2話 息吹
回想終了。とんでもない体験をしたもんだ。わたしの心にはおかげさまで靄がかかりっぱなしだ。「ああ神様、どうかわたしに行動力を」美しい桜と、川とアスファルトとその他の自然に、わたしは願いをこめた。
私立津藤高校は制服がかわいい、この制服を着たいためだけに勉強をした子は少なくないと思う。同じ制服を着た子が増えてきた。目的地にはもう20メートルほどで着く。外界と学校を敷る外壁の上にはみ出している桜のせいで、光る春の風。それに靡く制服の中でも、わたしが1番かわいい。高揚感がそう思わせる。
クラスは1年4組、16番。前後には、「河野あるば、ばれりあ、としんどうさいち、か、前の子はハーフかな」面白くなりそう。生徒用玄関の横の掲示板の前の騒がしい人混みを抜けて自分専用の下駄箱に靴を置く。入学式ぶりに嗅ぐ新鮮な校舎を巡る風の匂い、面白そうな香り。「ドキドキする」わたしの心は青い春色に染まっていた。
まだ開店していない購買、体育館へ続く木目調のプラスチックタイル、少し欠けた壁の端、部活の勧誘チラシや行事予定、校内新聞がはられた大きな掲示板、謎のオブジェ、踊り場の美術作品。全てが良い感じ。
3階の渡り廊下には、新世界よりを吹くトランペットのセーラー服。その横を通り過ぎて向かいの校舎に渡る。緊張。通りすがりに見た校章は青い、どうやら同い年のようだ。何事もなく向かいの校舎に到着、でも扉に手をかけたその時、彼女が話しかけてきた。
「ねえあなた、何組なの?」
わたしは驚いた。驚いて振り返る前に答えた。「ぅよ、4組!」わたしの素っ頓狂な挙動をなんとも思ってない彼女は、スラスラ挨拶を言った。「わたしも4、よろしくね。またあとで」驚嘆と恥と高揚で振り返るタイミングを失っていたわたしは、ここだと思い振り返りながら返事をした。
「よろしくね。ドヴォルザーク」