学園入学式
次の日。
学園の入学式のため、私は制服を着て学園内にある大講堂へと向かう。向かっている最中、学園の外がやけに慌ただしかった。きっとユリクス王子の入学に興味が湧いて来た野次馬たちだろう。
大講堂に着くと、そこでは数人見覚えのあるキャラたちが目に入り、改めて『聖女の願い』の世界に来たのだと自覚した。
「あら、アセロナ嬢ではありませんか」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
シャーロット。
彼女の考えは読めたものではない。
なぜこんなにも私に話しかけてくるのか。
「お隣、どうですか?」
そう言いシャーロットは隣の席を手で示す。
上手いわね。だって断る理由がないもの。私だって変に波風を立てたい訳じゃないし。
時期に『アセロナ反対派』のリーダーになる彼女を刺激するのも得策とはいえないわね。
「じゃあ失礼しようかしら」
私はシャーロットの隣に座る。
「前の方に座っていらっしゃる茶髪の子。あの子は確か次期聖女の⋯⋯⋯⋯」
「エルナ・ミセェルね」
「そうです。その子。聖女だけが使えるという光の魔法、どんなものか気になりますわ。是非とも仲良くさせていただきたい」
そう言うシャーロットの瞳には何かを企んでいるような異様さを感じる。
エルナ・ミセェル。
『聖女の願い』に登場するヒロインだ。
次期聖女ということもあり、ヒソヒソと周りに噂を立てられているのを耳にする。
それは興味であったり、嫉妬であったり様々だ。そんな陰口や貴族ばかりの空間に慣れていないからかエルナは少し萎縮している。
本当にゲーム通りね。
そうして待つこと数分、入学式が始まった。
「学園長挨拶―――」
司会進行の先生がそう口にし、学園長の挨拶が始まる。
話が長い⋯⋯⋯。
そういう所は再現しなくていいのよ。ゲームの世界なんだから。
そうして眠気だけを誘い、学園長の挨拶が終了した。
「在校生よりお祝いの言葉をいただく。生徒会副会長―――ハイゼン・ヴィルハート」
それを聞いて私は眠気が取れるほどに驚く。
ゲーム本編で兄様が副会長になるなんて展開はない。私に負けて、勝ちに執着するようになったからかしら。誰よりも上に立ちたいという欲が兄様をあそこに導いたのかもしらないわね。
兄様はチラリと私の方に視線を向けてきた。
表情の変化はないものの、その瞳には闘争心や憎しみなどの感情が伺えた。
「ハイゼン・ヴィルハート⋯⋯⋯。アセロナ嬢のお兄さんですか?」
「ええ、そうよ」
「まあ、副会長だなんて優秀なんですね」
「⋯⋯⋯そうなのかもしれないわね」
性格さえ直れば本当に優秀な人間になれそうなのに、勿体ないわね。
演台についた兄様は口を開ける。
「生徒会長であるエレオノーラ・ヒュードエルは諸事情により不在のため、代わりに私、ハイゼン・ヴィルハートがお祝いの言葉を述べさせていただきます―――」
周りの視線が痛いわね。
なんで兄様がお祝いの言葉を言うのよ。
生徒会長は一体何をしているんだか。
「バルハルト魔法学園の生徒としての誇りを持ち―――」
兄様が生徒会副会長という立場についた。このままいけばきっと兄様は生徒会長になろうとするだろう。
この学園の生徒会長という立場は身分の差などひっくり返してしまえるほどに重要な役職とされている。逆に生徒会長に立候補したものの落ちてしまった生徒は、生徒会長になれなかったものとして蔑まれる。
この学園生活ですでに自身の将来を決める勝負は始まっているのだ。
兄様にとって生徒会長という立場は―――絶対的な勝者の役職だと認識しているはず。
立候補しない理由がない。
もしそれで兄様が負ければヴィルハート家は本当に終わるわね。
「―――敗北を恐れず、常に勝利に向かって努力する。時には仲間を頼り、ぶつかり、高め合う。そんな学園生活を送れるよう祈っております。在校生代表、ハイゼン・ヴィルハート」
そう言うと兄様は礼をして演台から離れる。
私心が丸見えじゃない。
勘弁して欲しいわね⋯⋯⋯本当に。
「新入生代表挨拶。新入生代表―――ユリクス・バルハルト」
その言葉を聞くと大講堂内は少しザワつく。
「あの方が婚約者だなんて羨ましいですわ」
「別にいいことなんて何もないわよ」
「ご冗談を。将来が守られたようなものではありませんか。私もユリクス殿下と婚約できるならしたいものです。まさに『完璧な』お相手ですわ」
私も、ってなによ。私はあのカス王子なんて求めてないのだけれど。一緒にしないで欲しいわね。
ユリクス王子は演台に立つと話を始める。
「バルハルト魔法学園に入学した全ての生徒を代表して私、ユリクス・バルハルトが挨拶をさせていただきます―――」
ユリクス王子の声は皆を引きつける力があるらしい。全ての新入生が演台に釘付けになっていた。
「―――長きに渡り紡がれてきたバルハルト魔法学園の誇りと伝統を―――」
シャーロットもユリクス王子から目を離さない。その瞳の奥に彼を思う心があるのかというと微妙なところだ。
「―――私はこの国の王子として皆を導いていけるような存在になることを誓います。新入生代表、ユリクス・バルハルト」
こうして入学式は終了した。




