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真 -進化-  作者: Amanoru
晩春
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4話 風

始業式終了の合図の校歌が聞こえる、中学とは違って始業式の後に授業があるという事実に一致団結して悲嘆する新入生たち。このような、学校から平等に与えられる小さい試練の数をこなすことで生徒と生徒には仲間意識が芽生えるのだろう。しかし逆に試練が多すぎるが故に、仲間意識が芽生えない生徒が異端児となりうる理不尽性もある。まったく学校は素晴らしい、教育の温床だ。わたしたちは教養を欲しているのに。


ぞろぞろと上履きの音を際立たせながら1の4にも人が戻ってきた。わたしと進藤はその時、屋上にいた。何故か。答えは10分前。

国歌斉唱が微かに聞こえて幽体離脱のように寝ぼけた頭から現実に戻ってきたわたしは、急いで進藤を起こして走って体育館に向かった。情けない悲鳴を上げながら飛び起きて、何が何だかわけも分からずについてくる進藤。わたしたちは必死に走った。階段まで来た時、進藤は1階に下るはずの階段を、屋上目掛けて駆け上がり始めた。奇天烈きてれつだ。奇々怪々だ。間違えたでは言い訳にもならない。「なにをしている!???」「!! この上に続く階段は!おそらく屋上に繋がっているぅ!!この学校は私立!、屋上が開放されているのかを!! たしかめる!!」進藤はホンモノの馬鹿であり、面白い型破りな男だということがこの短時間で明らかになった。

だからわたしは今、この男とサボタージュを決め込んでいる。


初日の始業式を寝過ごし、開き直って屋上でくつろいでいる事実は、わたしの今迄の学校人生では考えられないことで、罪悪感をほしいままにした 。

「お前のような型破りな男は初めて見たよ、面白い。バカと天才は紙一重と言うが、お前はどっちなんだろうな」わたしはぶっきらぼうな口調でつぶやくように進藤に話しかけた。進藤はさっきあんなに興奮した様子で奇行に走っていたのに、今では静寂の風の中で黄昏ていた。どうやら騒がしいだけの男ではないようだ。

「俺は、始業式をサボったのか、、初日からこのザマでは、先が思いやられるな」この発言は、おもしろすぎた。わたしは思わず吹き出し、大口を開けて笑った。腹の底から笑うわたしを見て、仏頂面ぢみた顔をする進藤がさらにおもしろかった。

人と人の間には、壁が存在する。その壁は人と人との繋がりを生まれにくくして、関わり合いになる人を勝手に制限してしまう。しかしわたしは思う、その壁を作っているのは自我だ、自分で自分を守るために壁を作っている、人は人が弱い生き物だということを知っているから。

進藤のおかげか、わたしの壁は少し溶けた。言葉は少ないがお互いの感情を露わにしてコミュニケートした。屋上の上には少し蒼の濃い青白磁せいはくじの空、西南西には幽体の月。風の音だけがわたしたちの会話を邪魔していた。

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