたい、と彼女に思わせた方が成長を早めるかもしれないということ。
彼女には魔法を使いこなせるようになっていてもらわないと。この学園には危険がいっぱいだもの。そんな彼女を守るためにユリクス王子が助けに来られても困るわ。
そんなことを考えていたところ、突如私の視界に紅い炎の球が映る。その炎の球の軌道はまるで私を捉えているかのように一直線で飛んできた。
⋯⋯⋯<火の魔法>にはいい思い出がないわね。
「<蔦掌>」
私は蔦を生やし、その炎を止める。
一瞬にしては蔦は炎に焼かれ、火柱が上る。
「キャッ!」
エルナは突然のことに驚き腰を抜かす。
「だ、大丈夫!」
そう言ってフレア先生が駆け寄ってくる。
「―――わりぃなアセロラ嬢」
そんな私たちの元に炎を放った張本人であろうサイドテールに鋭い瞳を持つ少女が歩み寄ってきた。取り巻き2人を連れて。
あのサイドテールは確かミーネル・クロイツね。ハーネル公爵家と縁のある家に住む少女。当然、シャーロットのことは知っているし、彼女に従う駒でもある。簡単に言えば『アセロナ反対派』の1人ね。
ミーネルは舐めた笑みを浮かべて口を開く。
「ちょっと手が滑っちゃってさ。魔法の軌道がたまたまアセロナ嬢の方に向いたんだ。許してくれよな」
わざとやった、って言ってるようなものね。というかそう言いたいんでしょうけど。
でも故意にやった証拠なんてない。ここで反論するのは相手の思うツボだわ。
「⋯⋯⋯そう。次からは気をつけてちょうだい」
私は表情すら変えずそう言った。
「チッ、しょうもねぇぜ」
そう言いミーネルは不機嫌そうな顔で私を睨みつけてくる。
「もぉー! ミーネル嬢! 危険だから魔法を打つ時は慎重に! というか1度魔法を見せてください! こういう事が起きないようきっちり指導します!」
「へいへい。好きにしなよフレア先生」
そう言い彼女たちは私の元から去っていく。
その最中ミーネルは横目で私を見つめていた。ニタリと私を馬鹿にするような笑みを浮かべて。
「はぁ〜⋯⋯⋯⋯」
長く付きまとわれても面倒ね。
早めに対処しないと。




