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一閃



 今一度、両手剣のグリップをしっかと持ち、腰を落として構えるローウェン。

 敵が攻撃魔法を使うなら、こちらも魔法を駆使して応戦する権利がある。容赦はしない。


 ローウェンの足元に展開される魔法陣。薄く浮かび上がる魔術式に白い光が走っていく。後ろに身を隠していた剣の女神は、その様子に「何と……」と驚嘆の言葉をこぼした。

 


「こいつの攻撃魔法はなァ、一味違うぜ? こいつでいくつの拠点や施設や村を焼き払ったか、何人のセンタグランド人を焼き殺したか、覚えてないくらいにはなあ」


「あっそう。そりゃスゴい。それじゃあ、その時の仇でも取らせてもらおうか」


 

 脅しや挑発のつもりだろうが、敢えてローウェンはそれに乗った。静かに、義憤の炎が灯る。


 魔法陣の発光色、「制圧用の攻撃魔法」「焼き払う」、というワードからして、広範囲の火炎の放射が飛んでくるということでほぼ間違いないだろう。ならず者達が、這々の体で射線となるであろう場を離れたり、気を失っている仲間達を引きずって退避させたりしている。

 


「何を企んでいるかは知らねえが、剣を振って炎を吹き飛ばそうとでもしてんのか? 

剣置いて逃げるなら今のうちだぞ?」



 ローウェンは応えない。

 そうこうしている内に、相手の術式展開が完了した。魔法陣と魔術式が月夜の下で煌々と紅く輝く。こうなってはもはや発射するのみ。逃げることは不可能だ。



「時間切れだ! 燃えろォ!!」



 その声を合図に、魔法陣が眩く光った。光の中から灼熱の火焔が勢いよく射出される。轟音とともに、焔が渦を巻きながら広がり、迫りくる。

 だが術式展開が完了していたのはローウェンも同じ。魔法陣が輝き、光が両手剣の刃に集まっていく。

 ヒュッ、と小さく息を吸い込み、両手剣を振りかぶると――



「はあッ!!」



 一閃! 袈裟がけに大きく振り下ろす。

 瞬間。ゴウッ! と強烈な突風が巻き起こった。刃の振りおろしが、風と共に肉眼では見えない空気の衝撃波を形成。炎の渦に向かっていく。その余波で、背後の森の木々がザワザと騒ぎ、館のガラス窓がガタガタ音を立てる。剣の女神の長く白い髪もぶわっと花びらが吹くように巻き上がった。

 衝撃波は烈風とともに、切り裂くように炎の渦を吹き飛ばし、消し去っていく。



「うわあ〜〜っ!!」



 強烈すぎる風にあおられ、ならず者達が吹き飛ぶ。そのうち、最も小柄な者は、断崖から海へと落下してしまった。


 残った微かな炎が地面に落ち、雑草を燃やしていく。紅く染まる地面が、月夜の中でローウェンの姿を不気味に映し出す。

 


「お仕置き程度で済まそうと思ってたのに……やってくれたねえ。忠告したのにさ」



 静かに、だが凄みを称えた声と表情で、ローウェンはゆっくりと歩きだす。その様に、ならず者たちは恐慌状態に陥った。「ひいい!!」「とてもかなわねえよ!」負傷者のことも忘れ、我先にと尻尾を巻いて逃げ出したのだ。



「おいお前ら! 勝手に逃げるんじゃねえ! おい! 俺がヤツを食い止めて時間を稼ぐから、もう一発だ!」



 だが、返答がない。「おい、聞いてんのか!」リーダー格が魔法手の肩を叩く。

 彼は、既に事切れていた。

 ローウェンが放ったのは衝撃波と烈風だけではなかった。ローウェンの斬撃によって生じた真空の刃が、魔法手を両断していたのだ。

 肩を叩かれた衝撃で、左肩から右腰にかけてを断面に、魔法手の上半身がずるりと滑り落ちる。真っ二つになった体が倒れ、地面に血と臓物とをぶちまけた。



「ヒ……」



 小さく悲鳴を上げ、後ずさるリーダー格。



「く、クソっ!! これが銀狼級シルバークラスになりたての二流ハンターだと……? 嘘つけッ!! こんなハズじゃ……」



 完全に実力の違いを思い知ったのか、完全に戦意喪失。ローウェンが一歩前進するのに呼応するかのように一歩後ずさる。その先は断崖だ。もはや逃げ場はない。背を向けた瞬間どうなるかは、彼が一番よく知っているはずだ。 



「悪いけどアンタは逃がさないよ。崖から海に飛び込んでもムダだ。この下は岩礁が飛び出てる。落ちたらほぼ間違いなくあの世行きだ。空き巣、強盗未遂。部下をけしかけての殺人未遂。数えきれない戦争犯罪の容疑に……決め手は制圧用の攻撃魔法なんてのをこんな場所でぶっ放すよう命令した罪……。法の裁きのもと、絞首台に立ってもらう。覚悟しな」


「く……そおおお!!!」



 もはや破れかぶれだった。腰の引けた勢い任せの両手剣の斬撃を、ローウェンは軽々と跳ね上げた。そして無防備となった腹部に、剣の背での重い打撃を見舞った。ドボオッ、と鈍い音とともに、剣が体にめり込む。内臓に重い衝撃が走り、アバラ骨が折れていく。



「く……か、はっ……」



 肺の中にあった空気を全て吐き出し、更に絞り出すと、ならず者のリーダー格は、その場にどうと倒れた。それを無感動そうに一瞥すると、ローウェンは魔法式のロープを取り出し、ならず者のリーダー格と、気を失い逃げそびれた部下達の捕縛にかかった。



 

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