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悪役貴族に転生した俺様、「敗者は勝者のものになる」という決闘を繰り返す悪役ムーブをかましていたのだが、ヒロイン達がこぞって決闘を挑んでくるだけど、大丈夫そ?

作者: だぶんぐる

ゴールデンウィーク特別短編悪役貴族コメディ!


※注意!ギャグ的ではありますが少し『おもらし』など下品な表現がありますので、無理そうな方はご遠慮ください。

「クハハハハ! いいか! ファナ=ステラ! これは、『敗者は勝者のものになる』! そういう決闘だ! 分かっているな!」

「勿論よ! 貴方が勝ったら、私は貴方のものになる! そういう決闘でしょ!?」

「そうだ! いいんだな! 本当にいいんだな!」

「な、何度も言わせないでよ……ばか……!」


 そう言って頬を染める金髪の美少女が剣を構える。隙だらけで。

 何故だ! 何故こうなってしまった!?


 俺様の今の名はスティーシ=ナリキーン。この『スターオブファンタジア』の世界における悪役貴族だ。何故自分のことを悪役貴族だと名乗るのか。理由は単純明快。俺はこの世界を知っているから!

 前世の俺は日本でゲームと筋トレが趣味の普通の会社員だった。だが、己の筋肉を過信した俺は暴走する車に轢かれそうになった子供を助けぶっとばされた。最近は暴走トラックよりも歩道に突っ込んでくる暴走車の方がリアルだよなあとか思いながら遠くで聞こえる救急車のサイレンと近くのスマホパシャパシャの音を葬送曲に俺は死んだ。



 そして、その前世の記憶を取り戻したのが6歳の頃。

 当時わがまま肥満クソガキの極みと化していた俺が暴れてベッドから落ちて頭を打った時だった。


「……これ、スターオブファンタジアじゃねえか……!」


 俺様、スティーシ=ナリキーンは、前世の俺がやっていたゲーム『スターオブファンタジア』の世界における悪役貴族だったこともその時思い出し、絶望の淵に立たされた。


 なんといってもこのスターオブファンタジア、ゲーム会社が出したものでなく、個人で作ったものをダウンロードしてやっていたのだが、パワーバランスは滅茶苦茶主人公がただ無双してきもちぃいい! その上、どんどん嫁が増えてきもちぃいいい! という単純明快なゲームでプレイ時間は3時間というもの。あまりにも薄っぺらすぎて一回やってやめた。


 特にストーリーがあるわけではなく、嫁候補に迫る悪役と主人公出会う、悪役がとにかく罵詈雑言から人質・捨て駒など悪役ムーブをこれでもかとかまし続け、一撃で倒されヒロインベタ惚れ主人公とイチャイチャ展開、というもので情報が少なすぎる。


 この俺様が転生したスティーシ=ナリキーンに関しても名前のひどさゆえに覚えていたが、捻りのないその名の通り、ただ金があるだけの捨て石キャラ。所謂序盤噛ませ犬。ちなみに、カマセィーヌ=パンツというヒロインのパンツを盗み脅迫する悪役もいた。主人公のチートスピードで秒殺されるキャラ。


 というわけで、16歳になり学園に入る事になったら主人公と出会い、ぼっこぼこにされる予定になっている。

 だが、それは完全に作者と主人公の都合だ。作者は知らんが、主人公に関しては『女の子にそんなひどいことするなんて!』と『オレがこの学園の平和を守るんだ!』くらいしか言わず台詞に重みがない上に、シンプルに力がすごいという小学生みたいな恋愛観でモテていて好きになれない。

とはいえ、腐っても主人公。主人公補正でこの世界はご都合主義的に動いていく可能性はある。


「ならば俺様は俺様の道を行くのみ」


 俺様は鼻息荒く重たい身体を起こし決意を胸に立ち上がる。ベッドから勝手に落ちて怪我をしたとしても自分のせいにされるのではという思いとここから離れれば責任を問われるのではという二重の恐怖で床に縛り付けられていたメイドが涙目で俺様を見て震えている。

 今までの、前世の記憶のない俺様であれば何の罪もないメイドをしかりつけ、罰と称して尊厳を踏みにじるような真似をしていただろう。


 だが、そんな小悪党は今日で卒業だ。


「最強の悪役貴族に俺様はなる!」


 両手を高々と挙げ、そう宣言するとメイドがおもらしをしてしまい、結局尊厳を奪ってしまう事になった。すまん。




 俺の考えは単純明快。主人公があくまで正義の立場になるのであれば、俺様は絶対に倒せないレベルの悪になればいいだけ。幸いこのゲームの最後は、何故かヒロイン達を生贄に欲しがる魔王を倒すというもの。

 ならば、俺が魔王を倒し、絶対に倒せない新たな魔王になればいいだけ。


「そうと決まれば徹底的に鍛え直さないとな」


 幸い俺様はまだ6歳。10年あればいくらでも鍛えられる。金だけはあるナリキーン家を最大限利用すれば、魔法の勉強道具も筋トレ機器も成長用アイテムもなんでも手に入るはず! 主人公は無自覚チート主人公だったので、恐らく自主的に身体を鍛えるなんて発想ではなく、なんか凄い村でなんか才能があってなんか強くなったとかそういうののはず!


「クハハハハ! 主人公よ! お前を倒すのは俺様だ……!」


 そのタイミングで運悪くやってきた若い男の使用人も俺様の悪い笑みと声でおもらししてた。すまん。


 まあ、そのくらい無邪気な邪悪というのは身分の低い者にとって恐怖の対象だったらしく、いきなり変わった俺様にビクビクする者ばかり。だが、俺様にとってはどうでもいい。俺様はただ悪役を極めるのみ! ひたすら身体を鍛え続け、魔法を学び、黒などの悪役カラーのお洒落が似合うようかっこいい悪役スタイルを研究し続けた。


 ついでに、両親を除くナリキーン家の「強い」と言われる人間全員と戦いほとんどを倒し自分の力を分からせた。力に優れている者は力で、魔法に優れたものは魔法で、掃除の技術には掃除の技術で、料理なら料理で、金には金で、とにかく分からせた。そして、前世の記憶という卑怯な知識で荒稼ぎした金を使い、家の者、そして、ナリキーン家が治める土地の人間達を従わせた。俺様のナリキーン家の為に働かぬものには金をやらず、働いたものには金をやってより従わせる。金に物を言わせ、とにかく分からせた。

ちなみに、身体の悪い人間なんかは分からせたところで使えないので一度再生や回復魔法で治してから倒し、分からせて働かせた。みんな涙を流していて、悪役冥利に尽きた。


 俺様の悪役っぷりにより、町の人間のほとんどは俺様に従うようになった。

 ただ、メイド長だけは勝てなかった。身体に沁みついた彼女の『お説教』という恐怖が俺様を動けなくさせた。それ以外は全員分からせたから問題ないだろう。


 そして、10年後。


「「「「「「「「「「スティーシお坊ちゃま行ってらっしゃいませ!!」」」」」」」」」」

「クハハハ……まあ、精々俺様のいない3年間を楽しむがいい」


 俺様に従順になった家の者達、町の人間に見送られながら俺様は学園へと向かった。

 泣いている者はつかの間の平和にうれし涙を流しているのだろう。

 恐怖に縛られたのか、金目当てか俺様の従者として学園についてくるという人間が後を絶たないという事件もあったが、強者以外必要ないということを俺様が告げると、武闘大会が開かれた。最終的に勝ち残ったのは、俺様におもらしさせられた二人だったが最初に刻みつけられた恐怖が勝ったという事だろうか。ちなみに、悪役の部下らしく血を血で洗う戦いになりけが人が続出した為、全員を治療してやった。 


 恩を売り手足として働かせるために。


「スティーシ様、学園の者共も『分からせる』のですよね?」

「メイドエー、その通りだ。お前も俺様の右腕にふさわしくなってきたではないか」


 全くなんという適当な名前であろうか。おもらしメイドこと、メイドエー。


 だが、彼女の能力は恐るべき成長を遂げ、メイド長に認められる程メイドの仕事も極め、料理をすればなんでも作れ、掃除をさせれば完璧に、俺様の邪魔を一切しないように音もなく移動・行動が出来、俺様の動きを先読みし事前に動ける逸材となった。勿論、悪役貴族のメイドだ。それだけにとどまらない。彼女は暗殺者としても最高に育った。捕らえたものを料理し、死体の掃除は完璧。物音一つ立てず気付けば殺されている。そんな暗殺者に。


 まあ、ナリキーン家の治める土地では俺様が分からせた奴らばかりなので殺す必要のある人間はいなかったが、よそからやってきた使えそうもない小悪党共を消すのには本当に役立った。ちなみに、山賊や盗賊などもやってくることはあったが、そいつらは俺様直々に分からせて子分にした。いかにも悪役顔したやつらで丁度良くナリキーン家の私兵団に組み込んでやった。


『そんな……親に捨てられ復讐だけを生きがいに生きてきた俺達が……』


 そんな風に泣いていたが知った事か。俺様は悪役貴族。生きがいを奪うのが生きがい。

 金に物を言わせ、ナリキーンの紋章入りの制服を着させてやった。

 なにはともあれ、メイドエーは俺様の右腕にふさわしい悪だ。


「そんな……ふふふ……スティーシ様に褒められるだなんて嬉しくて出そうです……!」


 なんという悪か。学園で漏らそうとは。

 喜びに震えるメイドエーの瞳の闇は深く、俺様にも理解不能な時がある。だが、彼女は俺様に分からされた一人。絶対に逆らわない。なんだったら、自分から奴隷に付ける隷属紋を求めてきたくらいだ。なんか怖かったから拒否した。


「おい、メイドエー。スティーシ様の従者として恥ずかしい真似はするなよ。それより、スティーシ様、学園外の悪党を分からせるのはいかがでしょうか?」

「ふん、お前も分かっているではないか。俺の左腕、シヨーニンシーよ」


 エーとビーはどこに? という感じではあるが、とにかくシヨーニンシーという名前のこの男、コイツも非常に使える男。おもらしはしたがそれ以降何一つ失敗をしない、わたし失敗しませんからドクターなエクスな男。使用人として色んな仕事をこなす男であり、格闘、剣技は勿論ながら魔法も出来、実務にも優れた頭脳明晰男。


「……ふ。やはり私も未熟ですね。ちょっと漏らしました」

「大丈夫か?」

「お任せください。スティーシ様から頂いたお金で買った衣類を濡らせる前に、転移魔法でナリキーン領の下水道に送ってあります」


 何をお任せすればいいのか。というか、いつの間に空間転移魔法まで覚えたのか。

 下水道は俺様が整えた。立派な悪役貴族になる為に環境整備は重要だ。疫病や貧困でいざという時に悪役として力が発揮できないのは以ての外。なので、ちょっと残念なを今付け加えた天才シヨーニンシーと一緒にナリキーン領の経済状況や領内環境は帝国でも最も優れていると言える。奴隷の暮らす場所でさえ最低限の保証をするよう厳しい条例を立ててある。誰であれそれに従わなければ奴隷の没収。ナリキーン家の預かりとなった。


 そして、その奴隷に十分な教育を与え、手に職を付かせ金を稼がせ、条例違反を行った奴らを跪かせるのはなんとも悪役冥利に尽きた。その元奴隷共の教育システムを確立させたのもシヨーニンシーと共におこなった。最強の領にする為には優秀な民を育てることが必須。であれば、最も力を入れるべきは教育だ。現在、ナリキーン領の教育水準は帝国一となっており、帝都や他領からも学ばせてほしいと来る始末。


 なので、帝都にあるこの学園も結局はナリキーン領にある学校のシステムを取り入れ始めており、既に俺様の配下たちを学園の職員として潜り込ませた。


「クハハハ、実に気分がいい。この学園でも悪の限りを尽くしてやろうではないか」

「「……はい、スティーシ様! もう準備は整っております!」」

「おい! ナリキーンの! 貴様!」


 メイドエーとシヨーニンシーの揃った声をかき消す大声で呼ぶ金髪の男。

 そちらに視線を向ければ、取り巻きの男達。そして、金髪男を熱い視線で見つめる女達。


「スティーシ様……アレが、イケメーン=スケコマーシーです」


 耳元で囁くメイドエー。報告の後に優しく息を吹きかけるな。殴るぞ。

 まあ、殴ったところで喜ぶので、俺様にも手が付けられない魔獣であるので今は無視しておく。


「はあはあ……無視されました」


 どうしろと。

 一先ず、イケメーン=スケコマーシーという残念な名前の男の元へ向かおうとすると男は金髪をふわりを掻き上げ笑う。


「私の名は、イケメーン=スケコマーシー! スケコマーシー家の長男だ! この国の八大貴族の一人と言えば成り上がりの家の人間でも分かるかなあ!?」


 キャー! と黄色い声と、俺様を嘲笑う男共の声。

 実に……実に、いい。

 俺様が、嗤いながら近づけば近づくほどさっきの声も次第に小さくなっていく。


 男共は怯えながらも虚勢をはって戦う姿勢を見せ、女どもはひそひそと俺様の顔を見て何事かを呟いている。腹を立てているのか男も女も真っ赤な顔で壮観だな。


「それで帝国設立時のご先祖様の功績を笠に着た女を食い物にするで有名なスケコマーシー家の顔だけ息子が俺様に何の用だ?」

「な……! 貴様、八大貴族を愚弄する気か!?」


 俺様の言った事は間違いではない。まともな貴族など一握り。ほとんどが権力を得て肥え太ってしまった豚ばかり。その中でもスケコマーシー家はレディーファーストなどをほざき美容用品などを取り扱っているが、その裏では奴隷も含めた阿漕な風俗業で領を豊かにする愚弄に相応しい貴族。そして、俺様にとって格好の餌だ。


「おい、スケコマーシー家の豚。いや、豚に失礼だな。ゴミ、耳もゴミなのか、俺様は八大貴族だけでなく、貴様も含めて馬鹿にしたんだ。すぐに理解しろ」


 分かりやすく挑発すると後ろの奴らよりも真っ赤にしたイケメーンが震える手を胸で握りしめる。


「ふ、ふふ……その言葉後悔させてやる。ゴミはどっちなのか、決闘だ! スティーシ!」


 イケメーンが俺を指さし『決闘』を宣言する。俺様は笑みを堪えきれず口元に手を当てる。


「ク、クハハハ! イケメーンよ、いいだろう! 『決闘』だ! 条件は……」


 帝国式の決闘では、決闘を受ける側が『条件』を出すのが常識となっている。勝者が何を得るか敗者が何を失うか、それを決めて戦う力が全ての実に帝国らしいもの。だが、この決闘は16歳以上でなければ認められない。分別のつかない子どもの間でとんでもない賭けが行われ、家が潰れては元も子もない。だから、条件は双方の納得のいくものでなければならない。


「条件は……お前を俺様のものにするということでどうだ」

「……なるほど、私個人の絶対服従という事か」

「まあ、互いに事情もあるだろうから在学中の期間でいい。どうだ?」

「かまわんよ。お前が私の奴隷になるのが今から楽しみだ……!」


 イケメーンも頷き、両者のたてた立会人の承認も得て、決闘が開始される、はずだったのだが……


「やめろー!」


 決闘開始直前に割り込んできた黒髪の男。なんとなく想像はついた。


「僕の名は、リュート! 村から出て来たばかりの小僧だけど、こんな……喧嘩はやめるんだ! この学園の平和は……オレが守る!」


 この一人称が通常時は僕で、決め台詞になると急にオレになる男、リュート。

 これこそがスターオブファンタジアの主人公であり、俺様の大嫌いな主人公様だ。

 そもそも正式な決闘が成立しているのに割り込んでくるのはマナー違反もいいところ。だが、コイツは田舎育ちの主人公様だ。そんなものは関係ないのだろう。後ろからやってくるのは幼馴染か。


「リュート! 待つのです! はあはあ……」


 リュートの幼馴染であり、村を治める領の娘、桃色髪のアキナ。


 確か、村へ馬車で向かっている途中で盗賊に襲われたところをリュートに助けられるという設定だったか。何故盗賊より弱い護衛しかいないのか、そんな弱い護衛であれば領は何故滅びないのか謎は尽きないがとりあえずそういうことで最初にイチャイチャするハーレム要員1。


 盗賊に簡単に襲われ危機に陥るような弱小貴族と思いきや、八大貴族に次ぐ力を持った家の娘というから主人公様のご都合は素晴らしい。その権力でリュートが「オレ、何かやっちゃいました?」な件をどんどんと踏みつぶしていく役割。


 だが、その程度の権力は問題ではない。やはり、問題は主人公様であるリュート。

 飛び込んできた速さも学園生たちは誰も気付けなかったようで驚いている。


「いいかい? 僕は田舎者だから良く知らないけど、みんなながよぶへらあああ!」


 リュートが何か言っていたが気にせず殴る俺様。先手必勝。


「いやあ、すまんな。神聖なる決闘に急に飛び込んでくる無礼なヤツに驚いてしまって思わず殴ってしまった、クハハハ!」

「……え?」


 リュートが親父にもぶたれた事ないのにみたいな顔をしているが構わず俺様は闇の拘束魔法を使いリュートの動きを封じ、そして、


「おい、リュートとか言ったか。この女がどうなってもいいのであればかかってこい」


 アキナの首に腕を回しいつでも締めれると脅す。悪役なのだからこれぐらいは当然だ。


「ちょっと、貴方……わたしを誰だと思っ……」

「貴様の家の事はよく知っている。貴様の家はこの俺様のナリキーン家にどれだけ世話になっているか。それぐらいは流石にピンク頭でも理解出来るだろう? 小娘」


 俺様がそう告げるとびくりと肩を震わせ状況を理解する。アキナの家。グランシュバルツ家には、多くの技術提供と私兵団の提供をおこなっていた。盗賊に簡単に襲われるような領だ。あまりにも貧弱なのは当然。そして、自領をよくするために有望な貴族の力を借りるのも当然。流石にアキナも理解しているようで荒げた声がおさまる。


 俺様がやったのはこれまた至極単純明快。主人公様の周りを弱体化させること。正直主人公には無自覚チート能力しかない。であれば、搦め手で無力化させるのが悪役のやり方だろう。グランシュバルツはナリキーンに足を向けて寝られないほど世話になり、八大貴族にならんばかりの勢いでアキナの父親とは何度も我が領で食事を交わした。裏で手を回しておくのは常套手段だ。

 だが、


「アキナから、オレの大切な人から手を離せよ、クソ野郎」

「……!」


 いつの間にか謎のオーラを出し髪を逆立てて俺様の腕をとり、殴り飛ばしてくる主人公様。

 最後の魔王との戦いで発現させる謎のオーラ、魔王が『その力は……まさか……おのれええええええ!』って叫んで戦闘に入ったので良くは知らない、まさしく謎のオーラを発しながら急に口が悪くなるリュート。なるほどこれは実にご都合だ。

 だが、


「あなた、決闘を汚した上に今最も帝国で重要なお方の腕を乱暴に掴むなんてなんのつもり?」

「それ相応の罰があると理解しているという事でよろしいでしょうか」

「学園の教師のサンゾクディーと申します。平民でありながら特例で入れたからといってやっていいことと悪いことがありますよ?」

「帝都騎士団第二騎士団団長のドレーエヌだ。何があったか教えてもらおう」


 数的有利。それもまたやり方の一つ。

 俺様の周りにメイドエー、シヨーニンシー、サンゾクディー、ドレーエヌがやってきてリュートの前に立ちはだかる。リュートは流石に殴れないようで悔しそうに歯嚙みしている。

当然だろう。


 メイドエー、シヨーニンシーはさておき、サンゾクディーは罪を償い今や学園でも熱血教師として数多くの生徒を救っているし、ドレーエヌは帝都を脅かす事件をいくつも解決し皇帝からも帝都の民からも信頼の厚い男だ。勿論どちらもナリキーン領出身だが。


「くそ! なんでそんな男をかばうんですか!?」


 無自覚チートも大変だ。何も世間のことを知らないままで育たねばいけない。


 コイツはただご都合で世間知らずでただご都合で国を壊せる力を持った謎に正義感のある……迷惑野郎なのだ。


「はあ……いいいい。貴様ら下がれ。俺様が相手をする」


 その一声ですんなりとメイドエー達は下がりリュートの視界に俺様を映す。


「クハハ、来いよ。世間知らずの力持ち」

「バカにしやがって……お前みたいな悪党をオレは許さない!」


 リュートが相変わらず謎のオーラを発しながら俺様に襲い掛かる。光速とはこういうことだろうか。


「だが」

「え? ぶげええええええええ!」


 俺様はリュートの拳を捌き、カウンターに魔力で固めた膝を入れる。自身の攻撃の勢いと俺様の膝の威力で吹っ飛ぶリュート。


「な、なんで……? 確かに、僕は村では一番弱いけど」

「そうだよな……最果ての村の中では弱いリュート君よ。ところで、その村の近くに出来たリゾートには来てくれたかな?」

「……!!」


 そう、俺様は完膚なきまでにリュートを倒す為に、アキナの父親と交渉し、リュートの村の近くにリゾートを開発する計画を立てた。リュートの村は人類最強が集まる村。その村の周りには最強の魔物たちが住んでいる。その為開発は困難を極めたが、俺様を筆頭にメイドエーやシヨーニンシー、その他ナリキーンで鍛えられた猛者たちの協力もありリゾート地は完成した。そして、そこで俺様は血のにじむような努力を続け魔物を倒し続けた。そして、その凶悪な魔物達の倒し方を帝都に伝え、素材を提供し様々なところに恩を売り続けた。


 リゾートに来ていた最果ての村の住人たちにも修行をつけてもらった。リュートはどうやらそういう贅沢には興味がなかったようで現れなかったが。


「最果てで血反吐を吐いて努力を続けた俺様と、無邪気に野山を駆けまわり育ったお前。どちらが上だろうな?」


 勿論、これから更なる覚醒も有り得る。だから、策は何重にもかけてあるが一先ず現時点での実力は圧倒的に俺様が上のようだ。ショックを受けたのかリュートは既に戦意を失っている様子。


「そんな……馬鹿な……だって、オレはスタファンの主人公ポジじゃ……!」


 何事かをうわごとのように呟きながら崩れ落ちるリュート。勝敗は決した。


 まあ、決闘ではないが貴族と平民の小競り合いなど俺様の権力であればもみ消すことはたやすい。俺様はリュートの後片付けをシヨーニンシーに任せ、呆然としているイケメーンの方に笑いかける。


「クハハハ! 待たせたな! スケコマーシーの! さあ、どうする……?」

「あ……降参で。あ、あなたの下につきまあああす!」

「クハハハハ! 良い判断だ! 聞け! 貴様ら! 俺様が、スティーシ=ナリキーンだ! 俺様は誰からの決闘も受けよう! 条件は同じ! 勝者は敗者のものになる! 俺様を倒せばナリキーンのほとんどが手に入るぞ!」


 これに嘘はない。ある程度の財は父に持たせてあるが、それもはした金。いろいろ手を回したお陰で金は何倍にも膨れ上がっており、八大貴族など歯牙にもかけぬほどになっている。

 これを聞けば、欲に塗れた愚か共が、特に悪党共がやってくるだろう。それを全て打ち負かし、俺様の配下に加える。そして、十分な『教育』を施し仲間とする。

 これからあの主人公様には多くのヒロイン達が集まり仲間となる。一人一人がまた圧倒的な実力を持つ美女たち。それらを相手取るにはこちらも仲間が必要だ。ヤツに味方する人間以外全てを俺様の手中に。

 八大貴族も、皇帝さえも!


 これが悪役のやり方だ!


「クハ、クハハハハハハハハ!」




 と、思っていたのだが、


「クハハハハ! いいか! ファナ=ステラ! これは、『敗者は勝者のものになる』! そういう決闘だ! 分かっているな!」

「勿論よ! 貴方が勝ったら、私は貴方のものになる! そういう決闘でしょ!?」

「そうだ! いいんだな! 本当にいいんだな!」

「な、何度も言わせないでよ……ばか……! 貴方がどれだけ帝国の為に戦ってくれたか私だって理解してるんだから……!」


 そう言って頬を染める金髪の美少女が剣を構える。隙だらけで。


 何故だ! 何故こうなってしまった!?


 皇帝の一族の、皇女であるファナは、スターオブファンタジア、スタファンのヒロインの一人だ。それが何故か俺様との決闘を挑んできた。

 いや、挑んでくるのはヒロインとして構わない。だが、リュートとことが起こる前にやってきている! それも一人ではない!


「待ったー! 帝国商会のマナ=マーチャントが先に予約してたはずやで! なあ、大金持ちのスティーシ様!」

「いやいや、魔法の申し子、ハル=ウィザードゥー。ワタシが魔法の革命家スティーシ様とけっこ、決闘を」

「お待ちください。立場で言えば、わたくし、エルフ国の王族、エリス=フェアリアルが最初に、世界の英雄様に好きにされる権利があるはずです」

「貴様ら、確認するが、この決闘の条件は……」

「「「「敗者は勝者のものになる!!!!」」」」

「そ、そうか……分かっているのか」


 分からん! なんだ俺様だけ分かっていないのか!

 いや、窓から見ているリュートも分からないという顔をしている!

 何故だ! 俺様は帝国の全てを牛耳る悪の支配者となったはず。

 経済も政治も教育も食も何もかも俺様の力無しではいられないほどに!


「「「「「さあ、決闘です!」」」」」


 女どもの圧がすごい! あ、リュートが窓から離れてどこかに!

 おい、主人公様よ!


 『敗者は勝者のものになる』という決闘を繰り返す悪役ムーブをかましていたのだが、ヒロイン達がこぞって決闘を挑んでくるんだけど、大丈夫そ?



お読みくださりありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
「敗者は勝者のものになる」ですが、タイトルとラストで逆の「勝者は敗者のものになる」となっています。前後の文章からすると多分間違われたのでしょう。話の実態としては正しそうなのがまた面白い間違いだなと。 …
悪役ではなく良い人ろいうw
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