宣戦布告
私とユリクス王子は地下牢から出る。
時刻は昼過ぎといったところで朝日ほど直ではないが、窓から入ってきた光に照らされた屋敷内は私には眩しすぎるほどに明るい。
思わず私は手で目を覆い隠す。
そんな私たちの元にクリストとルーナが来た。
「良くやってくれたわね、あなたたち」
「お褒めに預かり光栄です。アセロナ様」
「もぉー⋯⋯! こういうことはやめてくださいね。心臓に悪いですよ」
「悪かったわねルーナ」
そして私はクリストの方に視線を移す。
「もう気づいてるでしょうけど<薔薇棘>はすでに抜いてあるわ」
「⋯⋯⋯やはりアセロナ様は恐ろしいですね。そこまで私を理解されていたとは」
「当然でしょ。私は賭けに出るようなバカはしないもの。あなたは自分の信じた正義は絶対に曲げない。だから私側につけた時点で裏切りはないと確信していたの。私も魔法に自信がある訳ではないし、万が一が起きないよう抜いておいたわ。そういう意味でもあなたを選んだのよ」
「私はまんまとアセロナ様の手のひらで踊らされていたというわけですか⋯⋯⋯⋯」
そう言ってはいるがクリストは何だか嬉しそうな笑みを浮かべていた。まっ、彼にとっても自身の正義を貫けて満足だったんでしょうね。
私たちは揃ってヴィルハートの屋敷から出る。
外にはユリクス王子が乗ってきたであろう馬車が待機していた。
「首輪は忘れない内しか機能しない。学園入学までたまにこの家の様子を見に来ることにしよう」
「その方がいいですね。だけど来るなら教えておいてもらえますか? その日は屋敷を離れることにしますので」
「クハハハッ、相変わらず冷たいな」
「だって私は変わらずあなたのことが嫌いですもの」
するとユリクス王子は鼻で笑い口を開いた。
「フンッ、だがこんな日が来るとは思いもしなかった。まさかお前と協力し合うことになるとな」
「フフフッ、勘違いしないでください。これは協力なんて優しいものではありませんよ。ただ利害が一致したから利用し合っているだけ。私はあなたを許したわけでも認めた訳でもない。必要なくなれば私はあなたにだって容赦はしません」
「そうか。だがアセロナ、お前では俺を越えることなど出来ない。俺もお前に容赦などするつもりはないからな。俺に宣戦布告をしたことを後悔させてやろう。最後は俺がお前を振ってやる」
そう言いユリクス王子は客室へと乗り込んだ。
客室の窓越しから自信に満ち溢れた笑みを浮かべて私を見てくる。
私はそんな彼を睨みつけた後、背を向けて屋敷の方へと歩みを始めた。
音から馬車が屋敷から去って行ったのが分かった。
「ルーナ、クリスト。望むものを言いなさい。できる限りのことは叶えてあげるわ」
私がそう言うと二人はポカンとした表情を浮かべた。
クリストはまだしもルーナにはお礼をするって伝えてたはずなんだけど⋯⋯⋯⋯。
「どうしたのよ」
「いえ、まさか報酬があるとは思っていませんでしたので⋯⋯⋯」
「私も冗談だと思っていました⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯そんな訳ないでしょ。鞭だけで人を動かないもの。時には飴も必要よ。だから望みを言いなさい」
「で、では! 私は給料アップをお願いしたいです!」
「良いわよ」
「やったー!」
ルーナは両手を上げて喜ぶ。
「クリストは?」
「私は⋯⋯⋯。私の正義のため、アセロナ様の護衛騎士でいさせてもらえないでしょうか? ヴィルハート家の護衛騎士のままでは怠け者になってしまいそうですし」
「それは心強いわね。良いわよ。あなたを私の護衛騎士にしてあげる」
「ご好意に感謝致します」
これで二人は私の言うことを聞いてくれる存在となった。ありがたいわね。
「ルーナ、お風呂と食事の準備をお願いできるかしら?」
「はい! すぐにご用意して参ります!」
そう言ってルーナは一足先に屋敷へと戻って行った。
「クリストも自分の仕事に戻りなさい」
「はい。では失礼致します」
クリストもそう言い去っていく。
私は1人屋敷へと戻る。
玄関前には怒りの感情に支配された兄様が立っていた。
「⋯⋯⋯アセロナ! なぜここまでする必要があった! 父上に従っていればいいものを! このままではヴィルハート家の均衡は崩れ、他の公爵家に遅れを取ることになるぞ! 分かっているのか!」
「勘違いしないでください。私はヴィルハート家の未来に興味なんてありません。お兄様もただ自分が負けているこの状況が気に食わないだけでしょ? 次期当主として家のことを考えているようで、お父様と同じく自分のことしか考えていない。遅かれ早かれこうなっていたんですよ。早めに気づけたことを良しとしてお父様と共に反省してください」
「黙れ! 俺はもう引き下がらないぞ! 覚悟しておけアセロナ! 俺は必ずお前に勝ちヴィルハート家を立て直す! どんな手を使ってもだ⋯⋯⋯!」
「勝手にすれば良いですよ。だけど今のままではヴィルハート家を変えることも私に勝つこともできないと忠告しておきます。まっ、お兄様がそれを聞き入れるとは思えませんけど」
「当たり前だろ。俺は俺のやり方でお前に勝つ。この屋敷内ではもう自由に動けないからな。学園で先に待っているぞ」
兄様は私に二度も負け完全に変わってしまったらしい。もちろん悪い方向に。
きっとバラバラになったプライドを繋ぎ合わせようと必死なのでしょうね。
勝ちを追うのと執着するのとでは意味が変わってくる。
今の兄様は勝ちに執着している。
『貪欲な勝利主義者』といったところね。
ようやく落ち着いたと思ったのに、2年後の学園入学⋯⋯⋯何だか憂鬱な気分だわ。




