神様を祀った剣?
「ま、インテリアとしては最高だね。ショドウの掛け軸とかを吊るして……。いや、いい買い物した」
船着き場の石道を歩きながら、ローウェンは満悦そうに宝剣を空に掲げ眺めていた。たった200エーネでこれだけの逸品を手に入れられたのだ。心を躍らせるなという方が無茶だ。
機会があったら、東那国のその筋の者に正式に鑑定してもらい、いつの時代の物なのかや、値打ちなどをハッキリさせるのもよいだろう。本当は、試し切りをしてみたい欲もあるが。
何にせよ、曰くつきと言っても、憑いているものが亡霊の類なら安いものだ。美人の亡霊だったなら、会ってみたいまである。
「よう、ローウェン。随分とご機嫌そうじゃねえか」
声のした方向を見上げるローウェン。屈強なギルドの男達が、商船から降りようとしていた。
「ああ、ビリーの兄貴。お船の旅から戻ったんだ」
彼らを率いる一際大柄な男―—ギルドの有力ハンターの一人、ビリーに会釈する。
「おう。賞金首も確保できたし、有意義な船旅だったぜ」
ギルメン達が用心棒として護衛していたのであろう商船では、荷の積み降ろしが始まっていた。
それと同時に、魔法式の縄で捕縛された海賊たちも、ゾロゾロと出てきた。中には痛ましい姿で、担架に乗せられて出てくる者もいる。武運拙く、死体になってしまった者もいるのかもしれない。「よりによって兄貴が乗った船を襲うとか、運が悪いこって」とローウェン。
「しかし、商船護衛も街道の護衛も悪かないんだがな、たまには金獅子級のハンターが受けるに相応しい、デカい仕事は無いもんかね」
「仕方ないさ、戦争もほぼ終わりかけだし。竜討伐とかもこの前のであらかた片が付いたし。その代わり、傭兵崩れや脱走兵、亡命してきた連中が徒党組んで賊に身を窶すってケースがワンサと増えた。……当分そっちの仕事には困らないだろ」
ビリーは無言で「フン……」と、何とも言えない複雑な反応を見せた。
「で、お前、その剣は一体なんだ? またいつもの東那趣味か?」
無遠慮に指をさしてくるビリー。
「これ? 女の亡霊が憑いてるって曰く付きの宝剣。みんな気味悪がって買わないからって、200エーネで叩き売られてたんだ。見てくれよこの刃のデザイン。束とグリップの装飾。いいだろ、一目惚れだったんだ」
剣を抜き、得意げに鼻息を荒げるローウェン。「お、おう」と引きつった愛想笑いを浮かべるビリーの背後で、ギルメン達が「子供かよ」「うげー、気持ち悪ぃ……」「近寄んなよ。取り憑かれる」と口々に毒づく。
「……ちょっと、近くでよく見せてくれねえか?」
その中で一人、補助魔法手を務めるギルメンが手を挙げた。魔力の操作や霊力・霊感といった能力に長ける男である。ハンタークラスは銀狼級。ローウェンと同格である。メガネの位置を直しながら、くそまじめな声色で語りだす。
「こいつは……凄え。何かしら、強大な力が宿っていた形跡がある」
「あ、やっぱりそういうアイテム? 装飾のデザインからして、何かの儀式とかに使われてた剣かなって勝手に思ってたけど」
「いやお前……感じる風格からして、少なくとも、こんな町のど真ん中で抜いたり、倉庫でガラクタと一緒に放置されるような、そんな代物じゃねえよ。東那の偉い神様かなんかを祀った剣なんじゃねぇのか?」
神様? 神様だってよ。教会の奴らに見られたら面倒だぞ。ギルメン達が色めき立つ。
「神は全知全能にしてただ一人」と教会が説くセンタグランドとは違い、東那国は善悪問わぬ様々な「神」が、各地で祀られたり、封印されていると聞く。へえ……。と感心しながら、宝剣を今一度じっくりと眺めるローウェン。
「神様、ねえ」
「ふん。もしそうだとしたら、あらぬ疑いがかからないよう、しっかり仕舞っておくんだな。……しかし、そんな御大層なブツをたったの200エーネで取引するなんて、神罰当たりな奴らだぜ」
ビリーの皮肉に、違えねえ! どっと笑いが起こった。
――その様子を見ながら、陰で耳打ち話をする者達の存在には、誰も気づくことができないでいた。