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戦女神



 ローウェンは玄関エントランスのドアを乱暴に開けた。彼女の言った通り、そこには雁首揃えて、ガラの悪い荒くれ者共が立ち並んでいた。各々が、物騒な獲物を携えている。

 見たところ、スラム街に根城を構える、ゴロツキ集団といったところか。



「やあやあ皆様方、大勢でコンバンワ。生憎だけど、パーティーの会場間違えてない?」



 忌々しそうに軽口を飛ばすローウェン。



「いーや。ここで合ってるさ、なあ、お前ら」



 ヒヒ、と下卑た笑いが起こる。



「なんでもお前、いい剣を手に入れたそうじゃねえか。どんなもんか、ちょっくら見てみたいと思ってだな」


「減るもんじゃ無し、見物させてくれよ。なあ?」



 やはり目的はあの宝剣だったか。町中で開けっぴろげに見せびらかした上に、簡易的な鑑定をした上でのお墨付きまで出たのがまずかった。好事家の中には、これに高値をつける者がいるのかもしれない。

 


「残念ながら一般人の展覧は許可しておりません。どうしてもって言うなら、金をとりますけど?」



 ピクッと、リーダー格の男の眉がよじれた。ペッと唾を地面に吐き捨てると、完全に威圧の態度を見せてきた。



「兄ちゃんよ。バカにされるのは好きじゃねえ。——痛い目見たくなかったら、大人しく例の剣を持ってこい」


「何でだよ。金払って手に入れた、俺の剣だぞ。嫌だね」


「じゃあ、『やっぱり持ってきます』って言いたくなるまで、痛めつけることになるな。それは、賢い判断とは言えねえ」


「それ、ひょっとして脅しのつもり? 俺、一応そこそこ名の通ったハンターのつもりでいたんだけどなあ……」


「自惚れんじゃねえよ。お前、ちょっと前まで中堅ハンターの赤銅鳳級ブロンズクラスだったらしいじゃねえか。何の手柄で昇級したか知らねえが、要は昇級したての、経験の薄い若造ってこったろうが」


「その程度の腕で、この人数を相手にできるかよ」



 その一連の科白セリフに、ローウェンはため息をついた。赤銅鳳級ブロンズクラス銀狼級シルバークラスも、世間では随分と甘く見られているらしい。もっとも、その方が相手の油断を誘えるので、都合がいいと言えばそうなのだが。

 それにしてもこの自信。もしかしたらただのゴロツキではなく、傭兵崩れか何かなのかもしれない。



「肩書きだけで人を判断しない方がいいよ。——ああ、それと」



 ドコッ! ドコッ! ドンッ! 

 館の中で、何かを叩きつけるような音が鳴り響いた。ならず者たちに動揺が走る。



「何だ!? 中に誰かいるのか!?」


「おたくらの本命は、あっちだろう? 渡せと言われても俺が断固拒否することを見越して、陽動のあんたらが正面で押し問答してる間に、数人が館に忍び込んで家探し。悪知恵が働くねえ」


「クソッ……!!」



 ギリ、と歯噛みするならず者たち。それと同時に、館の中の物音がピタリと止む。

 しん……と静まり返る中、からん、ころん、と独特の靴音と、何かを引きずる音が近づいて着たかと思うと――。



「ぐわーっ!!」



 悲鳴といっしょに、館に忍び込んでいた男が勢いよく飛び出してきた。男は地面に体を叩きつけられながら吹き飛ばされ、ならず者達の足元に、開脚した情けない姿を晒しながら止まった。



「なっ……何だ? 何があった!」


「ふう……。これでは腕鳴らしにもなりませぬ」



 宝剣から出てきた美女が、退屈を絵にかいたような面持ちで、玄関口から姿を現す。右手には鞘に収まったままの宝剣を。左手は、もう一人のならず者の襟首を掴み引きずりながら。

 にわかに、ならず者達の顔色が畏怖に染まった。



「すげ。もう片付けちゃったの? 本当に大丈夫か半信半疑だったけど……」


「侮りたもうな。剣を抜くまでもなし」


「あ、もしかして気を使ってくれた?」


「刃をいたづらに血で汚すは、わたくしも、汝も本意ほいではありますまい。……高い値でわれたのでしょう?」



 相変わらず古風なしゃべり方で、にこりと柔和な笑みを浮かべる。まさか200エーネの捨て値で取引されたと知ったら、どんな顔をされるだろうか。ローウェンは複雑そうに笑み返した。


 最初、ローウェンは彼女に個室に鍵をかけて隠れているように言いつけた。だが、陽動策を看破した彼女は、敢えて輩の侵入を許し、鉢合わせたその場で打ち倒す策を提案した。

 もちろんこれは、彼女がある程度の手練れでなくては成立しない作戦なのだが、彼女の只者ではない佇まいと、凛とした自信に溢れる口調に押され、半ば強引に承諾させられてしまったのだった。

 だが、彼女の強さは、想像を遥かに超えていた。



「あ! あの剣!! あの女の持ってる剣が例のやつですよ!」


「へえ……。まさかそっちの方から持ってきてくれるたあな。おい姉ちゃん、今すぐその剣を俺らに渡しな。そうすれば、二人をボコったことは水に流してやる。どうだ?」


「断りまする」



 毅然に、きっぱりと、即答だった。



「そなた達のような輩に触れられとうありませぬ。この剣はすでにロウエンのものであり、私自身わたくしじしんでもあります故」


 

 汚らわしいものを見る目で溜息を吐く。



「おい、舐めた口で、訳わかんねえこと言ってんじゃねえぞ。頭湧いてんのか?」


「どうやら交渉決裂みてえだな……」


「交渉とな? 交渉とは、持主に然るべき額を差し出し、穏やかに談合する手段なるべし。鐚一文も出さず、端より脅して奪うか、殴られて奪わるるかを選べとは……。実に分かり易き悪党よな」


 

 ふうー……と、再度大きく溜息を吐く。



「悪党に振る刃は戦にあらず。ただ――」



 彼女は宝剣を鞘よりゆっくりと、見せつけるようにして威嚇し、三分処ほどで完全に抜き去った。



「ただ、破邪顕正の仕置きなるべし」




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