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【連載版】悪役令嬢だと気づいた私は悪に染まりきる  作者: シュミ


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誰からも愛されない私

これは乙女ゲーム『聖女の願い』に登場する悪役令嬢の過去の話。

どこまでも不遇で、彼女を悪役たらしめるきっかけとなった話。


だけど、少し違う。


なぜなら彼女はいずれ思い出す事になるのだから。


―――前世の『自分』というものを。


そんな『誰からも愛されなかった悪役令嬢』の物語である。





「来ないですね」


「そうね⋯⋯⋯⋯」


王宮のテラスで紅茶と茶菓子を用意し、私ことアセロナ・ヴィルハートは専属メイドのルーナ・マゼンタと共にある人を待っていた。

かれこれ1時間以上経つが、彼は未だに姿を表さない。


「はぁ〜⋯⋯⋯愛想つかれましたか⋯⋯⋯」


ルーナは私の前で独り言のようにそう呟く。

それを聞いて私の胸はギュッと苦しくなる。


「⋯⋯⋯まだいたのか」


そんな私の背中を刺すように、冷たく吐かれたその言葉。

言葉の主は金色の髪に金色の双眼を持つ男だ。

彼はため息をつくと、面倒くさそうに私の所へ来て向かいの席に座った。

そう、彼こそが私の待っていた人。

私の婚約者であるユリクス・バルハルト王子だ。


見ての通り私とユリクス王子の関係は良くない。


「全く律儀なものだな。親同士が勝手に決めた政略結婚だというのに。今更こんな茶会に何の意味があるというのだ」


「⋯⋯⋯意味が無いとは思いません。⋯⋯⋯今の内に交流を深めておくのは大切ですから⋯⋯⋯」


私はそんな定型文を口にする。

今までも何度か彼と茶会を行ってきた。

ほとんど会話をしない、時間が過ぎるのを待つだけの茶会を。

こんな茶会で一体どうやって交流を深めるのか、疑問に思う。

ユリクス王子はそんな私の戸惑いに気づいたのか口を開く。


「フンッ、それはお前の意思で言っている言葉ではないだろ。また父親か?」


「っ⋯⋯⋯⋯」


私は図星をつかれ動揺してしまう。

その様子を見てユリクス王子は呆れた表情を浮かべて言った。


「やはりな。まさに道具そのものだなお前は。もう少し自分の意思で行動したらどうなんだ。心のない、操り人形のようなお前と過ごすこの時間は退屈で仕方ない。はっきり言って不快だ」


そう言うとユリクス王子は席から立ち上がる。

紅茶にも茶菓子にも一切手を付けず。


「一つ言っておこう。いくら親が決めた婚約だからといって、俺はそう易々と従うつもりはない」


「えっ⋯⋯⋯⋯ま、待ってください⋯⋯⋯⋯! それはどういう意味で⋯⋯⋯?」


「今のお前と結婚するつもりはないということだ。分からないのか? まあ安心しろ。2年後、俺たちが学園に通うまでは今のまま婚約者ごっこに付き合ってやる」


ユリクス王子はそう口にすると私の元から去って行った。


残された私は椅子に座りこんだまま動けなくなっていた。

もし婚約破棄なんてことになってしまえば、私の存在価値なんて完全消えて居場所なんてもうどこにもなくなってしまう⋯⋯⋯⋯。

そう思うと吐き気がした。


そんな私にルーナはどこか見下しているような視線を向けてくる。


ああ⋯⋯⋯ほんと私って⋯⋯⋯ダメダメだ⋯⋯⋯⋯。





ヴィルハート伯爵家。

私はこの家の次女として生まれた。

長男であるハイゼン・ヴィルハートはとても優秀だ。人当たりが良く、魔法も使いこなせる。次期当主として文句のつけようがない逸材だ。きっと来年学園に入学しても上手くやっていけるのだろう。

対して私はどちらも中途半端⋯⋯⋯いや、それ以下だ。婚約者に好かれることすらも出来ないのだから。


屋敷に戻った私は今日のことを報告するため、父の部屋に来ていた。


父は私が話している最中も、視線は私の方ではなく机に置いている資料の方を向いていた。

そして私が話を終えると、父は「そうか」と興味なさげに言った。


「最初からお前に期待などしていなかったが、ここまで上手く事を運べんとは無能も良いところだな」


そう言ってため息を着く父。


ユリクス王子は鼻から私と馴れ合うつもりなんてなかった。

親同士の意向で決められた婚約に従いたくなかったから。私は彼に会う前から嫌われていた。

最初からこの政略結婚が都合よく進むはずがなかったのだ。

それでも私は好かれようと努力をした。だけどユリクス王子は一度も私に振り向いてはくれなかった。


「ユリクス王子もまだ子供だ。すぐに気づくだろう。婚約破棄がそう簡単なものではないということくらい。お前はそれまで私の言った事だけやっていろ。勝手なことをしてこれ以上状況を悪化させるなよ」


「⋯⋯⋯はい⋯⋯⋯。申し訳ありませんでした⋯⋯⋯⋯」


私はそう言って父に頭を下げる。


「⋯⋯⋯まったく、母さんの命と引き換えに産まれてきたというのに役立たずも良いところだ。少しはハイゼンを見習ったらどうなんだ?」


「⋯⋯⋯申し訳ありません⋯⋯⋯」


父が私を嫌う理由なんてよくある話だ。

政略結婚を拒んで愛する人と結婚した父。

そんな父は妻の命と引き換えに産まれてきた私を許さなかった。

小さい頃は今よりも私に対する当たりが酷かった気がする。

「お父様⋯⋯!」と呼んでもほとんど無視され、聞こえていないのかと父の服を掴んだ際には手を振り払われ「気安く触れるな」と怒鳴られた。


⋯⋯⋯その態度は今も変わらないか。ただ父と関わる事が減っただけだ。


父は私を愛していない。

興味すらない。

ただの道具としか見ていないのだろう。

道具である私は使うまで放置され、使うとなれば乱暴に扱う。それが父のやり方だ。

父は政略結婚を拒んだ身なので分かるはずなのだ。親に結婚相手を強制される事がどれほど嫌なことなのか。好きでもない相手と生涯を共に過ごすことを強制され、どれだけ相手に嫌われていても離れることは許されない。

そんなことを敢えて私にさせるのは、母の命を奪った復讐なのだろう。

それでも私はこの政略結婚を拒めなかった。

こうして言うことを聞いていれば、いつか父に認められると信じているから。


「もう良い。顔も見るのもウンザリだ。さっさと出ていけ」


「ッ⋯⋯⋯⋯。はい、失礼します⋯⋯⋯⋯」


父は私に棘のある言葉しかかけてくれない。親にそんな言葉を吐かれて心が痛まない子供はいるのだろうか。

少なくとも私は傷つく。

こんな父でもたった一人の親なのだから。


そうして私は部屋を追い出された。


私はそこからしばらく動けずにいた。


「これでも私、頑張ってきたのに⋯⋯⋯⋯」


何も成し遂げられず、父に役立たず呼ばわりされたことが悲しくて。

そんな私の前に兄様が来た。

父譲りの赤髪に紅く鋭い双眼を持つ。


「⋯⋯⋯お兄様⋯⋯⋯」


兄様は私を睨みつけて言う。


「邪魔だ。どけ」


そして私の体を乱暴に押した。

体の力が抜けていた私は抵抗も出来ずバランスを崩す。

兄様はそんな私など無視して父の部屋をノックし中に入った。


「おお! ハイゼン来たのか⋯⋯!」


私の時とは違う。

穏やかで明るくどこか弾んだ口調で話す父の声だけが最後に聞こえてきた。

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