亡霊憑きの宝剣
「……へえ。凄いな」
「どうです? ローウェンの旦那」
昼下がりの武器屋。ズラリと並ぶ大小さまざまな剣、長柄物、戦斧、銃、魔法銃、魔法銃対応の薬莢。展示される厳つく物騒な品々を、春の陽が柔らかに包んでいる。
そんな中、店のカウンター付近に展示された、一振りの宝剣。それが強烈に目を引いた。「掘り出し物」と銘打たれながらも、目を疑うほど格安の値をつけられている。
「東那国の骨董品だろ? どうしたのこれ」
「それがですねぇ。倉庫を片付けてたら出てきまして。悪くない品のはずなのに、手に取ってみたら、みんなして薄気味悪いって。買い手がつかなくて」
ギルド所属の賞金稼ローウェンは、手に取った異国設えの宝剣をしげしげと観察する。
鞘は加工された木材や白銀色の金属、散りばめられた宝石から成り、最低限売り物になる程度には汚れやホコリが除去されている。
かなりの年代物に見えるが、鞘の装飾には錆ひとつない。
店主に確認し、鞘から抜剣してみる。
刃がその姿を見せるにつれ、おお……という感嘆が思わず口からこぼれた。睨んだ通りだった。
刃こぼれどころか、傷や錆一つない。神聖さすら感じさせるほど美しい切っ先は、まるで朝日が照らしだした雪原のよう白く眩しく、にじみ出す荘厳且つ高貴な様相は、筆舌に尽くしがたい。ずっと眺めていられるくらいだ。
刃は太めで肉厚。両刃の片手剣だ。刃の長さはローウェンの手の先から肘くらい。それに、独特な形状をしている。
本邦・センタグランド国の傭兵やギルド所属のハンターが好んで使用する機能性重視の無骨なものとも、東那国のスタンダードである、反った片刃の剣―—刀とも違う。柄やグリップの装飾も含めて、何らかの儀式用として飾られていたとしてもおかしくないデザインだ。
「これがたったの200エーネはいくら何でも、だろう。客にケチつけられた以外にも、何かあるんじゃないのか?」
「いやいや! 滅相も……」
「長い付き合いじゃん。隠し事は好かないなあ。うん?」
「……へえ。実は」
店主は、目を泳がせながら白状しだした。
「……こいつを店頭に出してから、妙な事が起こるようになりまして」
「妙な事?」
「ええ、ウチのカミさんが、『女が呟くような声が店内から聞こえる』だの、『いるはずのない女が店内に立ってた』だの……しまいには、浮気まで疑われる始末で……」
「そりゃ災難だったな」
「実際あっしも、同じような現象に遭遇しましてね。誤解が解けたら解けたで、気持ち悪いから今度は早く叩き売るか捨てて来いとがなり立てられましてェ……。そんで、捨てようにも、何だか呪われてしまいそうな気がしましてねェ……」
バツが悪そうに笑う店主。
確かに、この剣からは何か、「力」や「意思」のようなものを感じる。ローウェンに対し、何かを訴えてきているような、そんな感覚だ。例えば、妖刀・魔剣の類が「もっと斬らせろ」と疼くように。
この感覚を薄気味悪いと言って、皆、忌避したのだろうか。
「で、旦那。買っていただけるんでしょうね?」
「そりゃもちろん。曰く付きのアイテムなんざ、今更だし」
チャリ、と小金の入った巾着袋を見せる。「へへ、毎度」と、調子よく揉み手で破顔する店主。
「東那の品、好きなんですかい?」
「まあね。風情、っていうのかな? あの独特の文化が好きなんだ。時勢が許せば、一度旅行にも行ってみたいと思ってるくらい」
「いま、何かとキナ臭いですからねえ、あの国。近々、どでかい内乱でも起こるんじゃないかって、もっぱらの噂ですよ」
「傭兵としての稼ぎ先としちゃ悪くなさそうだけど、あそこにはやっぱり命のやり取りじゃなくて、観光目的で行きたいな。――と、本題に入ろうか。注文したい品があるんだけど、いいかな」
注文の品を書きだしたメモを手渡し、店主との商談がはじまった。