バルハルト魔法学園
ユリクス王子のおかげで父は随分と大人しくなった。私が何をしていても一切干渉して来ないし、嫌味を言うことも、そもそも話しかけてくることもなくなった。それにより訪れた2年間の安らぎ。
何不自由ない平和な時間。のんびり過ごしたり、魔法の練習をしたり、とにかく自分のしたいことをやった。そんな時間もとうとう終わってしまった。15歳になる年、学園入学の時期だ。兄様は1年早く学園に向かい、私が来るのを待っているのだろう。
またしょうもない事を企んでいそうだけど。
「はぁ〜⋯⋯⋯」
私は馬車に向かう途中で大きくため息を着く。
「アセロナ様、いよいよ入学だというのに気分が晴れませんね」
「入学だからよ。学園に幸せが待っているとは思えないもの」
「大丈夫ですよ! アセロナ様は有名人なんですから、すぐに友達100人できますよ」
「カス王子の婚約者だし知名度はあるでしょうけど、あいつの名を借りて友達作りなんて何だか癪に障るから嫌ね。⋯⋯⋯⋯それと100人も友達いらないわよ」
「まあまあそう言わずに⋯⋯⋯。友達は多い方が何かと良いですから」
そう言いルーナは馬車の客室に荷物を全て入れ、私に手を差し伸べてくる。
私はその手を取り、乗り込む。
お見送りなんてものはなし⋯⋯⋯⋯。
あんな父親に見送られたいとは思わないけど。
学園へと出発するため、ルーナが客室のドアを閉めようと手を伸ばす。その時、こちらに向かってくる人影が見えたからかルーナは手を止めた。
「アセロナ様!」
「クリスト⋯⋯⋯⋯」
クリストは私たちの前に来ると礼をし、眩しく力強い笑みを浮かべて言った。
「アセロナ様、行ってらっしゃいませ!」
「⋯⋯⋯ありがとう。でもどうしたのよ? お見送りだなんて」
「忘れたのですか? 私はアセロナ様の護衛騎士ですよ。お見送りなど当然するに決まっています。⋯⋯⋯まあ名目上はまだヴィルハート家の護衛騎士なので着いて行けないのは心苦しいですが⋯⋯⋯」
「仕方ないわ。まあいつかは拾いに来てあげるわよ」
「ではその時をお待ちしております」
「ええ、じゃあ行ってくるわね。ルーナ、ドアを閉めて」
「えっ⋯⋯⋯⋯」
ルーナはなぜかは驚いた顔をする。
「何よ」
「いやいや、一応私もしばらくこの家を離れるんですよ!? お見送りはなしですか!?」
「調子に乗らないの。あなたは私の専属メイドとして来るだけ。ただの仕事よ」
「そんな〜⋯⋯⋯」
するとクリストはクスッと笑い、ルーナを見て言った。
「ルーナ、しばらくアセロナ様を頼んだぞ」
それを聞いてルーナはパッと明るい顔をし。
「はい! お任せ下さい!」
そう言った後、客室のドアを閉めた。
馬車が動き出す。
クリストは笑みを浮かべた後、深く頭を下げる。
客室から彼の姿が完全に見えなくなるまで。
「⋯⋯⋯クリストさん、かっこいいし優しいし完璧ですよね⋯⋯⋯」
地下牢での出来事をきっかけにクリストとルーナはそこそこ仲良くなったらしい。
「あら、ルーナはああいう人がタイプなの?」
「どタイプですよ!」
目をキラキラさせ大きな声でそう言うルーナ。
「⋯⋯そう⋯⋯」
まさかの反応の大きさに私は少し引いてしまう。
「あっ⋯⋯⋯申し訳ありません⋯⋯⋯」
やり過ぎた、と反省したのかルーナはそう言い落ち着く。
「⋯⋯⋯そんなにタイプならアプローチしてみたらどうかしら。どうせ砕けるでしょうけど」
「一言多いですよ! でもありがとうございます」
ルーナは嬉しそうに笑みを零した。
「アセロナ様のタイプも教えてくださいよ」
「調子に乗らないの」
「はい⋯⋯⋯すみません⋯⋯⋯」
※
馬車は進んでいき、王都へと出た。
そしてついに―――バルハルト魔法学園へと到着した。『聖女の願い』始まりの地。
王宮からもこの学園は見えていたが、近くで見るのやはり別格のデカさだ。
まるでお城みたいね。
本当なら感激でしてはしゃぎたいところだが、生憎とそうもいってられない。
この学園には私にとっての敵もたくさんいる。
そいつらと会うことになるのは何だか複雑な気分だ。
それと兄様⋯⋯⋯。なんとも諦めの悪い。
面倒にも程があるわね。
「行くわよ」
「はい」
学園の入学式は明日。
今日は寮に私物を運ばなければならない。
バルハルト魔法学園は全寮制。
長期休み以外で3年間、家に帰ることはできない。それを悲しく思うか、嬉しく思うかは親次第といったところ。私は当然嬉しい側よ。
寮に着いた私は部屋に入る。
部屋は狭くもなければ広くもないといったところ。机と椅子、クローゼットにベット。
必要なものはここに揃っている。
私は持ってきた制服やらをルーナと共に片付けていく。
だいぶ片付いたところで私とルーナは休憩を取る。
ちょうどそのタイミングでだ。
⋯⋯⋯コンコン
誰かが部屋のドアをノックしてきた。
「私、出ますね」
ルーナがそう言ってドアの方へと向かう。
「クソ兄様かカス王子だったら無視してちょうだい」
「⋯⋯⋯わ、わかりました⋯⋯⋯⋯」
そう言ってルーナは一度ドアスコープから相手の確認し、兄様でもユリクス王子ではなかったからかドアを開けた。
誰が来たのかしら⋯⋯⋯⋯。
疑問に思った私はドアの方へと向かう。
「ありがとうございます」
透き通るような優しい声。
癖のない水色のロングヘアーにどこかおっとりとした美しい蒼の双眼を持つ少女。
立ち姿やメイドであるルーナへの対応から礼儀正しさが伺える。
そんな彼女は私を見るなり顔をハッとさせた後、好意的な笑みを浮かべてきた。
「お初にお目にかかりますわ、アセロナ嬢。わたくしはシャーロット・ハーネルと申します。隣室でしたのでご挨拶をと思いまして」
シャーロット・ハーネル。
ハーネル公爵家のご令嬢ね。
ゲームでも言わずと知れたネームドキャラ。
⋯⋯⋯彼女が隣室だったなんて最悪だわ。
「挨拶なんて律儀なものね」
「ええ、これから3年間を共にするご学友の方たちとはいい関係を築いていきたいですから、わたくしにとってこういった礼儀は欠かせないものなんです。特にユリクス殿下の婚約者であるアセロナ嬢には―――」
当然のように私を知っているわね。
砕けた表情と柔らかいな声。下手にまわり、相手をたてる態度。自分から挨拶に来るなどの立ち回りの良さ。
自然と好印象に写ってしまう。
まさに『完璧』という言葉が似合う少女。
「そう、まあ悪い気はしないわ。これからよろしく」
「はい、よろしくお願いします」
そう言いシャーロットは柔らかな笑みを浮かべる。
女の怖さといったところかしら。
⋯⋯⋯⋯何も知らない方が幸せなこともあるのね。
ゲーム本編を知っている私はこの先の展開も大体分かる。そして今から話す展開はどうやっても変えられないものだ。
この国の王子であるユリクス・バルハルトが入学してくる私たちの代。
当然、私とユリクス王子は皆の注目の的となる。そんな私たちの関係を良しとする(興味なし)人もいれば、その座を奪いたいという反対派の人もいる。
そして入学し少し経つと反対派の人間たちが集まる2つの派閥が出来上がる。
1つはユリクス王子との関係を狙う『アセロナ反対派』。
もう1つは王国に不満を持つ、もしくは私を狙う『ユリクス王子反対派』。
まだ私は学園に来て何のアクションも起こしていない。つまりはゲーム本編と同じ道を辿っていることになる。
まさか原作アセロナはこんなにも早く彼女と接触していたなんて⋯⋯⋯。ゲームの裏側を見た気分ね。
シャーロット・ハーネル。
彼女は時期に―――『アセロナ反対派』のリーダーとなるのだ。




